降り注ぐ夜天光(5)

 跳ねあげ橋の足元で、レオナルドは横たわっていた。

 彼を中心に、黒が円状に広がっている。

 彼の周りだけではない。地面にはぽつぽつと黒い斑点が浮かび上がっていた。

 レオナルドは腹を触る。滑りのある生暖かな液体が、腹から首から溢れていた。本来彩やかな赤であるそれは、地面に広がると共に色を無くし、黒に侵食されていく。

 自分の体から熱が消えていくのを感じる。死が近いのだろう。


さそり野郎が……」


 忌々しく吐き捨てる。

 このまま死ぬのは悔しい。エルアの真意を見れぬまま、世界の行く末を見れぬまま、中途半端に死んでいくのは、どうしようもなく悔しい。


「死にそうなの?」


 声をかけられ、視線を動かす。

 自分を見下ろすように、ケンタウルスが立っていた。

 番人の賢者、ルクバトーラ・キロン。タルタロスへの案内人であった。


「キロン……頼まれてくれないか……」


 口の端から血を溢れさせながら、レオナルドは掠れ声を出す。

 せめてもの抵抗として、本来の目的はこなしたいと考えたのだ。

 キロンはそれを察した。


「子供にそんなこと頼むなんて、あんた達大人って勝手だよね」


「……頼む……」


 キロンは深々とため息を吐き出す。

 跳ねあげ橋が下ろされる。渡れるようになると、キロンは橋を渡り、街へと駆けて行った。

 レオナルドは空を仰ぐ。大きな満月と無数の星々。吸い込まれそうな程に深い濃紺。

 綺麗だと呟いた。


「すまない、レグルス……」


 息子に一目会いたかったが、それは叶いそうにない。名残惜しさを嘆息に変え、レオナルドは目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る