輝きは誰がためのものか(5)
アルファルドは呆然としていた。
アルデバランはあの後、アルファルドに話をして去って行った。その話を受け入れることができない。ただ顔を俯かせ、ぼんやりと死人のような顔をしていた。
宮殿に乗り込んだ時から、濡れ衣を着せられるのは覚悟していた。治癒の術を持つが故に、自分が身体的に傷付けられることは恐れていなかった。
だが、今は……
「浮かない顔してるねー」
不意に声が聞こえ、アルファルドは顔を上げる。そして、鉄格子の向こう側を見た。
「誰だ?」
闇を溶かしたかのようなボブヘアに、ルビー色の瞳。ロリータのワンピースを来た女性が、そこに立っていた。
「エルア……? いや、違う」
幼なじみに似た顔に向かって呟く。だが、幼なじみは死んだはず。
「エルアじゃないよ。勿論、スピカでもない」
彼女は名乗らず、その眠たげな垂れ目を細めて呟く。
「捕まっちゃったのねー。貴方が上手く立ち回ってくれれば、もーっと面白くなったのにー」
歌うようなその口調に、アルファルドは苛立った。
「出ていってくれ」
「えー、こわーい」
「第一、どうやって入ってきた。お前は誰だ」
その女性はウフフと笑って、ドレスの裾を摘み、腰を落とす挨拶をする。
「私の名前も、どう入ってきたかも、それは
アルファルドは口角をぴくりと震わせた。
「チャンス?」
「このままだと危ないんでしょー? だから、はいこれ」
彼女は、ポーチの中から石を取り出す。それを牢の中に投げ入れた。
アルファルドは警戒し、それを遠目に観察する。暗い中でも発光しているそれは、星屑の結晶によく似ている。しかし、色は真っ黒だ。黒い光など、星屑の結晶であれば有り得ない。
「お守りだよー。どんな場所に放り込まれても、それがあれば大丈夫。まあ、代償はあるけどねー」
彼女の言葉を聞きながら、爪先で石を転がす。光っているだけで、危険な様子はない。
親指大のそれを拾い上げて、まじまじと見る。黒い光は、闇の中では目立つが、日光の下では差程目立たないだろう。アルファルドは、それを服のポケットにしまった。
「そう、それでいいの」
彼女はにんまりと笑って、出口へと足を進める。その横顔に向かって、アルファルドは再度問いかけた。
「この石はなんだ。お前はエウレカか?」
彼女は流し目でアルファルドを見、さも可笑しそうに笑った。
「あははー。エウレカ様じゃないよー。お守り、大事に使ってねー」
そして歩き出す。その後ろ姿が薄く
アルファルドは瞬きする。その一瞬のうちに、女性は姿を消した。
「夢か……?」
ぽつりと呟く。しかし、ポケットには石の感触がある。夢ではない。
現実味のない出来事に、アルファルドは黙って立ち尽くしていた。
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