黎明の一番星(4)

 気付けばベッドの傍にいた。

 ここはおそらく、グレイの家だろう。スピカが出かけたその時と同じ状態だった。スピカは今、ベッド脇の椅子に座っている。

 長い夢を見ていたかのような、ふわふわとした感覚。頭はぼんやりとしており、思考は働かない。

 しかしそのような状態でも、アヴィオールのことは忘れていなかった。


「アヴィ、目を覚まして頂戴」


 スピカは、目の前のベッドに横たわるアヴィオールの顔を覗き込んだ。未だに顔色が悪い彼を見ていると、胸が苦しく泣き出してしまいそうになる。


「アヴィ! ちゃんと帰れた? ねぇ、返事して頂戴!」


 スピカはたまらず声を荒げる。

 その声に気付いたのだろう。数人がバタバタと廊下を駆ける足音がした。続いて、部屋の扉が乱暴に押し開けられる。

 やって来たのはクリスティーナ。その後ろに、アヴィオールの両親が続いていた。


「スピカちゃん……あなた、昨日出かけたはずじゃ……」


 クリスティーナは呟く。しかし、スピカの耳にはその声が入らない。ただひたすらに、アヴィオールに声をかけ続けている。


「起きて! 迎えに行ったこと、忘れちゃったの? ねえ、起きてったら!」


 アヴィオールの母が、スピカに近づいて彼女の肩を掴んだ。スピカはようやく気付いたらしく、肩を跳ねさせて振り返る。


「スピカちゃん、迎えに行ったって、どういうことなの?」


「あの、その……」


 アヴィオールの母の顔はスピカを責めているようだった。スピカは怯んでしまい、しどろもどろと言葉を選ぶ。


「スピカを責めないで」


 聞こえた声に、そこにいた誰もが驚いた。

 アヴィオールが薄く目を開き、弱々しく笑っていたのだ。


「アヴィ!」


 スピカはアヴィオールに向き直り、彼の顔を覗き込んだ。

 アヴィオールの顔色は相変わらず悪い。しかし、もう心配はいらないだろう。彼には笑う余裕があるのだから。


「迎えがなかったら、ずっとさ迷ってた。ありがとう」


 スピカはたまらずわんわんと泣き始めた。アヴィオールはぎょっとして、彼女の頭を撫でようと手を伸ばす。


「あー、泣かないでよ」


 しかし頭を撫でられたところで、感極まった涙が止まるはずもなく。スピカは号泣し、落ちた涙がシーツを濡らす。

 それを見た大人達もまた、つられて泣いてしまうのだった。

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