バイオシグナチャーを信じて(2)
蛇使いの宮、その書斎。医学書が整然と並べられているその部屋で、サビクは椅子に腰掛けていた。
正面には、武装したグリードの姿。彼は背中に盾とメイスを背負い、それを隠す為に厚めの
サビクはそれを見て深々とため息をつく。
「本当にやるのかい?」
「叔父上は、このまま見過ごすと言うのですか」
「君は次期賢者なのだよ」
「間違いを見ぬ振りをして、何が賢者ですか。某は、某の意志を通します」
グリードの意思は固い。何を言おうと心変わりはしないだろう。
「彼と共に行くつもりだね」
グリードは黙って頷く。
書斎の外ではワーウルフに見張られている。
おそらくグリードを止める手立てはないだろう。詳しい目的を聞けないまま、サビクは送り出すことに決めた。
「彼らはどうするんだい?」
「いざとなれば力づくで」
サビクは首を振る。引き出しを開くと、小さな皮袋を取り出した。中に粉が入っているそれをグリードに差し出す。
「これは?」
「投げつけるんだ。大抵はそれでどうにかなる」
グリードは袋の中を覗く。ツンとした刺激臭が鼻を刺激する。中身がわかると、顔をしかめてポケットにねじ込んだ。
「頼む。罪深いことはしないで欲しい」
サビクは縋るような声で
「失礼する」
書斎の扉をコツコツと叩く音。グリードが振り返ると、書斎の中にレオナルドが入ってきた。
彼の腕にはワーウルフが一人抱えられている。書斎の入口で見張っていたワーウルフだ。どうやら気絶しているようで、脱力していた。
見張りがいなくなったことで、レオナルドは大胆にサビクに言葉をかける。
「グリードを借りていくが、かまわないな?」
「グリードが行くと言っているんだ。止めるなんてできない」
サビクは許すというよりは、黙認をするようだ。ただ目を閉じて、彼らの存在を自分の視界から除外しようと努めた。
グリードはそれを見て頭を深々と下げる。おそらく見えてはいないだろうが、礼を欠くことはできなかった。
レオナルドは、ワーウルフを縛り上げ書斎の隅に転がした。縄が苦しいのか、時折くぐもった唸り声が聞こえる。その声を無視し、レオナルドとグリードは書斎を出る。
向かう先は、アズテリスモス神殿。そこで即位の儀が行われるとのこと。レオナルドはグリードを連れて、蛇使いの宮を後にする。
「グリード、後悔はないな」
レオナルドは問いかける。グリードはレオナルドの一歩後ろを歩きながら返事をした。
「後悔などありませぬ」
「わかった。なら行こう。そして、どんな罰でも受けようじゃないか」
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