流れて落ちて消えて(5)
アルファルドはモノクルを外し、レンズをハンカチで拭いた。同じ行動を、先程から何度も繰り返しているため、レンズは曇りなく綺麗に透き通っている。
カウンターに座り、苛立ちながら店の扉が開くのを待つ。待ち人は客ではない。スピカだ。
学校が終わり、少なくとも一時間は経過した。昨日倒れたばかりなのだ。てっきり早めに帰ってくるだろうと思っていた。しかし店の前を通るのは、客や近隣住民ばかり。スピカが帰ってくる気配はなかった。
椅子から立ち上がり、店の中を歩き回って商品のチェックをする。もっとも、仕事に集中できていないのだが。
不意にベルが音を立てる。アルファルドは勢い良く振り返る。だがそこにいたのは初老の夫婦、店の常連客だった。
「あ……いらっしゃいませ、バークスさん」
「なんだい、私では不満かね?」
茶化すように言ったバークス氏の言葉に、アルフレッドは慌てて両手と首を振った。
「うわわわっ、申し訳ありません! そういうわけではないんです!」
彼が慌てすぎなくらいに取り乱す様を見て、バークス氏はさも面白そうに腹を抱えた。
「いつも思うが、君は慌てすぎさ。私はこれっぽっちも気にしちゃいないよ」
「いえ……本当に申し訳ない……」
アルファルドは後頭部に片手をやって背を丸めた。
バークス婦人は、アルファルドが何故こんなにもがっかりとしているのか理解したようであった。口元に片手を添えて、小さく声をもらした。
「スピカちゃんのことかしら?」
アルファルドはぎこちない笑みを作る。その表情は、婦人の言葉を肯定していた。
バークスは「ああ、そうか」と声をもらしながら手を打つ。
「今週は
バークス氏の言葉の意味がわからず、アルファルドは目をしばたいた。その仕草を見て、バークス夫妻も目をぱちくりとさせる。
「スピカちゃん、友達と一緒に駅へ向かっていたのだけれど、祈り星を見に行ったんじゃないかしら?心配性のあなたが、祈り星を見に行くのを許すなんて珍しいわねって、主人と話していたのよ」
アルファルドの双眼が丸く見開かれる。次の瞬間、アルファルドは店を飛び出した。
残されたバークス夫妻は、困惑した顔を見合わせていた。
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