第7話 食べ比べ
「ごちそうさまでした!」
「ご馳走さま~。」
夕食を終えた小百合と麻百合はそそくさと2階に上がり部屋へと戻っていった。
「今日は泊まっていってくれるなんて知らなかった!すごく嬉しい!でも何で内緒にしてたの?」
「小百合ちゃん絶対喜ぶと思ってさ、サプライズだよ。驚いたでしょ?」
「うん、びっくりした!まだドキドキしてるもん♪」
ベッドに座って楽しそうに談話する二人。十代女子特有の女子トークが部屋を包み込む。極めて平和な日常風景である。
その頃、箱庭にいる小人たちは次は何をされるのかと脅えていた。一人でさえ脅威な巨人がもう一人いる。しかも昼間には仲間たちを足にくっ付けて磨り潰すという残酷な遊びを何度も続け、数えきれない程の人々を殺していたのだ。
二人はまだ起きている。頼むから早く眠ってくれと箱庭の人々は願い続けていた。
ぐぐぅ~………。
「………。」
「………。」
同時に同じ音が部屋で鳴り響く。
二人同時に鳴ったのでお互い少し恥ずかしがっていた。
「ねぇ麻百合ちゃん……ご飯足りた?」
「ううん、実は足りなかった。でも悪くてさ……。」
食べ盛りだからだろうか、二人は夕食を食べてまだ間もないのに別腹が減ってしまったのだ。恐るべし成長期。
「あ!じゃあさ……こしょこしょ……。」
「ふんふん………おぉ~いいねぇ~♪」
小百合が何かを思いついたようだが、会話の内容は耳打ちしており小人たちには聞き取ることができなかった。
小百合と麻百合はすくっと立ち上がり、なるべく振動を立てないように箱庭へと近付いた。
小人たちは既に建物の中に避難しており、巨人たちの動向を探っていた。
すると背が低い方の巨人が箱庭の手前でしゃがみこみ、小さな声で小人たちに声をかけた。
「ねぇ小人のみんな……今日は酷いことに巻き込んじゃってごめんね……。お詫びに二人でご馳走を用意したから、みんなこれに乗って食べに来ていいよ……。」
優しく丁度良い音量の声が箱庭に響く。そしてもう一人の巨人が何かを箱庭の前に置いた。
それはティッシュだった。巨大な白い布が箱庭の横に隣接したのだ。
背の低い方の巨人が箱庭とティッシュの間にある鋼鉄でできた強固な壁に人差し指を近付ける。巨人が人差し指を壁の上にトンと置くと、強固な筈の壁がへにゃりと凹んでいった。そのまま鋼鉄の壁は巨人の人差し指に押し潰され、ティッシュと大差ない程まで薄くなってしまった。
その光景に小人たちは恐れおののいていた。
「さ、どうぞ……みなさん………。」
長身の方の巨人が微笑みながらティッシュへの移動を促す。
どう考えても怪しい。怪しいが……。
もしこの場でその申し出を断った場合、巨人たちが機嫌を損ねてもっと酷い目に合うのではと、小人たちは危惧した。
結局小人たちは巨人に逆らうことができずに箱庭の住民全てが巨人の持つティッシュに足を運んだ。
箱庭の全住民が何枚かのティッシュに包まれてゆっくりとテーブルの方に運ばれていく。小百合と麻百合は小人たちを傷付けないよう細心の注意をはらって箱庭とテーブルを行き来し、ようやく全員をテーブルに案内し終えた。
小人は何故か勝手に補充されるので、思ったよりも多くの人数が潜んでいたようだ。二人で数えると約5000人もの小人がテーブルの上に集結していた。
………5000人もの人々がたった一台のテーブルの上に乗っている………。
そう考えると、二人のなかで何かゾクゾクとくるものがあった 。
「みなさん、わたしたちの卑劣な行為を許してほしいとは言いません。せめてもの償いとしてどうかこちらの料理をお召し上がり下さいませ………。」
「~~~ッ!」
麻百合が召し使いのような口調で話すので小百合は思わず噴き出しそうになる。
麻百合は夕食の余り物を一階から持ってきて小人たちが食べやすいサイズに取り分けた。………と言っても小人からすると数年はもつような量のおかずがいくつも聳え立っているようだった。
「じゃあみんな、好きに食べ始めていいよ~♪」
「……………ッ!」
お詫びにしては楽しそうに食事を勧める小百合の台詞を聞いて麻百合も噴き出しそうになる。
その後小人たちは彼女らの様子を伺っていたが、しばらくすると食べ物に近付き始めた。
まるでアリが甘いお菓子にたかっているようだ。二人はにやつく口元を両手で隠しながらしばらく小人たちの食事を観察していた。
小人たちは巨人らの様子を伺いながらも、人間らしい食事にありつけたことに内心とても喜んでいた。
この部屋に来たばかりの小人はともかく、運良く最近まで生き残っていた小人たちにとっては久し振りのまともな食事だった。今までは小百合の持ってきたお菓子の食べカスやパンくずばかりだったのだ。
空腹だった小人たちは目の前のご馳走をお腹いっぱい食べ始めた。自分たちが小人になったことをこれほど感謝したことはなかった。
満腹になった小人たちは仰向けになり久し振りの満腹感を堪能した。このような状況でも幸せを実感することができた。絶望しきっていた心がほんの少しだけ和らいだ気がした。
「皆さん如何でしたか?ご満足して頂けたでしょうか?」
高身長の巨人が小人たちの機嫌を伺う。
誰もが味にも量にも大満足していた。皆顔色が良くなり中には気分が良くなって談笑しだす者もいた。
「どうやらご満足して頂けたようでなによりです♪」
「なによりで~す♪」
そう話すと横並びしていた巨人たちはテーブルを囲うように陣取った。
小人たちは今度はティッシュで箱庭まで送ってくれるのかと期待した。腹一杯になり気分が良くなった小人たちに警戒心はつゆ程も残っていなかった。
巨人たちはティッシュではなく手元に置いていた割り箸を手に取り始めた。何を食べるつもりなのだろうか?
「では、今から皆さんが食べ切れなかった食べ物をわたしたちが処分致します。傷んでしまうので……。」
巨人はそう言って巨大な割り箸を操り、つい先程まで我々が食べていたご馳走に箸を運んだ。
我々よりも遥かに大きな食べ物がむんずと箸に挟まれて、軽々と天高くまで運ばれていった。小人たちにとっては建造物程の大きさの食べ物が、いとも簡単に持ち運ばれているのだ。
そして巨大な割り箸に囚われた食べ物は、そのお箸を持つ巨人の口の中へと入れられていった。もう一人の巨人も同様にご馳走を食べ始めた。
我々が群がってかじりついていた巨大な物体が、更に巨大な穴へと運ばれ消えていく。なんとも壮大なスケールだった。
テーブルの上にあったご馳走は一分と持たずに全て二人の巨人によって平らげられた。
「うーん………。」
小人たちが唖然とした表情でいると二人の巨人は何か物足りなそうな顔をしてお腹を撫でていた。
あれだけの量を食べてもなお足りないというのか。巨人の胃袋は底なしなのだろうか。
人々が目を見張るなか、背の低い方の巨人が口を開いた。
「やっぱりまだ足りないなぁ…。あとテーブルの上に残ってる食べ物といったら……。」
じゅるり、とよだれを垂らして我々を見下ろす。一転して捕食者の目付きになる巨人。
蛇に睨まれた蛙というのはこういうことをいうのだろうか。小人たちは巨人の瞳の中に潜む悪意に気付き、まるで石のように固まってしまった。
まさか我々を食べるつもりなのか?
小人たちは咄嗟にもう一人の巨人を見上げた。
「うん、貴方たちしかいないよね~。と、いうわけで!これからわたしたちが貴方たちを食べてあげますね♪あん、可愛い女の子たちの栄養になって死ぬなんて、なんて幸せな人たち♪」
意地悪そうににやつきながら高身長の巨人は小人たちに伝えた。
これはやっぱり罠だったのだ。それも食べられて死ぬという残酷な死の罠。
小人たちは発狂したように逃げ出したがここは高層ビルよりも高い巨大なテーブルの上、更に両端には二人の巨人が上空から見下ろしていた。逃げ場などないのだ。
「あはっいただきま~す♪」
きちんと食事の挨拶を済ませた小百合は割り箸で器用に小人を摘まむ。
ブチッ
「あ。」
ところが小人の身体が割り箸の圧力に耐えきれずに潰れてしまった。
「あー……これはだめだわ。箸越しだと力加減が難しすぎて口に運ぶ前に潰れちゃう。」
麻百合も同様に箸で潰しながら話す。
「もう普通に手で食べようよ麻百合ちゃん。直ならギリ大丈夫だよ。」
小百合は割り箸をポイと捨てると右手を小人の集団に突っ込み、鷲掴みにして口元へ運んだ。
その経過で手に潰されたり高所から落下したりした者がいたが小百合は気にもとめなかった。
「あ~ん。」
大きな口を開ける小百合。
その口元では右手に囚われた小人が小百合のブラックホールのような口を見て悲鳴を上げていた。
口内からは小百合の甘くて熱い吐息が噴き出してきており、上下の真っ白い歯には分厚いよだれの糸が何本も引いていた。そしてその薄暗い奥には真っ赤な色をした巨大な動く肉の床が小人の到着を待ち構えていた。悲鳴が一層大きくなったが、それは小百合には関係のないことだった。
ぱくんっ
「んぐんぐ……うん、美味しい!」
ニカッと笑う小百合。可愛らしい表情だが、その剥き出しになった歯には沢山の小人だったものがこびりついていた。
一方、麻百合は親指と人差し指で丁寧に摘まみ十数人ずつ食べていた。
摘ままれた小人たちからは麻百合の巨大な唇の隙間から巨大な舌が現れ、ぺろりと上下の唇を湿らすのが見えた。唇の口角が上に歪んだ後、小人たちは上唇に押し付けられた。粘着性のある唾液で身動きが取れなくなった小人らは、再び口内から現れた巨大な舌を見て泣き叫びながら舐め取られていった。
テーブル上の小人は次々に姿を消していった。
ある者はテーブルの表面に近付いてすぼめた唇により掃除機のゴミのように吸い込まれていった。
またある者は奥歯まで運ばれた後、勢い良く噛み潰された。
またまたある者は口内で舐めるように弄ばれ唾液の海で溺死していった。
だが一番悲惨な死に方をしたのはそのまま丸呑みにされた者だった。
口内で運良く死なずに済んだ人々は彼女たちが無意識に行う嚥下反射によって、生きたまま食道へと落ちていく。そしてその真下に広がる巨大な胃袋の海に落ちてゆっくりと溶かされていくのだ。そして最後には少女たちの血肉へと生まれ変わる。
ここへ辿り着いたら最後、生き残ることは100%不可能だった。
「ふぅ……もう入らないや……。」
麻百合が先にギブアップ宣言した。2000人程の小人が麻百合に食べられていた。
一方、小百合はまだ余裕だった。
小百合は華奢な身体の割に以外と大飯食らいだった。
「麻百合ちゃんもう食べないの?わたしまだ余裕だよ? 」
口をもぐもぐさせながら喋る小百合。
「わたしはもういらないから、残りは小百合ちゃんが食べちゃっていいよ。」
「え、いいの?やた♪」
残飯処理を任された小百合は目を輝かせる。小百合は食欲に従うままに小人を食べ続け、既に2500人近くを胃袋に収めていた。しかもまだお腹に余裕がある。
残りは約500人程度。どうやって食べようか悩む小百合。
「ん!良いこと考えた!よ~し♪」
小百合はテーブルの上の小人たちを両手で上手く誘導させて手前側のフチに集めさせていく。小百合と小人の集団との間にはぽっかりと崖が広がっていた。
小百合は両掌で足場を作りテーブルの崖にそっと添える。
「乗って♪」
小人たちは戸惑った。喰われると分かってて従う訳がない。だが逆らってもきっと殺される。どっちにしろ死ぬのだ。
「………乗って♪」
もう一度声をかける小百合。
小人たちは考えていた。今すぐ喰われて死ぬか巨人を怒らせて死ぬか。
デッドオアデッドの実質一択だったが、喰われて死ぬのはごめんだった。
「……………んも~。」
いつまで経っても掌に移動しない小人たちを見て痺れを切らした小百合は、片方の手で無理矢理押し出して小人の群れを掌に乗せた。
片手を器のようにして500人前後の小人を口元へと運ぶ小百合。掌にいる500人の小人は目の前に広がる小百合の巨大な唇の前で命乞いを始めた。
小百合は小人たちの泣き叫ぶ声を耳で楽しみながら、掌を下唇につけそのまま一気に頬張った。
口の中で500人の小人がぴちぴちと動き回るのが面白い。活きがいい証拠だ。
存分に口内の感触を堪能した小百合は、たったひと飲みで500人の小人たちを胃袋へと送り届けた。
「ごくんっ……あ~美味しかった♪」
「すごいねぇ、丸呑みだ。」
満足した様子でお腹をぽんぽんと叩く小百合。
今頃500人の小人たちはお腹の中でもがき苦しみながら、じわじわと溶かされているのだろう。少女の朗らかな笑顔からは想像できないような惨劇が胃の中で繰り広げられていた。
「小百合の食べっぷりには参ったね。食べ比べだったら負けていたよ。」
「えぇ!?じゃあ勝負してたらわたし勝ってたの!?」
食べることに専念していた小百合はゲームを提案すら忘れていた。しまったと悔やむ小百合。
「いいよ、今の勝負してたってことにして。それなら小百合ちゃん初勝利だよ?」
「え、いいの!?ありがとー!やった!麻百合ちゃんに勝ったー!」
麻百合の懐の広さに感謝して小百合は元気いっぱいに跳び跳ねながら喜びを身体に表した。
ちなみに、食べ終えてすぐにはしゃぎ続けていた小百合はその後腹痛に苛まれることになるのだが、それはまた別のお話………。
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