第3話 とびっきりの愛情表現

ズズウゥゥン………!



 それは突如として落ちてきた。

 肌色の巨大な指が、空からうねりを上げて落下してきたのだ。

 不意に起きた衝撃に耐えられる筈もなく、指の周囲にいた人々はその風圧によって一気に宙へと舞い上がった。


 そこにいた誰もが理解出来なかった。今起きているこの状況を。

 だがしかし、ひとつだけ確かなことがある。


 この巨大な指の下にいた人たちは、間違いなく死んでいる。

 その事実だけが、否が応でも目の前で証明されていた。


「え………?さ、小百合ちゃん………?」


 人々がざわつき始める。今まで我々が傷付かないように献身的に接してくれていた彼女が、突然街のど真ん中に指を降ろして多くの人たちの命を奪ったのだ。

 何かの間違いであってほしい、少し手元が狂っただけなのだと全員が顔を見上げて彼女の顔色をうかがった。

 彼女は笑っていた。先程と同様の笑顔で自分たちを見下ろしていた。あきらかにわざとだった。

 そう知ったと同時に、あの屈託のない笑顔は優しさからきたものではなく、これから起きる大虐殺を期待したものだと気付いた。

 張りつめていた空気が一気にはじけとんだ。


「う…うわあぁぁあ!!」


「きゃあぁぁぁ!」


 一斉に街の住民全員が彼女の足元から逃げ出した。



 ※



「あははっ♪やだぁみんな虫みた~い♪」


 小百合から見れば蜘蛛の子を散らすような光景だった。ゴマ粒サイズの人間たちが、自分から離れようと必死に逃げ回る。この瞬間がたまらない。


 小百合は街から指を離し、その場でゆっくりと立ち上がった。指先についたちいさな街の残骸がぱらぱらと床の上の街に降り注いでいく。

 そしてそのまま街を跨ぐ姿勢で仁王立ちした。


 今、自分はこの街を混乱に陥れた。でも誰一人として逃げることは叶わない。何故ならこの街には外部への出入り口がないからだ。

 彼らには「街から出た時にわたしが誤って踏まないように」と伝えていたが、実はそうじゃない。逃がさない為だ。最初のうちに街の端側に高い塀を作らせておいたので、既に彼らに逃げ場はないのだ。


 足元の街から微かに人々の悲鳴が聞こえてくる。ゾクゾクする。さぁ、これからどうしてやろうか。しばし思案した後思い付く。


「そういえば、今日はマラソン大会の練習があったんだっけ…。」


 そう言いながら、小百合は立ったまま靴下を片方ずつ脱ぐ。真っ白の靴下はじっとりと湿っており、蒸れて鼻にツンとくる刺激臭を醸し出していた。


「すぅぅ……はぁ……ふふ、いい香り♪」


 汗をかいて臭くなった自分の靴下をくんくんと嗅いで、恍惚とした表情を浮かべる。

 やっぱり自分は変態に違いないと小百合は思った。


「みんなぁ、これから良いものをあげるね~♪」


 そして両手に持っていた靴下を、街の真上からぱっと手放した。



 ※



 ズドオォォォン!!


 上空から降ってきた巨大な靴下は湿っていたせいもあり、より重量感の増した状態で街の中心部に落下してきた。

 汗をたっぷり染み込ませた二足の靴下は、先程に指先で開けた穴よりも広い範囲と破壊力を持っていた。


 街の中心部にあった建物は全て靴下の下敷きになり、まだ中心部からの避難ができていなかった人々も同様の運命を辿った。

 街の外周部はまだ無事な場所が多かったが、被害はそれにとどまらなかった。

 落ちてきた靴下から、強烈な悪臭が放たれてきたのだ。

 蒸れた足の匂いと新陳代謝が活発な十代特有の汗の量が相まってとても濃厚な匂いが、街の中心部から外側に向けて広がっている。

 中心部に近い人間からその匂いに襲われ、身体を捻りながら悶え苦しんでいた。


「お…おえぇぇ~!臭いィ!」


「く、苦しぃ…!息がッ……!!」


 小百合が履いていた靴下が、まるで細菌兵器のように辺りの人間を駆逐していく。まるで地獄絵図だ。

 このままでは全滅してしまう…みんながそう思った瞬間、なにかが匂いの元凶である靴下を天高く持ち運んでいった。


 小百合の手だ。街の一区画を容易に包み込めそうな巨大な右手が、靴下を二足共遥か遠くの床に投げ捨てた。

 徐々に先程まで漂っていた悪臭が消えていく。

「助かったのか…?」と人々がしばし安堵したその直後。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


「い、いやぁぁ!いやぁぁぁあ!!」


 今度は小百合の巨大な素足が空から舞い降りてきた。



 ※



 小百合はまだ被害が少ない場所めがけてゆっくりとその白くて細い脚を掲げ、そして降ろしていった。


「靴下の匂いだけじゃ物足りないもんね~♪ふふっ、はいどうぞ~♪」


 直径2400メートルの超巨大な右足が、街の中に踏み降ろされた。


 ズシィィィィィン!!


 足の真下にあったビルや住宅は抵抗することなく、くしゃりと潰れていった。

 ああ、この足の裏に直に伝わる感触………。何度味わっても心地よい。

 そして、高層ビルやドームを含む数々の建物とそこに住む小人たちが、ただの女の子の素足によって見るも無惨に踏み潰されていくという光景を想像するだけで、アソコがキュンキュンと反応する。


 それだけではない。さっきの靴下の匂いを遥かに越えた匂いの元であるわたしの素足が、街を踏みしめているのだ。

 きっとすごく臭いだろう。でも、この素晴らしい匂いをわたしだけが独占するのはよくない。小人のみんなにも分け与えてあげなければ。

 こうして善意にも似た倒錯した思考が、その想いとは裏腹に小人たちを更に苦しめているという事実を知った上で彼女は愉しんでいるのだ。こんな快楽は他にはない。


 そして、これは小人たちに対しての、わたしなりの愛情表現なのだ。

 自分よりも巨大な十代の女子に弄ばれるというのは、一種のご褒美みたいなものだと思う。自分が美少女だとは言わないけど、一応平均以上の見た目はしていると自負している。

 その上わたしは身長が153センチしかなく、色白で華奢な体型だ。ついでに胸もない(全くないとは言ってない)。

 スタイルとしてはモデルからは程遠いレベル。しかし、だからこそ『ギャップ』があると思う。

 わたしのようなちんちくりんが山をも見下ろすような大巨人になって、大の大人たちを好きなようにしてしまう。

 このギャップに萌えない人はこの世にいないだろう。これ以上のご褒美はない。

 なのでわたしは精一杯みんなの期待に応えてあげるように努めている。きっと小人のみんなも心の底では喜んでくれていることだろう。


「ん………ッ!」


 1週間もオナ禁していたせいか、焦らすのも辛くなってきた。ちょっと早いけど今日はもう本番を始めてしまおう。


 小百合は急いで制服や下着を脱ぎ始めた。



 ※



 街の住民たちは錯乱していた。先程の靴下を軽く凌駕する程の異臭を放つ巨人の素足が落ちてきたからだ。

 一区画すっぽり入るその足はそこにあったもの全てを等しく押し潰し、地の底に埋めてしまった。そしてつま先を中心にその凶悪な匂いで街全体を包み込んだ。


 住民たちは小百合の素足が醸し出す匂いがキツすぎてその場で転げ回っていた。特に、足の指の周辺にいた住民たちは足指から放たれる小百合の体温による夏のような暑さと、着ている服が一気に湿気ってしまうレベルの湿度、更には一番匂うであろう部位からのツーンとくる酸味の帯びた匂いが一体となり、もはや呼吸困難に陥っていた。

 しかも無意識なのか足指が若干くにくにと蠢いており、足指の動きに巻き込まれて潰されていく者や更に強くなった匂いに堪えきれなくなり呼吸が止まってしまった者が後を絶たなかった。


 後はこのまま少女の足の匂いだけで絶滅してもおかしくない。誰もが死を覚悟した。

 しかし、またもや奇跡が起こった。死にいざなう匂いを放つ巨人の素足が、空へ帰還したのだ。何故かはわからないがこれでまともに呼吸ができる。

 まだしぶとく匂いが残っているが、さっきよりは全然ましだ。


 徐々にみんなが冷静さを取り戻すにつれ、遥か上空で起きてる異変に気付き始める者がでてきた。

 あれは何だ………?今度は何をするつもりだ………?

 生き残った人々が、不安そうに空を見上げる。


 ズシィィン!! ズシィィン!!


 街の外側で足を上げ、制服を脱いでいる。左足の靴下も脱ぎだした。


「え………ま、まさか………。」


 そのままの勢いで今度は下着を脱ぎ始める。小百合の足元にいる小人たちは今からこの巨人が何をしようとしているのか理解しつつも、どうかそうでないでほしいと強く祈りながら小百合の行動をただ見上げることしかできなかった。


 そして、その不安は見事に的中した。

 彼女の脱いだパンツからは愛液が糸を張っており、そして小百合の秘所からは大量の愛液が溢れんばかりに滴り落ちていた。


「いやぁぁぁああぁぁ!」


「ひぃぃぃ!誰かぁぁぁあ!」


 彼女が自分たちのいる街を使ってオナニーをしようとしている姿を見て冷静さを保てる者は、誰一人としていなかった。

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