第101話:黒田、決心する!

 夏祭りの後処理が終わると、学園の二学期に間に合わなく恐れがあったため、すぐに王都へ出発した。


 行きと同じように冒険者に護衛され、二週間という長い時間がすぎると、久しぶりに王都に戻ってくる。


 はぁ~、アルヴィは元気かしら。一足先に帰ったジグリッド王子も気になるわ。


 でも、やっぱり天然のルビアが一番心配よね。初めて姉の私と離れて独りで過ごすなんて、耐えられるはずがないもの。きっと寂しくて毎日枕を濡らしているに違いないわ。


 そんなことを考えている間にも、馬車で街中を進み、学園の寮に到着する……はずだった。


「クロエお嬢様、寄り道をしていきましょう」


「待ちなさい。王城は寄り道するような場所ではないわよ」


 突然、ポーラがよくわからないことを言い始めた。なぜか到着した王城に立ち寄ろうとしているのだ。


「気にしてはなりません。たまにはそういう日もあります。クロエお嬢様、行きましょう」


 どうしてもこの流れは変えられないのか、珍しくグイグイ来るポーラに圧倒され、仕方なくついていくことにした。


 何やら変なことに巻き込まれようとしていると理解できたのは、王妃様の部屋に案内されたからだ。


「ほらっ、クロエちゃん。膝の上においで~」


「お戯れが過ぎますよ、王妃様」


 とても嬉しそうな表情で催促されたが、私は丁重にお断りした。


 王妃様の隣でキョトンッとしたルビアを見れば、バブバブルートを進んだのは間違いない。初めて姉と離れる寂しさに耐えられなくなり、王妃様に甘えて過ごしていたのだろう。


 ちょっと羨まし……いえ、夏休みの間に王族との関係を良好にするなんて、ルビアもなかなかやるわね。


 なんとなく二人と話さなければならない雰囲気になったので、長旅の疲れが溜まっていたものの、王妃様と向かい合うように腰を下ろした。


 王妃様がとても残念そうにしているが、さすがに膝の上には座れない。現実でそんなことができるのは、ルビアくらいしかいないだろう。


「お姉ちゃん、ジグリッドくんから聞いてるよ。なかなかいい感じだったみたいだね」


 しかし、久しぶりに再開したこともあり、ルビアの興味が私に向けられている。目をキラーンッと光らせる姿は、恋愛の土産話を期待しているに違いない。


 ただ、私はもっと聞きたいことが溜まっているため、思いきって聞いてみることにした。


「今まで気づかなかったのだけれど、ルビアは……私の恋愛を応援してくれていたのよね?」


「あ、あの恋愛音痴のお姉ちゃんが気づくなんて……」


 疑り深いルビアはすぐにポーラの方へ視線を向ける。が、当然のようにポーラは首を横に振った。


 何も話しておりません、と。


「さすがに私でも気づくわよ。都合よく浴衣まで用意されてるし、明らかにジグリッド王子の視察は変だったもの」


 ハッキリ言って、ジグリッド王子は視察という名目で、デートをしに来たにすぎない。この件については、ルビアと王妃様が手を組んでいる、とジグリッド王子が言っていたため、仕組まれていたのは明白だった。


 なお、黒幕の二人が隠すことはなく、逆に呆れるような表情を向けてくる。


「クロエちゃんの恋愛が進まないから仕方ないわよね~」


「もっと発展してもいいと思うんだけどねー」


 この二人、実は親子なんじゃないかと思うほど、とても息が合っている。年の差を感じさせないあたり、かなり親しい仲と言えるだろう。


 そして、二人とも不敵な笑みを浮かべ始めたことが、妙に怖く感じた。


 私が王都にいない間、コッソリと動いていたに違いない。


「以前からルビアちゃんと話し合っていたことが、ようやく形になりそうなの。もうそろそろ正式にクロエちゃんが聖女になると決まるわ」


 ……ちょっと待ってほしい。それは完全に考えていなかった未来である。


「ルビアが聖女になるのではなくて、ですか?」


「当然じゃない。回復魔法による実績と、剣術大会での知名度を考えれば、クロエちゃんを聖女に任命する以外に道はないわ」


「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ちゃ~んと法改正も進めてるからね」


 情報量が過多になり過ぎて、何度も頭の中で言葉が素通りしていく。


 クロエが聖女になることは、なんとなくわかる。でも、法改正とはなんだろうか。私が聖女になったとしても、法を改正する必要はまったくないのでは……?


 そう思っていると、王妃様とルビアが圧をかけてくるように前のめりになった。


「逆ハーレム、作るわよね?」

「逆ハーレム、するんだよね?」


 とんでもない方向に向かおうとしているとわかった瞬間である。しかも、着実に私がその道を歩いている事実が一番怖い。


「さすがに現実で逆ハーレムは……」


 うっ……と息が詰まるような思いになるのは、ルビアと王妃様の圧が強すぎるからである。


「ジグリッドだけでは物足らないでしょう? だって、クロエちゃんだもの」


 王妃様、自分の子供を低く見過ぎですよ。この国にたった一人しかいない王位継承者なのに。


 あと、クロエだからという理由が謎です。


「逆ハーレムはできるって、お姉ちゃんが言い始めたことだよね? やらないっていう選択肢があるの?」


 確かに、私が逆ハーレムはできると言って、ルビアに押し付けようとした過去がある。そのため、自分に回ってきたらできないとは言いにくい。


 ましてや、このとてつもないプレッシャーが与えられるなかで、ノーとは言えない。BADエンド確定案件であり、幸せな未来に逃れようとしたら……、


「やらないとも言ってませんが」


 逆ハーレムを選ぶしかなかった。完全に二人の圧に押し負けている。


「そうよね。やっぱりクロエちゃんは、男一人じゃ足りないわよね」


 今まで男一人もできませんでしたが。


「お姉ちゃんは、回復魔法・剣術・勉強、どれもトップクラスだもん。逆ハーレムくらいがちょうどいいよね」


 何がちょうどいいのか、誰でもわかるように詳しく説明していただきたい。


 この二人、どうにも変な方向で意見が一致してしまっている。完全なクロエ信者ともいえるだろう。


 ひとまず、唯一正常であろうポーラをちょいちょいっと手招きして、小声で助けを求めることにした。


「ポーラ、どうしたらいい?」


「クロエお嬢様、夢はつかむためにあります。逆ハーレムを目指しましょう」


 グッと拳を握って力強くアピールするポーラを見て、逃げ道がないことに気づく。


 いったいどうしてこうなったのか。知らない間にルビアが恋愛催促属性を持ち、私の逆ハーレムルートを開拓しようとしていただなんて……。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん。夏休みの間にね、準備を整えておいたの。ライルードさんも説得してあるし、アルヴィくんのお家にも挨拶に行っておいたよ」


 人見知りの癖に、無駄に積極的! 姉の恋愛にだけ異常な執着を持つとは、夢にも思わなかった。


「今更やらないなんて……言わないよね?」


 しかも、ルビア特有の闇落ち属性が発動して、逆らえない雰囲気が一番怖い。ここまで来ると、逆ハールート以外に道はないと悟った。


 でも、さすがに男性陣の気持ちを無視してまで、強引に逆ハーレムに進めたくはない。最悪、みんなに嫌われる可能性があるけれど、ハッキリさせておいた方がいいと思う。


 私が聖女に任命されれば、ルビアと王妃様が何をするかわからないもの。それまでに行動して、みんなに素直な気持ちをぶつけよう。


 今まで逃げ続け、曖昧な形で過ごしてきた私にも非があるんだ。最後くらいは勇気を振り絞って、堂々と告白しよう!


 だから、ルビアの圧には負けていられない。どうせ自分で好きな人を一人に絞れないんだもの。


「わかったわ。幸せな逆ハーレムを目指すから、ちょっとだけ時間をちょうだい」

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