悲劇の当て馬ヒロインに転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、運命が変わり始めました~食い意地を張った女の子が聖女と呼ばれ、溺愛されるまでの物語~
第66話:黒田、日直で片付けを余儀なくされる
第66話:黒田、日直で片付けを余儀なくされる
剣術大会の影響が収まり、昼前に体育の授業を受ける私は、平凡な学生生活に戻り始めていた。
学校でルビアと一緒にいる時間が減っているため、男女別で分かれる授業の時に近況報告するのが日常化している。
ちょうど今はハードルの順番待ちで、とても暇だったのだ。
「そういう感じでね、ルベルト先生が貴族と揉めないように、私が治療師として同行することになったわ」
「もったいなくない? 騎士団遠征でアルヴィくんと一緒にイチャイチャすればよかったのに」
「な、何を言ってるのよ。イチャイチャだなんて、そんな……」
いつの間にかセンシティブな妹になったわね。いったい何を考えているのかしら。
やっぱり遠足のイチャイチャイベントと言ったら、あ~ん、されたりとか……いや、ダメよ。さすがにハードルが高すぎるわ。
待って、アルヴィ。タコさんウィンナーを私の口の運ぶのは――。
「いつからかわからないけど、お姉ちゃんは顔に出やすくなったよね」
「へっ!? な、な、な、何も変なことは考えてないわよ!」
しまった。アルヴィといい感じの雰囲気が続きすぎて、常日頃から妄想する癖がついてしまっている。
「気づいてないかもしれないけど、自分で変なことを考えてるって言ってるようなものだよ。これもアルヴィくんの影響なのかなー」
アルヴィがその気にさせてくるという意味では、正解ですね。九割近くは黒田の影響だと思いますが。
「次の組、スタートに付け」
私とルビアの番が来て、先生の合図で走り出す。
クロエの身体能力があれば、風のように駆け抜けてしまいそうだが……、そんなことはない。ハードルを飛ぶたびに遅れ、ルビアに大差で負けてしまう。
やっぱり動き方がわからないと、クロエの体を活かせられないみたいね。剣術大会のようにうまくはいきそうにないわ。
走り終わったルビアと合流すると、いつもとは違う雰囲気になっていることに気づく。
恋する女は綺麗になると言うけれど、最近のルビアは少し変なのよね。大人っぽくなった印象があるのよ。
「ルビア、変わったわよね。昔はもっと天然だったのに、今は随分としっかりしているわ」
「私は頑張ってるだけだよ。油断するとダメになるもん」
「天然は頑張ってどうにかなる問題じゃないわ。何かあったの?」
「お姉ちゃんが背中を押したんじゃん」
「ごめんなさい。強く押しすぎたかもしれないわ」
ムスッとしたルビアの表情は、あまり私に見せる顔ではない。そう、これはルベルト先生に見せる顔である。
どうしよう。ルベルト先生と付き合いが長くて、変な性格がうつった気がする。これは反省した方がいいわね。
「で、グレンとはどうなの?」
「そういうところだよね。背中を押そうとしてる部分」
口だけの反省ですいません。逆ハールートのために、背中をバンバン押そうと思っています。
「でもね、うまくいってると思うよ。剣術大会で半分以上は気持ちが固まったんじゃないかなーって思うの」
「ちょ、ちょっと待って。唐突に勝利宣言してきたわね。剣術大会の決勝の後、な、何があったの?」
「えっ? ……あぁ、お姉ちゃんは恋愛音痴だもんね。まあ、気にしなくてもいいよ。そのうちわかるときが来るから」
もう、ルビアったら~。恥ずかしがり屋さんなのね。隠さなくてもいいじゃないの、このこの~。
「ひ、一つだけ聞かせて。ちゅ、チューはした?」
「心配しないで、してないから」
何の心配なのよ、まったく。それくらい勢いでやっちゃいなさい。
私だったら、絶対にできないけれども!
無事にグレンルートが開拓されることに安堵する頃、ちょうど体育の授業が終わる。多くのクラスメイトが更衣室へ向かうなか、私はハードルを片づけなければならなかった。
悲しいことに、この学園は日直にすべてを押し付けるシステムがある。よって、今日の日直である私が片付ける役目なのだ。
お腹が空いているけれど、こればかりは仕方がない。
「お姉ちゃん、手伝おうっか?」
「大丈夫よ。早く着替えてごはんを食べてきなさい」
体育終わりの昼ごはんほど、楽しみなものはない。だから、ルビアを手伝わせるわけにはいかなかった。
いくら双子の姉妹とはいえ、そんなに大きな仮は作れないわ。自分がやられて嫌なことはやっちゃいけないって、日本で教わったんだもの。
せっせと一人でハードルを片付けるが、そんなにつらい作業ではない。お腹が空いていたとしても、疲れ知らずのクロエの体なので、すぐに作業が終わっていく。
無駄に広い体育館倉庫までハードルを運び、次の人が取り出しやすいように置いてあげて……。
ゴゴゴゴゴッ
そうそうそう、ゴゴゴゴゴッて扉が閉まったりしてね。ん? ……ん!?
「まだ中にいるわよ!」
どうやら聞こえてないみたいで、物凄い勢いでゴゴゴゴゴッと扉が閉まっていく。
これは大ピンチだ。閉じ込められたら、昼ごはんが食べられない。
急いで扉の方へ向かうが、時すでに遅し。ガチャコンッと鍵がかけられてしまう。
「まだ片づけている途中よ!」
ドンドンッと叩いてアピールすると、ドーンッ! と勢いよく蹴り返されたような反応が返ってきた。
「公爵家だからって、調子に乗らないでもらえる?」
……知らない声ね。格下のモブ貴族かしら。
「少しは反省することね。みんなのアルヴィと愛しのジグリッド王子を独り占めしようなんて、百年早いわ!」
それはそう。まったくの同感である。私はとても贅沢な学園生活を送っていると自負している。
だから、きっとわかりあえる。だって、推しが同じなんだもの!
「昼ごはんを食べてから反省するわね!」
「ふざけるんじゃないわよ!」
ドーンッ! ともう一発返ってきたので、どうやらわかりあえなかったみたいだ。
推しが二人も被っていたというのに、昼ごはんの尊さが理解できないとは思わなかった。
遠ざかる足音が聞こえると、私は絶望的な気分になってしまう。
体育の後なのに、昼ごはんが食べられない。せめて、お茶だけでも出してくれたら……。
絶対に無理だわ、と思いつつ、無駄なエネルギーを消費しないようにマットでも取り出そうと振り向くと……?
「すいません。迷惑かけてしまったみたいで」
なぜかアルヴィが一緒に閉じ込められていた。まさかの逆に独り占め事件の発生である。
恋愛イベントにハプニングはつきものであり、閉じ込められたにもかかわらず、黒田に流れが来ていると思ってしまった。
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