第63話:黒田、噂になる
剣術大会に優勝した翌日、学園に登校した私は、とても憂鬱な気分で読書していた。
「このペンにどんな想いを込めて勉強している?」
「領民のためです!」
昨日の出来事がパロディ化され、みんながバカにしてくるのだ。
文句を言えるような間柄でもないし、一部の人間がやっているわけでもない。残念なことに、王都全域で流行り始めていると、噂好きのポーラに教えてもらった。
どうしてこんなことになってしまったのか……。私の見立てでは、剣術大会の閉会式が一番おかしかった気がする。
あれほど試合中はシーンッとしていたのに、閉会式では鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの大歓声だった。だって、声だけで地面が揺れていたんだもの。
正直、観客に手を振る余裕がなくなるほどの衝撃で、真顔のまま閉会式が終わったわ。それはそれで、クールなクロエムーブっぽくてよかったのだけれど。
しかし、あれほどの大歓声送ってくる観客なら、色々と噂を流しているに違いない。
貴族令嬢のゴスロリ女が優勝した、と。
よく考えたら、最高に面白そうな話のネタじゃない。ゴスロリ女が騎士に打ち勝つなんて、二度聞きすることは間違いなしよ。
悪目立ちとは、まさにこのことね。
グレンを助けたかっただけなのに……。まあ、その当の本人はケロッとしているけれど。
「………」
隣の席で腕を組んだまま過ごすグレンは、相変わらず寡黙な騎士だった。
急に人が変わっても怖いし、変にぎこちなくなるよりかはマシだ。今後は剣の訓練をしなくてもいいから、ルビアとグレンをくっつけることに専念できるし、距離は近い方がいい。
まあ、思っている以上にルビアが頑張っているみたいで、その必要もないのかもしれない。
そんなことを考えていると、ガラガラッと扉を開けて、ルビアが教室に入ってきた。やけに疲れているような顔を見せているのは、双子ゆえの宿命だろう。
剣術大会に優勝した私と間違われて、大変な目に遭ったのね。ライルードさんの治療を継続するルビアとは、朝は別々で行動することになったから。
さすがに申し訳ないなーと思っていると、こっちにルビアが近づいてきたので、私は席を立つ。
グレンに癒してもらいなさい、そう思っていたのだが……。
「どこへ行くんだ?」
いつもは何も聞いてこないのに、急にチェックが厳しくなったグレンに問いかけられる。その姿は、明らかに今までとは異なっていた。
王族の命令だから、仕方なく護衛の仕事をしていたはずなのに、今日は違う。私が立ち上がった瞬間に顔を向けてきて、ジッと見つめてくるのだ。
それも、嫌そうな目ではなく、構って欲しそうな子犬みたいな目であって……ツライ。
推しが隣の席で見つめてくるなんて、幸せすぎて逆にツライ。
「授業が始まるまでには戻ってくるわ」
「俺も同行する」
散歩に連れて行ってもらおうと思っているのだろうか。真っすぐとした瞳で訴えてくる。
ルビアを癒してあげてほしいから、席を離れたいというのに。私を癒してどうするの。
ほらっ、本物の飼い主がやってきたわよ。
「お姉ちゃんはお花を摘みに行きたいんだから、一緒に行こうとしちゃダメでしょ。困ってるじゃん」
「そうか……悪い」
ポリポリと頭をかくグレンは、恥ずかしそうに顔を赤くした。
そういった顔もできるようになったのね、と私は驚いてしまう。
剣術大会の一件でグレンが私に興味を抱いたわけでもあるまいし、きっと男泣きするグレンをルビアがうまく慰めたのね。
だって、一言でわからせるなんて、すごい手懐けているんだもの。ジグリッド王子よりも扱いがうまいわ。
二人の恋愛だけでも原作通りに展開が進んだみたいで何よりね、と思いながら、私は教室を後にするのだった。
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