悲劇の当て馬ヒロインに転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、運命が変わり始めました~食い意地を張った女の子が聖女と呼ばれ、溺愛されるまでの物語~
第12話:黒田、専属メイドと昼ごはんを食べる
第12話:黒田、専属メイドと昼ごはんを食べる
王妃様とのお茶会イベントが終わると、平凡な学園生活に戻った。
ルビアが友達と仲良くする姿を見守り、隠れて推しをチラ見する平凡な日々で、私は読書ばかりしている。
日本の厳しいブラック社会を経験した身としては、友達ゼロで過ごしていても、時々ルビアが話しかけてくれるため、とても快適な暮らしだと思えた。
当然、何よりも学園生活で楽しみなのは、昼ごはんである。
みんなが食堂で済ませるなか、クロエは一人で食べる習慣が原作にあったため、私は屋上で昼ごはんをいただくのだ。
汚れないようにシートを敷いてくれるのは、クロエとルビアの専属メイドである、ポーラ・エルステス。
白と黒のメイド服に、ピンク髪をツインテールにした可愛い妹系の女の子になる。その見た目とは裏腹に、五歳も年上という設定にギャップがあり、ゲームでも色々とお世話になっていたキャラだった。
街や学園の噂に詳しい設定で、攻略対象の好感度を教えてくれるの。アイテムの整理をしてくれたり、買い物を済ませてくれたりと、いろいろ気が利く子なのよね。
いつもルビアの部屋で待機していた影響か、この世界でもポーラがルビアの世話をする時間は長く、関りが少なくなっている。そのため、ポーラと一緒に食べる昼ごはんは、クロエにとって、貴重な時間となっていた。
シートを敷き終えたポーラがクッションを置いてくれたので、私はその上に腰を下ろす。
手慣れた手つきでササッと動き、温かいお茶と手作り弁当を出してくれるため、ありがたく食事をいただく。
目の前に腰を下ろす、ポーラと共に。
公爵家の令嬢となれば、我が儘を言ってメイドにお弁当を作らせることくらいは、容易にできるだろう。でも、向かい合って座り、同じお弁当を食べるなんて、普通は考えられない。
転生してわかったのだけれど、クロエはポーラのことをすごく大切に思っているのよね。五つも年上なのに尽くしてくれるから、とても敬意を抱いて接しているの。
私としては、可愛いメイドさんと一緒にごはんを食べられて、普通に嬉しいわ。ポーラの手作り弁当なんて、原作ファンにはたまらないんだもの。
「クロエお嬢様? どうかされましたか?」
「いいえ。お弁当、おいしいわね」
「恐縮です」
主人である私が「おいしい」と言葉にしても、言われ慣れている感じがある。それほどクロエが心を開いている相手でもあるのだ。
おそらく、今まで専属メイドで過ごしてきた彼女との時間を大切にしたいと思い、クロエは食堂で食べていなかったのね。
ルビアが攻略対象たちと食堂で距離を詰めるイベントがいくつかあったから、てっきり本編に登場させたくない運営の都合上の問題だと思っていたけれど、違ったわ。
そして、何よこのハンバーグ! 冷めてもおいしいなんて、どこぞの冷凍食品のから揚げなのよ!
しかも、おからハンバーグでヘルシーだわ!
「口元が緩んでおいでですが、何か良いことでもございましたか?」
おからハンバーグに興奮した黒田が出てきてしまいました。本当にすいません。
「あなたと食事ができて嬉しいだけよ」
「恐縮です」
クロエ! どこまでポーラを褒めているの! メイドなのに、素直に言葉を受け入れすぎているわ!
ぐぬぬっ、となぜかクロエである自分自身に嫉妬し始めてしまうが、こればかりは仕方がない。黒田とクロエの記憶が合わさった影響で、ところどころクロエの記憶が抜け落ちているのだ。
「クロエお嬢様? どうかされましたか?」
「えっ? あぁ、何でもないわ。昔のことが少し思い出せなくて、気になったの」
「意外ですね。クロエお嬢様は記憶力が良いイメージしかございません」
ポーラは褒めてくれるが、それは黒田がゲームをやり込んだ影響で、クロエに反映されていただけにすぎない。本を軽く目を通すと頭痛が起きて、この世界の知識を手に入れていたのだ。
もちろん、公爵家の長女として、貴族の礼儀作法などの勉強はクロエが懸命に覚えたものになる。
「勉強したことは覚えているし、何も問題ないわ。でも、人と関わった大事な記憶を忘れてしまうのは、申し訳ない気持ちになるのよ。一緒に過ごしてきたからこそ、覚えていてほしいこともあるでしょう?」
「お気持ちはわかりますが、すべてを覚えておくことは不可能です。記憶が曖昧になったとしても、
強い絆があるからこそ、禁断の果実は甘みを増し、略奪の被害に遭うのだけれど……、今回はルビアのことじゃないのよね。
「双子なんだもの、ルビアのことは心配していないわ」
「えっ? 記憶を忘れるほど付き合いがあり、クロエお嬢様が関係性を心配される方など、他にいらっしゃいましたか?」
「何を言ってるのよ。ポーラしかいないじゃない」
「わ、わ、私ですか!?」
ポーラは呆気に取られてしまうが、なぜ気づいていないのか、私にはまったくわからなかった。
「どうして驚くのよ。さっきも言ったじゃない。一緒に食事ができて嬉しいって」
「そ、それはそうですが……。ク、クロエお嬢様が本当にそう思っていてくださるとは考えていなくて、最近は急に褒めてくださるので、どうされたのかなーと」
……思っていた感じと違うわね。ポーラのことを褒めた記憶が失われていると思っていたのだけれど、本当に何も言っていないみたいだわ。
ちょっとクロエ! 大事なメイドくらいはちゃんと褒めなさいよ! 身内のメイドに高飛車だと思われるなんて、不器用にも程があるわ!
お弁当を褒めたときのポーラの反応が、ただ警戒されていただけだったなんて、夢にも思わなかった。
ここはしっかり誤解を解いておかないといけないわね。学園で一番楽しみにしている、お弁当に関わる大事部分よ!
ルビアのように慌てふためくポーラの肩をガシッとつかみ、真剣な表情で向かい合う。
「ポーラと一緒に食事ができること、私にとっては大切な時間なの。これからもお弁当、楽しみにしているわ」
「きょ、恐縮ですぅ~……」
ちょっぴりポーラルートを開拓した後、私は残りのお弁当をぺろりと平らげるのだった。
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