小心者共

猫好きの部下が、報告に来た。

二人の遺体の始末が済んだこと。

その二人以外にも、実はクスリをやっていたものが複数人いたこと。

「…そうか。」

「自力で、クスリから抜け出すと言っていますが…」

「無理だろうな」

携帯を開き、登録された番号を探す。

「知り合いで、クスリ抜きと予後のケアをする施設をやっている人間がいる。そこに連絡をつけてやる。…それで更生できなければ、処刑だ」

「…やっぱり。優しいですね」

「うるさい」

連絡はすぐについた。二つ返事で請け負ってくれた。…過去に見逃してやった悪事は一つや二つではない。こちらの頼みも断れないのだろう。

電話を終えてから、部下に向き直る。

「それ以外には、いないんだな?」

「はい。」

「わかった。信じよう」

「それから…」

少し言いよどんでから、部下が続けた。


「俺たちは、広津さんについていきます」


何を言うかと思えば…。


「俺たちは、昼の世界で生きられねぇ、そもそもがはぐれ者です。どうしようもねぇ俺たちを拾って束ねてくれているのが、ここ、ポートマフィアです。俺たちは、暴力を貨幣とし、命を削って生きていくことしかできねぇ。それが嫌なら、無理したって昼の世界の隅っこで、細々と生きていきゃよかったんだ。それに背をそむけた俺たちに残された、ただ一つの道がマフィアです。そんな俺たちを、守ってくれているのも、マフィアです。そして俺たちの目の前で、俺たちを引っ張って行ってくれているのが、百人長。あなたです。」


…涙目になりながら言うことじゃないだろう?


「だから、…死んだやつの戯言など、気にしないでください。

 俺たちは、ここで命を張る覚悟が、できています」


深々と頭なんか下げるんじゃない。


「言いたいことはそれだけか?」

「いえ。あと、もうひとつ」

「なんだ?」


「あいつらの、苦痛を、

 終わらせてやったのは、

 やっぱり、百人長の、優しさです」


鼻水まですすってるじゃないか…


「…もう、下がれ」

「はい。失礼します」


部下は、心なしか顔をこちらに見せないようにして、踵を返し、去っていった。



「そんなものでは、ないのだよ」

贖罪にすらならん。

私のとがは、そんなものでは消えない。


部下を守れずして、何が百人長か。

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