第52話 ティドラの森 掃討(迎撃)戦④
◇冒険者side
「<ファイア・エンチャント>!」
スキルを使用し、剣に炎を纏う。
この魔法剣こそが、魔法剣士の真骨頂である。
「ハァッ!」
ヴァンパイアは俺の斬り下ろしを紙一重で躱す。
しかし、斬撃は躱せても炎の余波は躱せなかったようで、少なからずダメージを与えることに成功する。
「<ターンアンデッド>!」
さらにシンヤから神聖魔法の援護が入るが、これは余裕をもって躱されてしまう。
もっとも、これは最初から織り込み済みだが……
「<スラッシュ>!」
「っ!?」
回避先を予測して放たれたスキルが、ヴァンパイアの腹部に命中する。
炎の刃は肉を引き裂き、同時に焼き焦がすことで激痛を与えるハズだが、ヴァンパイアは声一つ上げない。
ただ、その表情には驚きの感情が混じっていた。
「……魔法剣とスキルの同時使用か。器用な真似をするな」
「このくらいのこと、Bランク以上の魔法剣士なら誰でもできる」
魔法剣士は、剣士から派生する二次職に過ぎないが、三次職にランクアップをしないことによるいくつかの特典がある。
その一つが、この魔法剣とスキルの併用だ。
魔法剣には、使用している最中は他のスキルを使用できないという制限があるのだが、魔法剣士のままレベル61以上になると、この制限が解除されるのである。
この制限こそが魔法剣最大の弱点であったのだが、それが取り払われたことで、攻撃における選択肢が一気に増えた。
周りが三次職に転職する中自分だけが転職できないのは少し堪えたが、得られたメリットは十二分にあったと言える。
「<スラスト>!」
剣士のスキルである<スラスト>も、魔法剣の効果のお陰で威力が倍増している。
しかも、ただでさえ躱し難い刺突に炎の余波まで加わる為、完全に回避するのは至難の業だ。
「チッ!」
ヴァンパイアはスラスト自体の回避には成功したが、やはり炎の余波までは躱しきれなかった。
そしてその表情からも、確実にダメージが入っていることが伺える。
「まだまだぁ!」
俺は、通常の斬撃とスキルのコンビネーションでヴァンパイアを追い詰めていく。
ヴァンパイアはアンデッドである為、多少なりとも炎が有効だ。
俺の攻撃で周囲の木々にも炎が引火し、徐々に逃げ場を削っていく。
「やるな、人間! だが!」
ヴァンパイアの体が歪み、次の瞬間無数のコウモリへと変化する。
そしてその全てのコウモリが、俺に向かって飛んできた。
「クッ!」
視界を覆うような面の攻撃に虚を突かれるが、反射的に数匹のコウモリを切り裂くことにだけは成功した。
しかし――
「無傷、か……」
俺を通過して再び姿を現したヴァンパイアは、ほぼ無傷。
ダメージは服くらいにしか入っている様子が無い。
(この技を多用されたら厄介だな……)
「シンヤ! <アンセム>を!」
「アンセム……? っ! そういうことですか!」
俺の意図をすぐに察したシンヤが<アンセム>を使用する。
「成程。そういうことか。中々頭が回るな」
「教本に載っていたことを実践しただけだ」
「ふむ。では勤勉と言い換えよう」
<アンセム>は、アンデッドや死霊などに効果を及ぼす範囲魔法だ。
低級のアンデッド相手であれば、これだけで一網打尽にできるほど優秀な魔法である。
しかしその反面、ヴァンパイアのような高位のアンデッドには効果が薄く、ほとんどダメージを与えることができない。
では何故そんなスキルを使用したか?
それは先程もヴァンパイアが使用した、<分化>への対応の為である。
<分化>は自身を分解し、細かい眷属へと姿を変えるスキルだが、この眷属一匹一匹は低級のアンデッドに分類される為、<アンセム>の影響を受けるのである。
つまり、これでヤツの<分化>は封じられたということだ。
「……認めたくないが、どうやら私だけでは貴様らの対処はできないようだ。ならば
「っ!?」
援軍だと!? いや、それよりも今、予定通りと言ったか……?
「<ダークボール>」
ヴァンパイアの指先から下級闇魔法が放たれる。
こんなもの、避けるまでもなく魔法剣で斬れるが、何かの布石である可能性もあるため敢えて躱す。
すると今度は、ヴァンパイアの前に魔法陣が出現する。
(なんだ……? 何かのスキルか……?)
そう思って警戒していると、魔法陣から何かが飛び出してきた。
「ふぅ、出番が来ないかと心配したぜ」
「なっ……」
魔法陣から現れたのは、なんと一匹の人狼であった。
一体、これはどういう……
「マズいぞヒムロ君! 敵の正体がわかった!」
「敵の正体って、どういうことですかサイセツさん!」
「今のは、間違いなく召喚魔法だ! つまり敵はサモナー……、魔族ということになる!」
サモナー……、魔族だって……?
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