第51話 ティドラの森 掃討(迎撃)戦③



 ◇冒険者side





 サイセツさんの言った通り、後方よりゴブリンが現れた。

 ただ、予想外だったのはその数である。



(ざっと見ただけでも、100体以上いるんじゃないか……?)



 ランダムエンカウントで現れる魔物の数は、多くても10体程度というのが一般的な認識だ。

 だというのに、今回現れたゴブリンの数はそれを明らかに超えている。



「……やはり、近くに潜んでいたのか?」


「それはあり得ないだろ! <サーチ>を掻い潜れるゴブリンなんて聞いたことないぞ!」



 ……マサズミの言う通りである。

 森に入ってから、アスカは常に<サーチ>を起動していた。

 もしあのゴブリン達がどこかに潜んでいたのであれば、必ず<サーチ>に引っかかっていたハズである。

 <サーチ>を掻い潜れるようなゴブリンがいれば話は変わってくるが、その可能性は限りなく低い。

 ……同じような事例はないが、やはりランダムエンカウントなのだろうか。



「ヒムロ君! 今は理由について考える時ではない! 目の前の敵に集中するんだ!」


「っ! はい!」



 不測の事態に気を取られるのは俺の悪い癖だ。

 まずは目の前のことに集中しよう。



「はぁっ!」



 魔法を掻い潜ってきたゴブリンに、上段からの斬り下ろしをお見舞いする。

 しかしゴブリンは、それをギリギリながらも小剣で受け止めてみせた。



「チィッ! このゴブリン共、思ったよりもやるぞ!」



 前方から迫ってくるゴブリン達は、どうも後方のゴブリンとは雰囲気が違う。

 レベルの高い個体なのか?



「っ!? ヒムロ殿、このゴブリン達、バフがかかっています! それも解除できない……。これは、常在型の補助効果です!」


「常在……!? まさか、統率者がいるのか!?」


「恐らく、それしかないかと……」



 統率者がいるのであれば、この強さにも納得がいく。



「これが、冒険者が行方不明になった原因ってことか!?」


「可能性は高いな……」



 相手が統率者……ゴブリンリーダーやゴブリンキングであった場合、Cランク以下の冒険者パーティではひとたまりもないだろう。

 Aランク冒険者ですら、数に押されれば厳しいのだ。俺達だって他人事ではない。



「しかし、それだけでは偵察チームまで戻らなかったことの説明が付かない。……恐らく、まだ何かあるぞ」



 ヒースは何かを感じ取っているのか、しきりに周囲を警戒している。

 暗殺者のスキル、<第六感>が何か警告を発しているのかもしれない。



(一体これ以上、何が来るっていうんだ……)



 統率者だけでも十分に脅威だというのに、まだ何か潜んでいる……?

 だとすれば相当危険な状況だ。



「ヒムロ! 前方にゴブリンとは違う反応! 多分オークと……、何かわからないけど、馬のような……」


「……馬? っ!?」



 疑問を返すと同時に、俺の視界にもそれらしき姿を視認する。

 あれは……



「ケンタウロスだ!」



 ケンタウロスは、人狼などと同じ獣人の一種だ。

 過去にモンスターと認定され、討伐対象とされた悲劇の亜人種であり、絶滅したとされている種族だが……、何故こんな所に!?



「<金剛>!」



 ケンタウロスの強烈な突進を、マサズミがスキルを使って何とか受け止める。

 しかし、その突進力は殺しきれず、そのまま押されて木に叩きつけられてしまう。



「クッ……」


「マサズミ!」



 俺はすかさず助太刀に向かおうとする。

 しかし、その間に割り込むように、複数のコウモリが通過していく。

 コウモリはそのまま、俺の周囲を飛び回り、まるで嘲笑うかのようにキーキーと泣き喚いた。



「クッ! なんだこのコウモリは!」



 俺は追い払うように剣を振り回すが、コウモリはヒラリとそれを躱しつつ、そのまま目の前に集まって一つの塊と化す。

 その塊はやがて人のカタチとなり、その正体を現した。



「野蛮だな。人間」


「ま、まさか、ヴァンパイアか!?」


「そうだ」



 ヴァンパイアは、アンデッドの中でも高位に位置づけられる魔物だ。

 ランクでいえばB~S。これは、まずい……



「シンヤ! 全員に<祝福ブレス>を!」


「はい!」



 既に準備をしていたのか、シンヤからパーティメンバー全員に<祝福ブレス>が付与される。

 <祝福ブレス>の効果は身体能力の向上及び、アンデッドに対する耐性の付与で、対アンデッド戦では非常に効果的なのだが、果たしてヴァンパイア相手にどれ程の効果があるか……



「ヒムロ君! クッ……」



 サイセツさんがこちらに助太刀にこようとするが、未だゴブリンの数は多く、持ち場を離れられられそうにない。

 しかも事態はさらに悪化しており、後方からはゴブリンに加えてスケルトンまで出現している。

 このままでは一気に瓦解しかねない。



「タマとアスカはサイセツさんと一緒に後方の処理を! タクヤはマサズミを助けてやってくれ!


「「「わかった!」」」



 陣形を崩すことになるが、今はそれよりも目の前の脅威に対処することが先決だ。


 タマの魔法であれば、後方の殲滅はなんとかなるだろう。

 あのケンタウロスも、マサズミとタクヤの二人がかりであればしのげるハズ。

 残った俺とヒース、シンヤは、このヴァンパイアの対処だが、見た所このヴァンパイアからはそこまでの脅威を感じない。

 シンヤの援護があれば、俺一人でも十分に対処は可能と判断した。



「ヒースはシンヤの護衛を頼む」


「わかった」



 状況は悪いが、まだ絶望的と言える程ではない。

 この程度の苦境であれば、俺達は何度も潜り抜けてきた。

 今度も必ず、生き残ってみせる……





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