第50話 ティドラの森 掃討(迎撃)戦②



 ◇冒険者side





 森への進行は順調だ。

 今のところ何も起きていないし、各パーティからもそれらしい報せは出ていない。

 元々『ティドラの森』は平穏なマップである為それも当然なのだが、警戒していただけにこれ程何もないといささか拍子抜けである。



「アスカ、索敵には何も引っかかっていないか?」


「全然。ティドラすら引っかかっていないわ。やっぱり中心部までいかないと反応は出ないかもね」


「……いや、油断するのは良くないかもしれないよ?」



 アスカの言葉に、サイセツは少し警戒した様子で応える。



「サイセツさん、何か感じ取ったんですか?」


「臭いを少々。この臭いは、恐らくだけどゴブリンか何かが潜んでいる感じがするね」


「え!? 臭いでそんなことがわかるんですか?」


「慣れてくるとね。もちろん<サーチ>より精度は低いが、風下に立てばこのくらいのことはできるようになるよ」


「凄い! 流石サイセツさん!」



 本当に凄いと思う。

 これが熟練者の成せるワザなのだろうか?


 サイセツさんのジョブは軽騎士という少し変わったジョブだ。

 騎士から派生する上位職なのだが、攻撃力も防御力も中途半端なのが特徴で、その分簡単な回復魔法や索敵術などが使えるようになっている。

 ただ、それらは専門職の方が当然優れているため、あまり人気が無いジョブであった。


 それでもサイセツさんが優秀な冒険者とされる理由は、こういったスキルとは関係ない技術を多数習得しているからだ。

 それらの技術はスキルで補えない、痒い所に手が届く技術ばかりで、俺達は新人時代、それに何度も助けられた。



「しかし、ゴブリンか……。『ティドラの森』にはあまりいないかったハズだが……」



 そう言って警戒を強めたのは、暗殺者のヒースである。

 彼はそのジョブゆえか、違和感のようなものに非常に敏感だ。



「まさか、そのゴブリン達が冒険者パーティを襲っていたってこと?」


「その可能性は十分にあるね。ただ、ゴブリンだけに偵察隊がやられるとは思えないが……」



 サイセツさんの言う通りだ。

 ただのゴブリン相手に、熟練の偵察隊がやられるとは思えない。

 仮に苦戦したとしても、情報だけは持ち帰るのが偵察隊の仕事だ。

 なりふり構わず逃げの一手を打ってさえ、ゴブリンから逃げきれないというのは流石に考えづらい。



「……いずれにしても、気を引き締めよう。最悪、ティドラとの混戦も想定して隊列を組む。サイセツさん、後衛をお願いできますか?」


「わかった引き受けよう」



 現在の隊列は、魔法剣士の俺と軽騎士のサイセツさんが前衛、中級マッパーのアスカと高僧のシンヤ、暗殺者のヒースが中衛、中級魔術師のタマとモンクのタクヤ、重騎士のマサズミが後衛を務めている。

 これを、サイセツさんとマサズミを入れ替え、より後ろからの奇襲に対応するかたちにチェンジした。



「異変があったら、すぐに教えてください」



 サイセツさんはコクリと頷き、気配察知に集中する。

 俺とマサズミも前方に集中し、注意深く前へと進んでいった。



 そして、森の中心部近くまで来た辺りで、各パーティの探知職が反応を見せる。



「ヒムロ! <サーチ>に反応! ゴブリンと、多分オーク!」



 アスカが反応するのと同時に、俺も視界にゴブリンらしき姿を捉える。

 正確な数はわからないが、思ったよりもかなり多い。



「見えているだけで、恐らく30以上はいる。……いや、他のパーティも反応してるってことは、もっといるぞ」



 俺もマサズミと同じ見立てだ。

 この感じだと、見えているだけとは到底思えない。

 一体何故、こんな数のゴブリンが……



「っ! 奴らが動いたぞ! 全員戦闘態勢!」


「「「「「「「おう!」」」」」」」



 まず最初に、マサズミが<ヘビースラッシュ>で前方の木々を薙ぎ払う。

 これで範囲攻撃を木々に阻まれることがなくなったので、俺は遠慮なく範囲攻撃を放つ。



「<ウィンドスラッシュ>!」



 居合のような構えから、大きく剣で切り払う。

 ゴブリン達はまだ剣の間合いに入っていないが、何匹かのゴブリンが唐突に両断された。

 <ウィンドスラッシュ>による風の刃が、ゴブリン達を切り裂いたのだ。



「よし、特殊な個体はいないようだ! このまま魔法剣で削っていく! 打ち漏らした敵の対処を頼む!」



 魔法剣は範囲も広く使い勝手はいいが、若干のクールタイムが存在する。

 その間俺は通常の魔法で対応するが、打ち漏らしは必ず出てくる為、それらの対処をマサズミ達に任せる。



「ヒムロ君! 悪い報せだ! 後方からもゴブリンの群れが現れた!」


「なんですって!?」



 俺達は森の外からまっすぐここへ向かったんだぞ? それなのに何故、後方からゴブリンの群れが現れるんだ!?



「恐らくランダムエンカウントか何かだろう! なに、十分想定していた範囲内だ!」



 確かに、帰らなかった偵察隊がいたことから、ランダムエンカウントの可能性は想定されていた。

 だからこそ後ろもしっかり警戒していたのだが、まさか本当に発生するとは……


 まだ十分対処できる範囲内ではあるが、これからの戦闘に一抹の不安を感じざるを得なかった。



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