第49話 ティドラの森 掃討(迎撃)戦①
◇冒険者side
現在、この『ティドラの森』の外周には、俺達を含め20組の冒険者パーティが集まっている。
各パーティの構成人数はバラバラだが、大体100人以上は集まっているのではないだろうか。
中々に壮観な景色である。
「ヒムロ君」
「ん……? って! サイセツさんじゃないですか!」
声をかけてきたのは、ギルドの職員であるサイセツである。
今回は大規模な作戦である為、ギルドからも人を出すと言っていたが、どうやら彼がその人材のようだ。
「ギルドからも人を出すと聞いていましたが、サイセツさんだったんですね」
「本当は他にも候補がいたんだがね。結局私が適任ということになってしまったよ」
サイセツは元Aランク冒険者だ。
現役を退いてから久しいが、体はしっかりと鍛えているようで、雰囲気からは衰えを感じさせない。
「サイセツさんであれば俺としても安心ですよ」
「はは、そう言ってもらえるのはありがたいね」
サイセツは謙遜したように笑うが、俺は別にお世辞のつもりで言ったワケじゃない。
この人の実力は、今でも現役のAランク冒険者に匹敵すると心から思っている。
「それじゃあサイセツさんは、俺のパーティに入ってもらえますか?」
「それは……、私は構わないが、君のパーティメンバーは嫌がるんじゃないか?」
「まさか。ウチのメンバーでサイセツさんを拒むヤツなんていませんよ」
パーティメンバーは皆、過去にサイセツさんの世話になっている者ばかりだ。
その実力についても十分理解しているので、歓迎こそすれ拒否などしないだろう。
「……そうか。それではお世話になるとしようかな」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
思わぬところで頼もしい助っ人を手に入れてしまった。
今回の作戦は色々ときな臭いものを感じるので、ベテランが入ってくれるのは大変助かる。
「ヒムロ!」
頭の中で簡単に陣形の組み立てを行っていると、パーティメンバーであるアスカが森から戻ってくる。
「アスカ、どうだった?」
「何も問題無し。森はいたって平穏よ」
「そうか……」
ギルドが出した偵察チームの調査結果でも、『ティドラの森』の異変は確認できなかった。
しかし、実際に冒険者パーティがいくつも行方不明になっているのは確かであるため、何かが起きているのは間違いないだろう。
その何かがわからないのが、一番の問題なのだが……
「やはり、実際に入ってみないことには何もわからなそうだな」
「でしょうね。そもそもギルドの偵察チームでも何も発見できなかったんだから、今さら私達が何か探ったところでわかるハズないのよ」
それもそうだ。しかし、だからといって何もしないのは許されない。
こういうのは集団行動の弱みだな……
「それより、なんでサイセツさんがいるワケ?」
「ああ、今回の作戦のためにギルドから派遣されたらしい。俺達のパーティに入ってもらうから、挨拶しておいてくれ」
「本当に!? やった! これで今回の作戦も安泰ね!」
「おい、嬉しいのはわかるが、それじゃサイセツさんがいなきゃ安泰じゃなかったみたいだろ」
「だって、不安だったのは間違いないし。ヒムロはまだまだ頼りないところあるから、ベテランが一緒なのは安心するわ」
「頼りないって……」
自分でも重々承知しているが、はっきり言われるとやはり傷つく。
「あ、冗談だからね? ベテランがいて安心するのは嘘じゃないけど♪」
ウィンクしながらそう言って、アスカはサイセツの方へ駆けていく。
調子が良いなと思いつつも、冗談と言われて少しだけ安心してしまった。
……なんとも情けないことだ。
(……それでも俺は、俺達はこの作戦の代表に選ばれたんだ)
だからしっかりしなければ、と両手で頬を叩き気合を入れる。
「みんな聞いてくれ! 調査も無事完了したことだし、これより『ティドラの森』へ突入を開始したいと思う! 各パーティはそれぞれ配置についてくれ!」
森への突入は各パーティごとに一定の感覚を空けつつ、横並びの状態で行われる。
これは、前衛と後衛とで分かれた場合、公平性がないという意見が多かったからだ。
俺達は軍隊ではなくそれぞれ独立したパーティでしかないので、こればかりは仕方のないことだろう。
……まあ、訓練もしていない俺達が変に連携を取ろうとしても、上手くいかないことは目に見えている。
むしろこの方が安全と言えるかもしれない。
配置が完了するのを確認次第、俺は上空に向けて火炎魔法を放つ。
それを合図に、各パーティは森へ突入していく。
「よし、俺達も行こう!」
「「「「「おう!」」」」」
こうして、『ティドラの森掃討作戦』は開始された。
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