第48話 静かなる開戦



「それでは、俺はこれで行く」


「はい。色々とありがとうございました」


「……礼ならあのヴァンパイアの小娘に言うのだな」



 ヴァンパイアの小娘とは、ドーナさんのことだろう。

 確かに彼女にもお礼を言うべきある。

 しかし、実際に戦力を貸し与えてくれたグルガン将軍にも感謝するのは当然だろう。



「グルガン将軍が応じてくれたお陰で、スケジュールにかなり余裕ができました。本当に感謝しています」


「……フン、それよりククリのことはくれぐれも頼んだぞ。いざとなれば、俺を呼んで構わんからな」


「そうならないよう、努力します」



 結局、グルガン将軍とは本当に召喚契約を結ぶことになった。

 扱いはギアッチョさん同様、いざという時の助っ人枠だが、果たして頼る場面が来るのだろうか……

 ギアッチョさんですら手に余る戦力だというのに、見せてもらったグルガン将軍のステータスはそれ以上に度肝を抜かれる数値であった。



 名前:グルガン

 レベル:625


 種族 :龍人族

 職業 :龍王

 HP :5000000

 MP :850000

 STR:2500

 AGI:3500

 VIT:4100

 INT:2150

 DEX:3200

 LUK:1850


 スキル:龍化 LV20、突進 LV20、殴打 LV20、ブレス LV20、龍王 LV8



 これに龍化のHP、STR、VIT倍化がかかるのだから、どう考えてもチートクラスだ。

 こんなの、普通に戦ったら勇者でも勝てないんじゃないかと思う。

 もしこの力が人類に向けられたら、人類なんてあっさり絶滅してしまうのではないだろうか……



「グルガンよ、前線はまだ膠着状態なのか?」


「ああ……。だが、必ずや打ち勝ってみせる。だから安心して待っているがいい。……魔王陛下」



 取ってつけたようにそう言い、グルガン将軍は背を向ける。

 グルガン将軍は43支部ができてから魔王軍に加わった幹部らしいので、まだザッハ様とは打ち解けていないのかもしれない。



「親父!」


「ククリよ、また寂しい思いをさせることになるな」


「いいんだよ! レブルがいるから平気だ! それに、レブルが召喚したら、いつでも会えるんだろ!?」


「……そうだな」



 召喚を使えば、距離的な問題は解決される。

 ククリちゃんを任せる条件として、グルガン将軍が召喚契約を結ぶよう求めてきたのは、そういった理由からなのだろう。


 そんな簡単なことに、僕は言われるまで全く気付かなかった。

 確かにそれなら、親子の時間を作ってあげることも十分可能である。


 ただ、心臓に悪いので、僕としてはあまり来ないで欲しいという気持ちが強い。

 ククリちゃんの笑顔のためならいくらでも我慢できる……と言いたいところだけど、毎日あのプレッシャーを浴び続けては胃に穴が空きそうだ。



「今度こそ行くぞ。……達者でな」



 そう言い残し、龍化したグルガン将軍は、凄まじい速度で飛び去ってしまった。



「親父……、やっぱりカッコいいな!」


「そうだね。あれぞ一軍の将って感じがする」



 さっきまでの情けない姿を知っているだけに少し複雑なところはあるが、立ち直ったグルガンさんは威厳のある振舞いで僕の目から見てもカッコいいと感じられた。



「ではレブルよ。私も戻るので、後のことは頼んだぞ」


「はい、魔王様」



 ザッハ様がわざわざ見送りにきていたのは、グルガン将軍とのコミュニケーションの為だったのだろう。

 新しい部下との関係構築には、やはりそれなりに気を遣っているのだと思う。





 ……さて、僕は僕で、自分の仕事にとりかかるとしよう。

『ティドラの森』へ送り込む兵士の選定、作戦の説明と意識合わせ、装備の手配など、まだまだやることはたくさんある。

 翼竜のお陰で時間に猶予ができた分、ギリギリまで煮詰めさせてもらおうか。





 ……………………………………



 …………………………



 ………………





 そんなこんなであっという間に日は経ち、いよいよ冒険者達による『ティドラの森』掃討の当日となる。

 僕達は早朝から演習場にて待機しているが、冒険者達はまだ『ティドラの森に』足を踏み入れる様子がない。



「コイツらは、森の前でウジウジと何をやっているんですかね?」



 一向に動き出さない冒険者達に痺れを切らしたのか、リウルさんが僕に話しかけてくる。



「多分偵察だと思います。中級マッパーが何人かいるみたいだし、まずは森の外から探知を行っているのかと」


「ってことは、既に魔物が配置されているのがバレちまってるってことですか?」


「いえ、中級マッパーの索敵範囲では、森の中心部までは探知できないハズです。ある程度森に入るまでは察知されることはないでしょう」



 仮に察知されたとしても、配置されてるのはほとんどがゴブリンだ。

 これだけの規模の討伐隊が警戒するようなレベルではない。



「リウル殿、そのようなこと、レブル様なら当然織り込み済みですよ。ですよね? レブル様」


「そうですね。ただ、いずれは察知されますので、打ち合わせ通りガクさんには先にアチラに行ってもらいます」


「承知しております。……それでは、そろそろ私も準備いたしましょう」



 初期配置の魔物をゴブリン中心にしたのは、ガクさんの<統率>を活かす為だ。


 予め配置する戦力は、警戒されないよう強過ぎず弱過ぎずというレベルが求められる。

 ガクさんの能力は、今回の作戦においてまさに適材と言えるだろう。



「100体以上を率いての実戦は私も初めてですので、腕が鳴りますよ」


「頼りにしています。……冒険者達が動き出しましたね。それではガクさん、手筈通りよろしくお願いします」


「承知しました。必ずやお役に立ってみせましょう」



 僕はその言葉に頷き、彼を現地に送り込む。



 ……こうして、初の大掛かりな戦い、『ティドラの森・冒険者迎撃戦』は静かに開始された。



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