第45話 臨時会議
ドーナさんの報告で、『ティドラの森』掃討作戦の詳細なスケジュールが判明した。
「2週間後か……」
「既に1ヶ月以上先送りされているみたいだし、妥当なところでしょうね」
この世界における時間の単位は、基本的に前々世の世界と同じである。
年が旧暦の360日であるくらいしか違いがない。
だから2週間後というのも、14日後と言い換えることができる。
「それだけあれば、少しずつ兵士を送り込むのも可能ですね」
ワールドマップには同時に20体までしか兵士を送れないという制限がある為、ある程度は直接現地に向かってもらう必要がある。
「しかし、一度に移動させては人間側に勘付かれるかもしれんのぉ」
「それについてはグルガン将軍に、何人か龍人族を送ってもらえるよう手配しておきました」
「っ!? 成程! 翼竜で空輸するんですね!」
僕は馬車か何かで陸路の輸送を考えていたが、魔王軍には30メートルを超す龍が何体もいるのだから空輸が可能となる。
龍の機動力であれば、移動の時間もかなり節約できるだろう。
それにしてもドーナさん、空輸の手配までしてくれていたなんて、本当に優秀な人だなぁ……
営業職でありながら、それ以外の仕事もマルチでこなすとか、でき過ぎなんじゃないだろうか。
僕の中では、営業職ってお調子者なイメージが強かったけど、ドーナさんを見てから印象が大分変った気がする。
「それで、肝心の人材についてはどうなっている?」
「人事部の方では活きのイイ新人を見繕っておいたわ。ステータスはこんな感じだけど、どうかしら?」
クーヘンさんはそう言って僕に資料を渡してくれる。
早速資料に目を通すと、そこにはステータス平均100超えくらいの獣人、ハイオーク、それにインキュバスやケンタウロスなど、10人くらいのデータが記されていた。
「これは……、ステータス的にも丁度良いと思います。よくこんな程よい人材を見つけられましたね……」
「そこは人事部の力を信用して頂戴よ? こう見えて、人材管理は得意なんだから♪」
確かに人材のことなら人事部の得意とするところなのだろうけど、ここまで適した人材を用意してくれるとは思っていなかった。
ドーナさんのことといい、頭が下がるばかりである。
……誘惑的視線を送ってくるのはやめて欲しいけど。
「ワシの方はレイスを1体とワイトを2体生成しておいたぞい。3体ともステータス平均200を超えておるので少し過剰かもしれんが、まあ量より質ということで勘弁してくれ」
「そんな、とてもありがたいです!」
戦力は多少過剰なくらいであれば大歓迎である。
場持ちの良いユニットはそれだけで有用だし、不利な盤面を覆すのにも使えるため重宝できるだろう。
……それにしても、そんな配下をあっさり生成してしまうとは、ワラビーさんって人間目線だとかなりヤバイ存在なんじゃないか?
こんな能力を持っていたら、それこそ魔王と勘違いされてもおかしくないレベルな気がする。
「……俺の方は5人ほど若いヤツを見繕っておいた。あとでお前の部屋に寄こすから好きに使え」
「っ! ありがとうございます!」
これで18人! Bランククラスのユニットがこれだけいれば、かなり戦略の幅が広がるぞ……!
「それから、これも貸し出してやる」
そういってシューさんは足元から何かボンベのような物を取り出す。
「これは?」
「これは野生のモンスターが嫌う
「っ!? そんな便利な物があったのですか!?」
「当然だ。見回りをしている俺達が襲われては面倒だからな」
言われてみればその通りである。
野生のモンスターは、別に全てが魔王軍の所属というワケではない。
そういったモンスターは、時に同じモンスター同士でも攻撃してくることがある。
しかし、魔王城周囲の見回りや防衛をしている担当者がそれらに一々対処していてはキリがないだろう。
(そもそも、人間側の敵であるモンスターをこちらで処理するというのも変な話だしなぁ。ちゃんと対策はしてあったってことか……)
改めて魔王軍の設備に関心させられてしまった。
「成程。色々お気遣いいただき、本当にありがとうございます!」
「礼はいい。その分、結果で応えてみせろ」
「はい!」
シューさんはぶっきらぼうだが、漢気のある良い人だ。
第一印象は怖かったけど、今となっては信頼のできる先輩のように思えている。
「レブルよ、各地に派遣している下級兵士については、何組かを一時的に戻るように通達をしておいた。数日以内には数も揃うであろう」
「ありがとうございます、魔王様。皆さま方も、本当にご協力感謝いたします」
皆さんの協力のお陰で、スケジュール通りに準備が進められそうだ。
中でも兵士を空輸できるのはかなり大きい。これのお陰で、兵士の派遣がギリギリにならないで済みそうである。
「それでは本日の会議はこれで閉会したいと思います。お集まりいただき、ありがとうございました」
◇グルガンside
――臨時会議から数日後、魔王城に3体のドラゴンが到着する。
「お前達は人事部へ向かい到着を報せろ!」
「「ハッ!」」
引き連れてきた配下二人にそう告げると、足早に自室へと向かう。
久しぶりとなる娘との再会に、自然と胸が高鳴った。
自室に到着するなり、勢いよく扉を開け放つ。
「ククリよ! 今帰ったぞ!!!」
しかし、父の帰還を喜ぶ娘の姿はそこにはなかった。
「む……? こんな早朝から、ククリはどこへ……?」
朝食でも取りに行ったのか? と、今度は食堂を探しに行くも、娘の姿は見当たらない。
そのままあてもなく業務区画をグルグルと彷徨っていると、魔王の秘書官であるギアッチョと出くわす。
「ギアッチョ殿!」
「おお、グルガン将軍、お戻りになられたのですか」
「空輸用の人員を渡すついでにな。……ところで、つかぬことをお聞きするが、娘のククリを見なかったでしょうか?」
「ククリさんですか? それでしたら――」
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