第44話 ククリちゃんと戦闘訓練



 初めて冒険者狩りをしてから数日が経った。

 あれからも毎日ではないが冒険者狩りは何度か行い、冒険者達の反応を確認している。

 明らかに反応が変わったのは二回目の冒険者狩りから二日後のことで、初心者パーティが全く出現しなくなった。

 代わりにそれなりの熟練冒険者が出現するようになったが、彼らは恐らくギルドから派遣された偵察チームか何かだろう。

 僕はそれを様子見しつつ、狩れそうであれば狩るようにした。

 そしてそれを1~2回繰り返すと、最終的に冒険者パーティは全く現れなくなった。



「……ということは、やはり効果は出ているってことですね?」


「はい。侵入させている部下の報告では、冒険者ギルドはかなり慌ててスケジュール調整を行っているようですね」



 そう回答する彼女は、営業部の部長であるドーナさんである。

 彼女はどうやらヴァンパイアであるらしい。

 見た目としては、ショートカットの髪形に整った顔立ち、そしてスラっとした体形で、なんと言うかデキるキャリアウーマンや秘書というような感じであった。

 ……いや、この仕事ぶりから見ても、間違いなくデキる女性なのだと思う。


 まとめられた資料に目を通すと、そこには『ティドラの森』への討伐隊募集に関する情報や、予定されていたスケジュール、現在の状況などが細かに記されていた。

 僕が行っている冒険者狩りによる影響については今口頭で説明を受けたが、それについてもしっかり資料にまとめられているようである。



「資料にはまとめておきましたが、討伐隊の中心となるパーティには既に声がかかっており、計画自体もそれなりに進められておりました。しかし、今回のレブル殿の対応により、本当にそのパーティで問題ないかなどが議論されているようです」



 先日狩った偵察隊と思われる冒険者パーティは、恐らくCランク以上であることは間違いない。

 それが2パーティ程戻らなかったというのは、流石に冒険者ギルドも見過ごせない内容だったようだ。

 ギルドは『ティドラ』……『森虎猫』が中心部から出て来たのではないかだとか、それ以外の脅威が出たのかだとかで揉めており、Aランク冒険者に偵察に向かわせることも視野に入れているらしい。


 Aランク冒険者が出てくれば厄介ではあるが、仮に出てきたとしても冒険者狩り目線ではスルー対象なので問題はない。

 問題なのはAランク冒険者が討伐隊に編成される場合だけど、今のところそこまでの話にもなっていないようだ。

 というのも、既に中心となる冒険者パーティは決まっていたせいか、今さらそれを変更するのは少々問題があるという理由で揉めているらしい。



「……僕が人間だった頃は知りませんでしたが、利権とかそういうのって、やっぱりどこの世界でもあるんですね」


「勿論あります。ウチと人事部などは、特にそういう話が多いです」



 人事部はスカウトなども行っているようなので、条件提示なども含めて、派遣する部署との兼ね合いのようなものがあるのだろう。

 営業部も、取ってきた仕事などの条件を各部署とすり合わせをしたり、色々ありそうだ。


 冒険者ギルドにも、やはりそういう面があるのだろう。

 今思えば、実力以上にもてはやされているパーティというのは何組か見たことがある。

 あれは政治的な意味があったり、人気的な意味からスポットを当てられたパーティだったのだろうな……



「しかしそうなると、これ以上の刺激は悪手になりそうですね」


「そうですね。今現在、討伐隊の中心とされているパーティはBランクでも上位のパーティですので、これ以上のパーティを編成するとなるとAランク以上になる可能性が高いでしょう。今後は手を出さず、様子見だけするのが賢明かと存じます」


「そうします。ではドーナさん、引き続き、冒険者ギルドの監視をお願いします」


「承知しました。それではこれで」



 ドーナさんはそう言って、速やかに部屋を出て行ってしまった。

 クールな女性である。

 しかし、出したクッキーは全部食べていったので、そのギャップがなんだか少し微笑ましい。



「レブル! 話は終わったか!?」


「うん。お待たせククリちゃん」


「おう! じゃあ行くぞ!」



 そう言って、最早定位置と化している僕の肩に飛び乗るククリちゃん。

 本当にやんちゃな幼児のようだが、彼女の見た目は前々世で言えば小学生~中学生くらいだ。

 この世界に法律などがあれば、ちょっとした事案になっていたかもしれない。



「……そうだね。今日もよろしく。ククリちゃん」





 ……………………………………



 …………………………



 ………………





「たぁ!」



 ククリちゃんの飛び蹴りを、僕は盾を使ってしのぐ。

 反動で後ろに跳んだククリちゃんは、着地後即座に<突進>を仕掛けてくるが、これも盾を使って対処する。



「ぐっ……」



 しかし、流石にスキルなだけあって、先程の跳び蹴りよりも遥かに威力が高く、衝撃が体まで突き抜けてくる。



(やっぱり、スキル攻撃を防ぐのは、相当ステータス差が無いと厳しいな……)



 先日、サムソンの<突進>を受けた時には、ここまで衝撃は貫通してこなかった。

 やはりスキルレベルとステータスの差は、スキル自体の威力に大きく関わっているらしい。



「おりゃあ!」



 ククリちゃんは突進で僕にたたらを踏ませてから、盾を避けるように回り込んで蹴りを放ってくる。

 僕はなんとか反応して腕で受けるも、体勢が悪く、踏ん張りきれずに倒れ込んでしまった。



「とどめだ!」


「わー! ストップストップ! 降参するよ!」


「えー!」



 えー! って、ククリちゃんは僕を殺す気かな……?

 いや、ステータス的には全然平気なんだろうけど、顔を踏み抜かれたら流石に死ぬんじゃないかと思ってしまう。

 ステータスは絶対だとわかっていても、こればっかりは未だに慣れないな……



「ごめんね。でも、頭は狙わないでくれるかな? 僕はビビリなんだよ」


「じゃあ、今度は腹を狙うようにするぞ!」


「……それでお願いします」



 本当は腹だって怖いけど、そこまで怖がっていては訓練の意味が無くなってしまう。



 ――そう。現在僕とククリちゃんは、一対一で戦闘訓練を行っていたりする。

 理由はもちろん戦闘能力向上の為である。


 いくらサモナーや魔術師でも、資本となるのは自らの体だ。

 職業適性でスキルは授からなくとも、ある程度の戦闘力はつけておくに越したことがない……というのが冒険者時代の教えだった。

 全くもってその通りだと思う。

 いざとなった時、最後に頼るのは、やはり自分の体になるのだから。


 それで、なんでわざわざククリちゃんと戦闘訓練を行っているかというと、単純に僕とククリちゃんのステータスが近いからだ。

 僕の現在のレベルは30に上がり、ステータスはこのようになっている。



 名前:レブル

 レベル:20→30


 種族 :魔族

 職業 :サモナー

 HP :30000→38000

 MP :4500→5250

 STR:650→680

 AGI:650→680

 VIT:700→800

 INT:1800→2100

 DEX:1200→1280

 LUK:300→400


 スキル:魔獣召喚 LV2→3、死霊召喚 LV4→5、ゴーレム召喚 LV2、魔蟲召喚 LV2→3、契約召喚 LV1



 対してククリちゃんは2レベル上がりこんな感じだ。



 名前:ククリ

 レベル:50→52


 種族 :龍人族

 職業 :無し

 HP :30000→32000

 MP :1500→1550

 STR:500→550

 AGI:800→850

 VIT:600→650

 INT:200→210

 DEX:400→420

 LUK:1500→1550


 スキル:龍化 LV2、殴打 LV6→7、突進 LV6→7、ブレス LV2



 想像よりも僕のステータスの伸びが良く、ククリちゃんのステータスを平均的に上回っている。

 恐らく僕が特殊な魔族なのだからだろうけど、前衛職でもないのにこのステータスはかなり異常だ。

 それを活かしきれるセンスも技術もないから、宝の持ち腐れではあるのだけど……


 まあ、そんなワケでお互い訓練相手としてはもってこいなので、ここ2~3日は空き時間を使って二人で組手のようなことをしているのであった。

 基本的に僕は守るだけで攻めないけど、最低限防御の技術が上がればいいので問題ないだろう。

 本当はククリちゃんにも防御の練習をさせてあげたいけど、そこはリウルさん達に任せようと思っている。



「レブル! もう一回だぞ!」


「ええ!? ちょっと休もうよ!」


「ダメだぞ!」



 問題は、ククリちゃんが元気すぎることである。

 この調子で10回くらいは付き合わされるため、精神的な意味で参ってしまいそうだ。



(基本幼女にボコられるだけだからな……)



 せめてもう少し自分も攻められたら……と思うも、ククリちゃんに攻撃するのはどうしても躊躇われる。

 結局、今日もボコられるだけの日になりそうなのであった……



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