第43話 父性



「ふぅ……、これでほぼ完了、かな」



 ワールドマップ上では、冒険者のアイコンが粗方消えた状態になっている。

 ここから状況が覆ることはまずないだろう。



(案の定包囲を抜けた冒険者が出たけど、リウルさん達がしっかりやってくれたみたいだし)



 凄い速さで包囲を抜けたアイコンが出現したときは驚いたけど、予め少し離れた位置に召喚しておいたリウルさん達が対処してくれたみたいである。

 アイコンがほぼ一瞬で消えたから瞬殺だったのだろうけど、そのせいで消化不良になっていないかが少し不安だ。


 現在僕の周りには誰もいない状態になっている。

 全員をキレイに使いきったかたちだ。

 正直ククリちゃんが出る必要は全くなかったのだけど、今日は出番があるみたいなことを言った手前出撃させざるを得なかった。



(ククリちゃん、冒険者を手にかけるのって初めてだったと思うけど、大丈夫だったかな……)



 ククリちゃんには東にいた3人パーティの方に行ってもらったのだが、ゴブリン10体程度に手こずるような初心者パーティだったので、ククリちゃんの投入は完全に過剰戦力であった。

 ゴブリン達にじわじわとなぶり殺されるよりはマシだったかもしれないけど、いきなり幼女に襲われて、彼らはどんな感想を抱いただろうか……



『レブル様、少し宜しいでしょうか?』


『なんでしょうガクさん』


『この冒険者の女達ですが、持ち帰っても宜しいですか?』


『持ち帰るって、どうする気ですか?』


『手駒の兵士達に与えます』



 与えるとは、つまりそういうことなのだろう。

 ゴブリンやオークに人間の女が襲われたり攫われたりなんていうのは、冒険者時代にはよく聞く話であった。

 捕まった女達は巣に持ち帰られ、死ぬまで犯され続けるのだという。

 奇跡的に巣穴から助けられた場合も、既に廃人と化していることがほとんどで、その後正常な生活に戻れることはほぼないのだとか……



『……駄目です』


『そうですか……。これで餌付けするのが、人心掌握をする上では最も楽な方法なのですがねぇ』


『そうかもしれませんが、それが当たり前になるのも少々困ります。確か<統率>では、強い意思や本能、欲望を持つものは律せませんよね』


『おっしゃる通りです。確かに、戦うことより女を犯すことを優先されては困りますね』


『はい。ですのでその二人は……、できるだけ楽に死なせてあげてください』


『わかりました』



 その返事の直後、残っていた二つのアイコンが消失する。

 できるだけ楽に、というのは僕の自己満足でしかないが、何であれ、いたぶって殺すのは性に合わない。

 冒険者時代も、わざわざモンスターをいたぶって殺すようなことはしなかった。

 今の僕も、同じ考え方でいいと思っている。



(さてと、今度こそ全ての冒険者の処理が終わったみたいだし、みんなには戻ってきてもらおうか)





 ……………………………………



 …………………………



 ………………





 会議室を借りて今日の感想戦のようなことをやった後、本日はひとまず解散となった。

 監視アラートが鳴ったらまた声をかけることになると思うけど、それまでは基本自由時間である。

 仕事としてそれはどうなのかなとも思うので、今後はそういった部分に関しても考えていきたいところだ。


 それから、僕自身のトレーニングについても考えなければいけない。

 スキルやレベルに関しては仕事で勝手に成長していくが、実際の戦闘力に関してはそうもいかない。

 ステータスの伸びは種族による補正が大きいのでほとんど手出しできない領域だが、戦闘の知識や型、一対一で対峙したときの対処方法など、学んでおくべきことはたくさんある。

 その辺りの指南も含めて、後でギアッチョさんに相談しようと思う。



「レブル、レブル、これはなんだ?」


「ああ、これは武器屋のマークだね」


「武器屋ってなんだ?」


「武器を売っているお店のことだよ」


「へ~」



 ククリちゃんは現在、ワールドマップを操作して色々な街の様子を観察しているところだ。

 彼女にはある程度自由にリモコンを操作してもらうため、ワールドマップの参照権限を与えている。

 参照権限は文字通り、参照のみができる権限で、転送や設定などの操作はできない為、安心して遊んでもらうことができるのだ。



(……この調子なら、多分なんとも思ってなさそうだな)



 初めて冒険者を手にかけたことで、何か影響を受けてないかとしばらく様子を見ていたのだけど、どうやらなにも感じていないようである。彼女もやはり、僕と同様そういったことに関して何も感じないのかもしれない。



「人間の住んでいる所って、色々あるんだなぁ~」


「そうだね。魔王城にはないものが結構あるかもね」



 魔王城には想像していたよりも遥かに色々な施設があるけど、流石に武器屋などは存在しない。

 武器や防具は基本全て備品を使う為、個人使用の装備は存在していないのである。

 一応軍なのでそういう面があるのは当然だが、オリジナリティのあるユニーク武具などが無いのは少し残念だ。

 ……いや待てよ? もしかしたら、幹部なんかはそういう装備を持っているのかもしれない。

 僕に渡されたワールドマップも、ある意味特殊装備ではあるのだから。



「ねえ、ククリちゃんのお父さんって、何か特別な武器を持ってたりしないの?」


「あるぞ!」


「あるんだ。どんな武器?」


「なんか凄い槍だ。凄くゴツゴツしてる!」



 それだけではどんな槍かはわからないが、備品にはそういった見た目のものは無いので、やはりユニーク武器の類なのだろう。

 そういうの持ってるユニットって、是非欲しいな……

 っと、ついついゲーム脳で考えてしまった。でも、やっぱり憧れるのものは憧れてしまう。



「ククリちゃんのお父さんは凄いんだね。僕も会ってみたいよ」


「おう! 親父は凄いぞ! 親父は五本の指に入るとか言ってた!」



 ククリちゃんは意味がわかっていなさそうだったが、それは凄い情報だな。

 五本の指に入るということは、恐らくギアッチョさん以上のステータスなのだろう。

 正直恐ろしいが、味方であるのであれば大歓迎である。


 ……ただ、そのお父さんと良い関係が作れるかどうかについては、は正直怪しいところだ。

 僕は今のところククリちゃんのお父さんに対して不信感を持っているし、お父さんはお父さんで幼い娘が若い男の配下に加わったことをあまり良く思わない可能性もある。



「レブル、そろそろお腹が空いたぞ!」


「そうだね。じゃあ、ご飯に行こうか」


「おう!」



 こんな可愛い子を放任……、いや、放置しているグルガン将軍のことは、やっぱり好きになれそうにない。

 帰ってこないなら帰ってこないで構わない。

 ただ、その間に彼女がどう育っても、後から文句は言わせない。


 ククリちゃんは、僕がしっかりと育ててみせる!





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