第41話 冒険者狩り②



 ◇冒険者side




 冒険者達の朝は早い。

 特に、俺達のような低ランク冒険者は早朝こそが主戦場だと言えるだろう。



「今日も良いポイントが押さえられたな♪」


「押さえられたな♪ じゃねぇよ! なんで今日も薬草採取なんだよ!」


「そうよテル! 俺達もそろそろ転職だし、明日は手頃なモンスター討伐でも受けようかって昨日言ってたじゃない!」



 仲良くツッコミを入れてくれたのは、1年前から一緒のパーティを組んでいるスギとカオリだ。

 ツッコミを入れながらも、なんだかんだしっかりと付いて来てくれたことが嬉しい。



「それは午後にでもできるだろう?」


「そうだが! だからと言って薬草採取まで受けることはねぇだろ!」



 確かに、レベル上げのことだけ考えるのであれば、薬草採取クエストなんか受けなくても問題無い。

 むしろその時間をトレーニングに割いた方が、余程建設的だろう。

 しかし、俺がわざわざ薬草採取クエスト受けたのには当然意味がある。



「ギルド評価も上がるんだしいいだろ? それに、俺達が普段使っている回復薬だって、こうして薬草採取をしている冒険者がいるからこそ安定供給されているんだからな?」


「そうでしょうけど、何も今更私達がやることないじゃない……。ねぇ、タクとアミもなんとか言ってやってよ!」



 そうカオリが声をかけると、黙々と薬草を採取していた二人が振り向く。



「私は、薬草採取好きだよ?」


「俺は、リーダーの指示に従うだけだ」



 二人はそう返すと再び薬草採取に集中し始める。

 それを見たスギとカオリは顔を見合わせた後、やれやれといった感じで首を振る。

 そしてため息を吐いてから、二人に倣って大人しく薬草採取をし始めた。



 俺達は、結成から1年目のギリギリ初心者を脱したくらいのパーティだ。

 パーティメンバーは半年前に盗賊のタクが加入した以外は、結成当時のままである。

 剣士の俺と弓術士のカオリ、そして格闘家のスギと僧侶のアミは、アカデミーを一緒に卒業した同期でもあり、これまで特に不和などは起こさず仲良くやれている。

 冒険者パーティとしてのランクはDだが、メンバーは全員が既にレベル29になっており、それぞれ二次職へのクラスアップ寸前の状態である。クラスアップさえすれば、Cランクに上がるのも目前と言えるだろう。


 俺は今日レベルが上がり次第、ジョブを騎士へと派生させるつもりだ。

 剣士からの派生ジョブは他に剣客や魔法剣士などがあるが、パーティを守る役割を担う俺には騎士が一番あっている。

 他の4人もそれぞれ何になるかは決めているようだが、どのジョブにするかは転職の瞬間まで秘密ということになっていた。

 パーティの連携のことを考えればあまり褒められたことではないかもしれないが、初めての転職で皆ワクワクしていることもあり、自然とそういう流れになったのであった。

 まあ、二次職にはそれほどバリエーションがあるワケではないし、なるようになるだろうとは思っている。



「っ!? リーダー、<気配察知>に何か引っかかった。近付いてくるぞ!」


「何っ!?」



 まさか、モンスターか?

 こういった遭遇戦を回避する為に、わざわざ早朝を選んで来ているというのに……



「この速度、それに鳴き声……、恐らくミニバグだ」


「なんだ、ミニバグか……」


「げぇ、ミニバグなの……」



 ミニバグと聞いて俺は安堵したが、カオリは嫌そうな反応をする。

 俺と違って戦闘面の心配をしたのではなく、単純に見た目が嫌いなのだろう。



「カオリとアミは下がっていろ。ミニバグくらい、俺達3人でどうとでもなる」



 ミニバグはすばしっこいが、攻撃力も防御力も高くない。

 中途半端なサイズが災いして、普通の害虫よりも対処が簡単なモンスターだ。

 取り付かれる前に、踏みつぶすなり串刺しにするなりすればいい。



「キチキチキチ」



 キチキチと、鳴き声のような音を出しながらミニバグが迫ってくる。

 その数は10匹程だろうか。多少面倒な数ではあるが、三人がかりであれば対処は容易い。



「おらぁ!」



 スギが足を振り上げ、勢いよく地面に落とす。

 スキルでもなんでもない踏み蹴りだが、それだけで2匹のミニバグが踏みつぶされ、さらに何匹かが宙に浮く。

 それを狙って俺が剣を振るい、タカは短刀で一匹を確実に仕留める。



「流石にチョロイな」


「だな。これじゃ張り合いがねぇぜ」


「経験値の足しにもならない……」



 残ったミニバグをそれぞれが処理し、あっという間に戦闘は終了した。



「しかし、まさかこんな時間にミニバグに襲われるとはな……」


「ミニバグって夜行性だろ? なんでこんな時間にいやがるんだよ」


「……休眠前に腹でも空かせたか?」


「そんな、スギじゃあるまいし……」


「おいテル! そりゃどういう意味だ!」



 そんな風に軽口を叩き合っていると、恐る恐るといった感じでカオリ達が近づいてくる。



「お、終わった?」


「ああ、問題無く片付い……っ!?」



 カオルの問いに返事を返したタクが、言葉を途中で切って辺りを見渡す。



「ば、馬鹿な……」


「どうしたタク!?」


「か、囲まれている。数は50以上……、恐らく、ゴブリンだ……」


「なんだと!?」



 なんでそんな大群がいきなり……



「奴等、俺の気配察知の外からほぼ同時に現れた……。どうやら、最初から補足されていたらしい」


「っ!?」



 それはつまり、気配察知の有効範囲をある程度正確に把握していたということである。

 その上で、範囲外から徐々に包囲を狭めてきた……



「……まさか、統率者がいるということか」


「恐らくは、な……」



 通常のゴブリンに、そのような知能はない。

 つまり、この包囲を仕掛けてきたゴブリンは、<統率>のスキル持ちである可能性が高いということだ。



「ゴブリンリーダー、もしくはキングか……」



 どちらにしても、今の俺達にとっては手に余る存在だ。

 ゴブリンリーダーはBランク、ゴブリンキングはAランクに相当するため、たとえ俺達がランクアップしていたとしても厳しい相手だ。



「……どうにかして逃げるしかないな」


「でも、どうするんだ? 包囲されてるんだろ?」


「ああ。だからなんとか包囲を突破して、振り切るしかない」



 相手はただのゴブリンだ。

 統率され、バフ効果が入っていたとしても、戦闘力はたかが知れている。

 タクの言う通り、それしか助かる道はないだろう。



「っ!?」



 そのとき、視界の隅に飛来する何かを捉える。

 俺はそれを、ほとんど反射的に切り飛ばした。



「矢か……。アーチャーまでいるようだな……」


「プ、プロテクションを……」


「待て! プロテクションはまだいい!」



 今飛んできた矢は1本だ。

 普通なら複数放つだろう場面であえて1本しか放たない理由は、恐らくアーチャーの数自体が少ないからだ。



「……動こう。ここは森だ。俺達が移動するだけで射線が切れ、そう簡単には矢を放てなくなるハズだ」


「だが動くったって、どっちに行くつもりだ?」



 西に逃げるのは、森の内側に向かうことになるので論外だ。

 かといって、馬鹿正直に東に逃げるのも下策だろう。最悪、統率者自身に遭遇しかねないからだ。



「矢が飛んできた方向は南だ。北方面から包囲網を突破し、森の外へ逃げるぞ! 前衛は俺とスギ、タクとカオリは周囲の警戒を頼む! アミは背後から矢が飛んできた時に備えて、いつでもプロテクションが使えるようにしておいてくれ!」



「お、おう!」


「「「わかった!」」」



 俺達はこんな所で死ぬわけにはいかない。

 必ず、生き残ってみせる……!





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