第40話 冒険者狩り①
演習場に着くと、既に僕達以外の全員が集まって、各自トレーニングに励んでいた。
「すいません。皆さん、待たせてしまったようで……」
「いやいや、俺達は勝手にトレーニングしていただけですから、気にせんでください」
リウルさんとレンドさんは、組手のようなことをしていたようだ。
ガクさんとスケさんカクさん、そしてサムソンは、何やら円陣のようなものを組んで談義をしている。
「もしかして、皆さんもう自己紹介とかは済ませちゃいましたか?」
「ええ。まあ、簡単にですが」
「そうですか。それじゃあ、一応ククリちゃんだけでも……」
そう言うと、ククリちゃんが肩から飛び降り、腰に手を当てる。
「俺はククリだ! 宜しくな!」
「昨日ぶりだな、お嬢ちゃん。相変わらず元気そうで安心したぜ」
偉そうな態度な上にドヤ顔で名乗るククリちゃんを、みんな生暖かい目で見ている。
全員、精神的にも大人なようで一安心だ。
「ほぅ、この子があのグルガン将軍の娘さんですか……」
「親父を知っているのか!?」
「ええ、知っていますとも。有名な方ですからねぇ」
ガクさんは観察するような、値踏みをするような表情でククリちゃんのことを見る。
ゴブリンの顔でそれをやるものだから、奴隷商とか盗賊のような悪人に見えて仕方がない。
「おっと失礼。優秀な人材を見ると、ついつい観察してしまいまして」
僕の視線に気づいたのか、ガクさんはすぐさま距離を取る。
「いえ、でもククリちゃんを悪い道に誘ったりはしないでくださいね?」
「はは、心得ていますとも」
ガクさんはそう言って胡散臭い笑顔を浮かべる。
うーん、やはりこの人、一癖も二癖もあるな……
「それで旦那、今日は何をするんで?」
「あ、はい。今日は冒険者狩りをしてもらおうと思います」
「……何でもなさそうな顔でしれっと言いますね」
「実際、なんでもないことですからね」
自分で言ってて、よくもまあこれだけ開き直れたものだと思う。
元人間でありながらこれ程簡単に割り切れるのは、やはり種族が変わったからなのだろうか。
罪悪感など、露ほどにも沸いてこなかった。
「今回皆さんには、『ティドラの森』に薬草採取をしにきた冒険者を襲ってもらいます。恐らく冒険者達のランクは高くてもCランクくらいだと思いますので、手こずることはないでしょう。少しやり甲斐のない仕事かもしれませんが、そこは我慢して下さい」
僕はワールドマップを起動し、『ティドラの森』の全域を映し出す。
そこには、既に冒険者パーティがいくつか存在しているのが確認できた。
「ほぅ……、冒険者とは中々に早くから活動するものなのですねぇ……」
「今映っている彼らは、特に戦闘力に自信のない者達だと思われます。早朝であれば、モンスターと出くわす可能性も減りますからね」
それを狩るために、わざわざこんな朝早くからみんなに集まってもらったのである。
早速だが、何人かには現地に向かってもらおう。
「それじゃあ、まずは僕が召喚魔法で引きつけますので、皆さんは準備しておいて下さい」
冒険者パーティは、東に2つ、北に1つ。
今日は同時攻略の練習をさせてもらうとしよう。
「まずは東に、ミニバグを召喚します。これは彼らの意識を割くための捨て駒ですので、その間にゴブリンを周囲に配置し、包囲網を完成させます。ガクさんは現地に先に行ってもらい、スキルでゴブリン達の指揮を執ってください」
「成程。承知しました」
ガクさんの持つスキル<統率>は、自分よりレベルの低いゴブリンを自らの統率下におけるスキルだ。
このスキルは、僕の召喚したゴブリンにも効果が発揮されることを検証済である。
ガクさんの指揮下に入ることで、単純な命令しか実行できない召喚呪文が一気に強化されるため、非常に強力なコンボと言えるだろう。
「それじゃあ、ミニバグ召喚!」
僕は東の冒険者パーティそれぞれの近くにミニバグを召喚する。
チャージタイムの関係上同時にとはいかないが、ミニバグ10体程度であれば今の僕なら3秒ほどでチャージが完了するので誤差の範囲だ。
「ほほう……、これはこれは、実に素晴らしいシステムですね……」
僕と同じく指揮官タイプであるガクさんにとって、このワールドマップのシステムは非常に有用に見えるだろう。
こんなにも安全な場所から攻撃指示を出せるなんて、まさにチートである。
「そうでしょう? 皆さんに関しても<送還>を使えばかなり安全に運用できると思うので、ご安心ください」
「信用させていただきますよ。私は安全と聞いたからこそ、レブル様の配下に加わらせてもらったのですからね」
「任せて下さい。それでは、よろしくお願いしますね」
頭を下げ、ガクさんを向こう側に送り込む。
それとほぼ同時に、
すると、現地で召喚されたゴブリンのアイコンが黄色に変化した。
(へぇ……、指揮が移ると、アイコンの色が変わるのか……)
新しい発見である。
見分けが簡単になるのでありがたい機能だ。
「旦那、俺達はどうするんで?」
「リウルさんとレンドさん、それにククリちゃんには、逃亡した冒険者の始末をお願いしようと思っています」
包囲をしているとはいえ、盗賊などが仲間を見捨てて逃げの一手を取れば逃げられる可能性は大いにある。その対策として、スピードの高い獣人二人とククリちゃんを配置する予定だ。
「成程。つまり俺達は、冒険者が逃げ出すのを期待して待っていればいいんですね」
「初出陣だ。腕が鳴るぜ……」
「だな!」
リウルさんも、レンドさんも、ククリちゃんも、やる気満々である。
しかし、最初から逃げられるのを期待されても困ってしまう。
「……そうですけど、あまり期待しないでくださいね?」
「「「ハハッ! わかってますよ(るぞ)!」」」
わかっていなさそうな三人であった。
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