第28話 戦闘訓練③
さて、ククリちゃんに対してはどう攻めるべきか……
ステータスだけ見ればサムソンの倍近い彼女だけど、見た目は子供なのでどうしても扱いに困る。
大量のモンスターに襲わせるのは、なんだかとっても絵面が悪いのだ。
(でも、そんなこと言ってたら攻撃自体できなくなるし……、ここは腹を決めるか!)
「ゴーレム召喚!」
僕はまず、自分の通常の召喚では最強のユニットであるストーンゴーレムを2体召喚する。
「ククリちゃんはまだ動かないでねー!」
「おう!」
ワールドマップを使うのとは違い、通常の召喚魔法は出現場所の指定範囲が狭い。
それでいてストーンゴーレムの足は遅いので、さっきのように近距離で召喚しない限りは接敵までかなり時間がかかる。
こんなとき、普通の敵であれば待ってはくれないが、今は模擬戦なのでククリちゃんには待ってもらうことにした。
今のうちに、次の召喚のチャージを行う。
(次は、スケルトンソルジャーを20にしようかな)
サムソンの時には10体しか召喚しなかったが、ククリちゃん相手ならこれでも少ないかもしれない。
ただ、ククリちゃんの体格は小さい為、纏わりつくだけでもある程度効果はある気がする。
「スケルトンソルジャー召喚!」
スケルトンソルジャーがククリちゃんの元へ駆けだす。
「ククリちゃん、もういいよ~」
「おお! じゃあ、いくぞー!」
元気な返事とともに、ククリちゃんが陣地を抜けて駆けだす。
彼女のAGI(速度)は僕以上のため、そのスピードは中々に速い。
ストーンゴーレムを追い抜いたスケルトンソルジャー達に、一気に肉薄する。
「おりゃー!」
ククリちゃんは走っているそのままの勢いで<突進>をしかける。
サムソンの真似だろうか?
しかし、彼女の体格が小さい為か、スケルトンソルジャーは3体程しか巻き込めなかった。
(ククリちゃんの<突進>のレベルは6だったハズ。にも関わらず被害が小さいのは、やはり体格の問題なんだろうな……)
やはり実戦ともなると、スキルレベルだけでは判断できないことも多く出てくる。
恐らく彼女の<突進>はサムソン以上の威力があるが、攻撃範囲は体格がモノを言うので、どうしても狭くなるのだ。
ただ、ククリちゃんには龍化という切り札がある。
変身した状態での突進であれば、サムソン以上の効果範囲になるのは間違いないだろう。
突進でスケルトンソルジャーの群れの中に入り込んだククリちゃんは、当然囲まれることになった。
一斉に剣が突き出され、串刺しに……なることはなかった。
「効かないぞ!」
ククリちゃんのVITはサムソンの倍近い。
それでも細かいダメージを与えられるだろうとは思ったのだが、アレではほとんど効果が無さそうだ。
(仮にスケルトンソルジャーの攻撃ダメージが10だとして、ククリちゃんのHPは30000。20体全員で攻撃してもほとんど削ることができないな……)
「スケさん、カクさん、また援護射撃をお願いします!」
「「了解しやした!」」
僕の要請に応じ、スケさんとカクさんの射撃が始まる。
しかし……
「あ、当たったのに、突き刺さらないでやすよ!?」
ククリちゃんに当たった矢は、突き刺さることもなく肌に弾かれるように地面に落ちていく。
石の
「スケさんとカクさんはそのまま続けて」
無駄かもしれないが、ダメージくらいは入っているかもしれない。
であれば、あとは手数勝負だ。
「ミニバグ召喚! ゴブリン召喚!」
僕は同時にチャージしていたゴブリンとミニバグを10体ずつ召喚し、ククリちゃんに向かわせる。
どちらの魔物も攻撃力は低いが、速度は速い。
纏わりつかせて、ククリちゃんの機動力を奪う作戦だ。
ククリちゃんはスケルトンソルジャーをほとんど片付け、ストーンゴーレムと対峙している。
ストーンゴーレムの攻撃は多少ダメージを与えられているようだが、それでもククリちゃんの余裕をなくすほどではない。
スケルトンソルジャーが減ったせいで回避する余裕もできてしまっているし、増援を送らなかったらあっという間に2体ともやられていたかもしれない。
「む、この前の小さい虫のヤツだな! そんなのは、こうだ!」
ククリちゃんがストーンゴーレムの攻撃を躱しつつ、大きく息を吸い込む。
「ぶぅーーーーー!」
(っ!? しまった! <ブレス>か!)
ククリちゃんの口から、細い炎が噴き出される。
見た目通り攻撃範囲は狭いが、ククリちゃんはそれを薙ぎ払うように吹き付ける。
「キチ……キチ……」
ミニバグ達が次々に焼き払われていく。
ゴブリンも足止めをくらい、前に進むことができない。
(ブレスは変身状態じゃないと使えないと思ってたけど、普通に使えるのか……)
想像だけで作戦を立てるべきではなかった。
……しかしまあ、この技を知ることができただけでも良しとしよう。
これはこれで、収穫には違いない。
ククリちゃんはさらに、ストーンゴーレムの脇に大振りのパンチを入れる。
その一撃だけで、ストーンゴーレムの腹部が大幅に欠損した。
恐らくは殴打系スキルの<強打>だが、子供の拳でストーンゴーレムが破壊されるというのは中々に衝撃的だ。
(これはもう、十分かな……)
僕の今の手駒で、ククリちゃんを負かすのは難しいようだ。
少し悔しいが、これはこれでククリちゃんの実力を見ることができたので良しとしよう。
「ククリちゃーん! もう終わりにするよー!」
「えーっ!? なんでだ!?」
「もうククリちゃんの実力は十分見れたからね! そのモンスター達は倒しちゃっていいよ!」
「イヤだ! まだ遊び足りないぞ!」
「……ええぇ!?」
ククリちゃんにとっては、どうやらあの程度の攻撃じゃ遊び程度の感覚だったらしい。
しかし、そんなことを言われても、僕にできることなんてもうほとんど残っていないぞ……
あとは僕が直接戦うくらいしか……
「ほぅ……、旦那、中々面白いことをしてますなぁ……」
「っ!? あなたは!」
突然後ろからかかった声に慌てて振り返ると、そこには灰色の毛皮の人狼が立っていた。
「リウルさん! どうしてここに!?」
「今日は非番だったんですよ。それより、面白そうなんで、俺にも参加させてくれませんかね?」
「も、もちろんいいですが……、ちゃんと手加減はしてくださいよ?」
「了解! じゃあ、行ってきますよ!」
そう返事をすると、若き灰色の人狼は、凄まじい速度でククリちゃんに向かって駆けだした。
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