第26話 戦闘訓練①



「おはよう、ククリちゃん」


「うー、おはよう、レブル……」



 念話で声をかけたところ、ククリちゃんはまだ眠そうにしていた。

 だから直接迎えに来たんだけど、どうやらまだ寝ぼけているらしい。



「え~っと、お父さんとお母さんはいるかな? 挨拶をしたいんだけど」



 ククリちゃんは先日、正式に僕の配下として配属されている。

 そのことについて、親御さんにご報告をしようと思ったのだけど、姿が見当たらない。

 ひょっとして留守なのだろうか?



「親父は遠征に出ててずっといないぞ。お袋は……、最初からいない」


「っ!?」



 ククリちゃんが目に見えてシュンとしてしまったぞ!

 どうやらマズい話題を振ってしまったらしい。



「そ、そうなんだ! それじゃあ、朝ご飯はまだかな? 良かったら僕と一緒に食べない?」


「レブルと一緒に……! おう! 食おう!」



 苦し紛れに話題の転換を図ったが、上手くいったようだ。

 今後は親御さんの話題には触れないようにしよう……





 ………………………………



 ……………………



 …………





「レブル! 肩車!」


「はいはい、どうぞ」



 食事が終わったあと、僕はせがまれるままにククリちゃんを肩車する。

 頭頂部を顎でゴリゴリとしてくるので若干痛かったが、ククリちゃんが楽しそうにしてるので我慢することにする。



「なんだか、さっきからご機嫌だね?」


「おう! 誰かとご飯食ったのなんて初めてだったからな!」


「っ!?」



 誰かとご飯を食べたのが、初めてだって……?

 まさか、お父さんとも一緒に食べたことないのか……?


 さっきククリちゃんは、「親父は遠征に出ていてずっといない」と言っていた。

 もしかしなくても、その間ククリちゃん、この魔王城で一人だったんじゃ……

 そう思うと胸がチクリと痛む。と同時に、ククリちゃんのお父さんへの怒りのようなものがこみ上げてきた。



(こんな小さい子を一人残して遠征に出てしまうなんて、一体どういう神経しているんだ!)



 やむにやまれぬ事情があってのことかもしれないけど、だったらせめて誰かに面倒見てもらうとかあったのでは?

 この魔王城にはギアッチョさんを筆頭に良い人が結構いるし、引き受けてくれる人も絶対にいたハズだ。

 それをしなかったというのは、確実に親の怠慢である。



「ん? どうしたレブル?」


「……なんでもないよ。それより、今日からは毎日僕と一緒に食事しようよ」


「いいのか!?」


「うん。僕もククリちゃんと一緒の方が楽しいしね」



 育児放棄は看過できない。

 ましてや、彼女はれっきとした僕の配下だ。

 配下の面倒は、僕が見てあげないと……


 僕は密かに、今後彼女の面倒を見ることを心に誓った。




 ククリちゃんと戯れつつ、僕達は業務区画の最奥、演習場へとやってきた。



「レブル様ー!」



 演習場に入ると、先に来ていたらしいサムソン達が駆け寄ってくる。



「おはよう、みんな」


「「「おはようございま(や)す! レブル様!」」」



 サムソン、スケさん、カクさんの三人が僕の前で敬礼のようなポーズをとる。

 なんとなくならって僕も同じポーズを取ったら、三人に慌てて止められた。

 どうやら上位の者に取るポーズらしい。


 そんなことは知らなかったので、僕はザッハ様にすら取ってないぞ……

 あとでギアッチョさんに作法について確認しておこう……



「それで、今日は何をやるんでやすか?」


「今日は、サムソンとククリちゃんの戦闘力の確認をする予定だよ」


「戦うのか!?」



 ククリちゃんが嬉しそうに反応してくる。

 見た目はどう見ても幼女だけど、種族のせいなのかやはり好戦的なようだ。



「うん。二人には僕の召喚したモンスターと戦ってもらうよ。スケさんとカクさんは、モンスター側で射手として参加して欲しい」


「「わかりやした!」」



 スケさんとカクさんは、昨日の戦闘でモチベーションが上がったのかやる気満々だ。

 良いことなので、今日は気持ちよく射撃をしてもらおう。



「それじゃあ、まずはサムソンから始めようか。向こうの陣地に行ってもらえるかな?」


「は、はい!」



 若干ぎこちない動きでサムソンが駆けていく。

 どうやら、少し緊張しているようだ。

 しかし、彼の戦闘力なら僕の召喚するモンスターを屠ることなど容易なハズである。

 だからこそ、僕は遠慮なく攻めさせてもらおう。



「じゃあ、行くよ! スケルトン召喚!」



 まずは手始めとして、スケルトンを20体召喚する。

 数は多いけど、サムソンは無事しのぐことができるかな?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る