第23話 リスクの少ない戦闘プラン



 程なくして、ミニバグが冒険者達と遭遇し戦闘が始まる。

 しかし、ミニバグは機動力がある分戦闘力はスケルトン以下であり、『剣士』や『盗賊』相手ではまるで勝負にならない。

 一匹、また一匹とミニバグが潰されていく。だが――、



「あ、陣形を変えましたね」


「うん。『商人』か『盗賊』が、スケルトンを察知したんだろうね」



 さっきまで並んでミニバグを処理していた『剣士』が、位置を変えて『僧侶』と『商人』を横から庇う配置につく。

『盗賊』はまだミニバグと交戦中だが、処理するのも時間の問題だろう。



『スケさん、カクさん、合図をしますのでそれに合わせて矢を射かけてください』


『了解しやした』



 僕はタイミングを見逃さないよう、ワールドマップを凝視する。

 ワールドマップ上では、既に『剣士』とスケルトンが接敵し、戦闘を開始している。

 そして『盗賊』の相手にしていたミニバグのアイコンが消失した。



『……今です!』



 ミニバグを処理した『盗賊』が、『剣士』の助太刀に向かう。

 そこを狙って、スケさんとカクさんの矢が放たれる。

 その様子は、ワールドマップ上で確認できた。



「あ! 今、矢がビューンって!」


「う、うん。見えたね」



 どうやらこのワールドマップには、遠距離攻撃を表示する機能も備わっているらしい。



(ここまでくると、本当にタワーディフェンスゲームを参考に作られたんじゃないかと疑いたくなってくるな……)



 それはともかくとして、放たれた矢は見事に『盗賊』に命中していた。

 それとほぼ同時に、『盗賊』のアイコンが薄れていく。どうやら致命傷だったようだ。



『スケさん、カクさん、そのまま『僧侶』と『商人』を射かけてください』


『了解!』



 再びワールドマップ上に矢のアイコンが現れる。

 しかし、今度は『僧侶』達に当たる直前で消失した。恐らく<プロテクト>だろう。



『よし。スケさんはそのまま『僧侶』達を、カクさんは『剣士』の方を狙って!』


『っ! 成程! 了解しやした』



 冒険者達は、最も優先すべきことを見誤った。

 それは、唯一の戦力である『剣士』を守ることである。



「矢がコイツに当たったぞ!」



 ククリちゃんの言った通り、矢が『剣士』のアイコンにヒットしたのが確認できた。

 先程の『盗賊』のように一撃とはいかなかったようだが、確実に削ることができたハズだ。

 そして、この状態ではスケルトンを捌くことはできないだろう。



「『剣士』のアイコンが消えましたね」


「うん。これで、『僧侶』と『商人』もお終いだ」



 残ったスケルトンは3体。

 矢は<プロテクト>で防げても、この状態では詰みだ。

 程なくして、『僧侶』と『商人』のアイコンも消失する。



「作戦終了。送還っと」



 僕はワールドマップ上のスケさんとカクさんをヒットし、<送還>を発動する。

 すると、つい先程までいた場所に二人が戻ってきた。



「お疲れ様です。スケさん、カクさん」



 僕がそう声をかけると、二人は驚いたような顔をしてからクルクルと僕の周りを回り始めた。



「凄いぞスケ! あんな簡単に冒険者達を倒しちまった!」


「凄いなカク! 俺達死んでないぞ!」



 ゴブリンの戦闘は犠牲があること前提で成り立っている。

 無傷の勝利というのは、本当に初めてのことだったのだろう。



(まあ、厳密には召喚したモンスターは犠牲になっているんだけどね)



 ただ、召喚魔法で呼び出すモンスターは、この世界に存在するモンスターを呼んでいるワケではない。

 実際には疑似生命を与えることで、その場に生み出しているのだ。

 その証拠に、役目を終えたモンスターはこの世に維持されることはなく、速やかに消失する。

 最初から使い捨てられることが前提の、文字通り疑似生命体なのだから、使い潰したところで心は痛まない。

 僕は前世の頃から、そういう風に思うようにしている。



「……みんな、今ので大まかな僕の戦い方がわかってくれたかな?」


「はい! 感動しました!」


「俺もわかったぞ! とりあえず楽しそう!」


「「アッシらもわかりやした。最小限に被害を抑えつつ、勝利をもぎ取るんでやすね!」」



 どうやら、みんなにもちゃんと僕のやりたいことが伝わったようで安心する。

 今後は今の戦い方を軸に戦略を組み立てていけば、少ない戦力でも多方面のエリアをカバーできるハズだ。

 欲を言えばもう少し戦力を増やしたいところだが、それはまた今夜考えることにしよう。





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