第22話 今後の方針



「さて、ここに集まってもらったみんなには、これから僕の業務を手伝ってもらうことになります。具体的には、侵攻してくる冒険者の迎撃になりますね」



 僕はワールドマップを起動し、とりあえず『ティドラの森』を拡大表示させる。

 そこには丁度よく冒険者が薬草採取に来ており、『剣士』、『僧侶』、『盗賊』、『商人』のアイコンが表示されている。



「この冒険者達は侵攻を目的としていないので本来ならスルーするんですが、今回はお試しなのでちょっと攻撃をしかけてみようと思います」


「出撃するのか!?」



 ククリちゃんが目を輝かせて身を乗り出してくる。

 可愛いからつい、そうだよーとか言いそうになるが、ここはグッと堪えてやんわりとなだめる。



「まだ出撃はしないから、落ち着いてね?」


「そうなのか?」


「うん。ククリちゃんも含め、ここにいるみんなは基本的に攻撃の初動には参加させないつもりだよ」


「「それは、何故ですかい?」」



 スケさんとカクさんが不思議そうに尋ねてくる。

 彼らはゴブリンという種族柄なのか、よく先鋒を命じられるらしく不思議に思ったようだ。



「先鋒は重要な役割だけど、どうしても被害が出やすいからね。そういうのは僕の召喚術に任せてくれればいい」



 午前中の戦闘で改めて痛感したのが、先鋒の被害の多さだ。

 今回先鋒を任せたのは待機組のゴブリン隊だったが、スケルトン召喚までの間にかなりの被害を受けてしまった。

 これは僕の采配ミスと言えるだろう。


 タワーディフェンスゲームでもそうだったが、やはり初手のユニットというのは攻撃を一身に受けるため被害が大きくなる。

 その為、十分に攻撃をしのげる強いユニットを配置するか、完全に時間稼ぎ目的の捨て駒を配置するかのどちらかが基本だ。

 この内、前者に該当する手駒はギアッチョさんしかいなかったが、後者であれば十分に用意する余裕があった。

 にも関わらず、僕はゴブリン隊を出撃させてしまったのだ。



「……もしかして、レブル様は壊滅したゴブリン隊のことを気にしてるんでいやすか?」


「うん。アレは僕の判断ミスだ。彼らには悪いことをしたよ……」



 ゴブリン隊がかなりやる気満々だったので、なんとなくで行かせてしまったのだけど、あれは冷静に考えれば止めるべきだった。



「そんな、気にせんでください! あっしらは数だけは多いんで、使い捨てるのが当たり前なんです! アイツらも、レブル様のために体を張れたんだから本望だったでしょうよ!」



 ギアッチョさんも言っていたけど、ゴブリン達は数で攻める癖があるせいで、一人一人の命の価値観がとても低いらしい。

 だから、使い捨てられることを何とも思っていないのだそうだ。



「そうだったのかもしれないけど、出さなくてもいい被害なら、出さない方がいいでしょう?」


「そりゃあ……、そうかもしれませんが……」


「……とにかく、今後は極力被害は出さない方針でいくつもりです。それは肝に銘じておいてください」



 スケさんとカクさんにも言い分はあるだろうけど、犠牲を前提にする戦略はやはり好ましくない。

 だから今後も、できる限り被害を出さない戦い方を心掛けるとしよう。

 僕の業務は、あくまで保守運用なのだから。



「よくわからないけど、わかったぞ!」


「自分も、そんな大切に扱ってもらえて恐縮ですが、了解しました!」



 ククリちゃんはともかく、サムソンはしっかりと理解してくれたようだ。

 サムソンは顔の割に(失礼)理解力もあって、本当にオークらしからぬ男だ。



「スケさんもカクさんも、よろしくね?」


「……なんだかくすぐったい扱いですが、わかりやした」



 スケさんがそう応え、カクさんも首を縦に振る。

 彼らは他のゴブリン達と違って頭の回転は悪くない。契約したのは正解だったな。



「じゃあ、話を戻して、冒険者に攻撃をしかけるんだけど、まずは僕が召喚術を使うから見ていて下さい」



 そう言って、僕は冒険者達がいるポイントより少し離れた位置を指でヒットする。

 使うスキルは魔蟲召喚。既にチャージは完了済だ。



「ミニバグ召喚!」



 僕が宣言すると同時に、画面上にミニバグのアイコンが5体現れる。



「おお! なんか出てきたぞ!」



 ククリちゃんがワールドマップの画面を見て興奮した声をあげる。

 この世界にゲームはないけど、子供の感覚からすればこういうのは面白く映るのかもしれない。



「ククリちゃん以外はさっきも見たと思うけど、これが僕の召喚術。こうやって画面をヒットして術を使うと、マップの向こうにモンスターを召喚できるんだ」


「おもしろいな!」



 ククリちゃんは自分もやってみたいのか、ワールドマップをぺたぺたと触っている。

 しかし、彼女にはなんの権限も与えていないので誤作動等の問題は無いだろう。



「あと少しでミニバグと冒険者が交戦状態になるけど、ミニバグははっきり言って弱い。だからすぐ倒されちゃうと思う。なので今度は……スケルトン召喚!」



 今度は別の位置を指定して死霊召喚を行う。

 少ししかチャージできていない為、召喚された数はミニバグ同様5体だ。



「これで、ミニバグと交戦中にスケルトンも合流する展開になる。今回の冒険者パーティ程度だったら、時間さえかければ通常の召喚術だけで十分対処可能だけど、今回は試験運用もかねて契約召喚も使います」


「俺の出番か!?」


「え~っと、ククリちゃんは出番はまた今度かな。今回は、スケさんとカクさんに行ってもらおうと思ってる」



 契約召喚は、LV1の場合だと一度に5体まで召喚可能のようだ。

 今後レベルが上がることで数は増えるかもしれないが、情報が少ないのでまさに手探り状態である。



「スケさん、カクさん、それでは準備をお願いします」



「「了解しやした!」」



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