第20話 ククリちゃんと契約
「ほ、本当に、ククリちゃんが変身したの?」
「そうだぞ!」
本当に驚いた。龍人族っていうのは、ドラゴンに変身できるのか……
冒険者だった頃には、当然そんな話は聞いたことがなかった。
というか、龍人族という種族の情報自体がなかったので、それも仕方がないことかもしれない。
「で、どうだ? 小さくないだろ」
「う、うん。大きいね……」
「いいえ。小さいです」
僕が素直に感心していると、ギアッチョさんから否定されてしまった。
「なんだと!?」
「龍人族の<龍化>は文字通り龍と化すスキルですが、このサイズでは成龍の10分の1程度です。決して大きいとは言えないでしょう」
「……そう言われると、確かにそうですね」
ククリちゃんの今のサイズは、大体3メートル前後と言ったところだろう。
しかしドラゴン種族の中には、ゆうに30メートルを超す個体も少なくないと聞く。
10分の1という数字も、あながち間違ってはいないのかもしれない。
「お前達より大きいだろ! 文句あるのか!?」
「いや、文句はないけど……。ギアッチョさん、どう思いますか?」
子供とはいえ、ククリちゃんはどう見ても僕よりかは強そうだ。
ただ、やはり子供というところが気になってしまう。
かといって、それをそのまま伝えたら僕が痛い目を見そうなので、それを抑え込めそうなギアッチョさんに意見を委ねることにしたのだ(我ながら小賢しい)。
「私は問題ないと思いますよ。子供でも、龍人族であれば戦力としては十分と言えます。いたずらに放任するよりも、しっかりとした指導者のもとで働く方が本人のためにもなるでしょうしね」
「っ!? お前、いいことを言うな!」
成程。そういう考え方もあるか……
確かに、ここで僕が配下にするのを断ったとして、自棄になったククリちゃんが一人で城を飛び出してしまった……、なんてことになると非常にマズい気がする。
その結果、冒険者に討伐されてしまったなんてことになったら、寝覚めが悪いどころの話ではないだろう。
「……ギアッチョさんの言う通りかもしれませんね。ククリちゃん、本当に僕の下で働きたい?」
「働きたいぞ! 俺は親父のような強い戦士になりたいんだ!」
変身を解いたククリちゃんが、目を輝かせて僕の足に縋ってくる。
その姿が物凄く可愛らしく、僕の中の父性のようなものが反応して思わず頭を撫でてしまった。
するとククリちゃんは嬉しそうに目を細め、頭を擦り付けてくる。
(な、なんだこの可愛い生き物……)
僕は堪らずククリちゃんを抱き上げ、召喚契約を起動する。
「ククリちゃん、僕からもお願いするよ。どうか僕と、召喚契約を結んでくれないかな?」
「召喚契約?」
「それを結ぶと、お仕事の時に呼び出したり呼び戻したりできるようになるんだ」
「それだけか?」
「あとは、遠くにいてもお話ができるようになるとか?」
正直、僕にも詳しいことはわからなかったりする。
召喚契約に関する情報は、人間だった頃にはほとんどなかったので、僕自身も手探り状態なのだ。
「だったらいいぞ! 俺はお前と召喚契約を結ぶ!」
ククリちゃんがそう宣言すると、僕から漏れていた淡い光がククリちゃんに吸い込まれるように消える。
無事に契約が成ったようだ。
「これから宜しくね、ククリちゃん」
「おう! 宜しくな! え~っと……」
「レブルだよ」
「レブルか! カッコイイ名前だな!」
「そう?」
「ああ! なんかカッコイイぞ!」
そう言ってククリちゃんは僕の体をよじ登り、肩車の体勢になる。
「よしレブル! 人間どもを倒しに出発だ!」
「いや、出発はしないよ」
「なんでだ!?」
なんでも何も、僕の仕事は前線にでることじゃない。
その辺のことも、詳しく説明しなきゃいけないようだ。
「ギアッチョさん、他にこのフロアで僕の配下になってくれそうな魔物はいますか?」
「……いえ、心当たりはありますが、やはり今は出払っているようです。新参の魔物の中には残っている者もいるようですが、この反応の無さからすると全員就寝中なのでしょう」
「……であれば、また夜にご案内いただくことは可能ですか?」
「もちろんです。それでは、都合が宜しい時間に念話でお声がけください」
「わかりました。夕食後くらいにまた声をかけさせていただきますね」
ギアッチョさんは僕の言葉に頷くと、「失礼します」と言って去っていった。
恐らくまた、定例業務に戻るのだろう。
「さて、サムソンとククリちゃんは一旦僕の部屋に来てもらおうかな。色々と説明したいことがあるからね」
「おう!」
「わかりました!」
それから、先程地下5階で契約を交わした二人にも声をかけておこう。
その二人と僕を含めた5人で、まずは今後の方針について固めることにする。
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