第18話 上の居住区に住む種族



 時間的にお昼を回るということで、僕とサムソンは魔王城の食堂へとやってきていた。



「ここが、魔王城の食堂かぁ……」


「レブル様、こっちで注文ができます!」



 サムソンが、図体に似合わない速さで僕のことを先導してくれる。

 どうやら、相当に腹を空かしているようであった。



「僕のことはいいから、先に頼んできなよ」


「そ、そうはいきませんよ。レブル様のことは、ギアッチョ様からも頼まれてるので……」



 ギアッチョさんは、食事のタイミングで僕達とは別行動をとっている。

 理由は、彼が食事の要らないタイプだからだそうだ。同じ魔族でも色々違うところがあるらしい。

 ギアッチョさんは、僕達が食事を取っている間に雑務を済ませ、午後にまた合流するとのことである。



「本当に大丈夫だから! それより、サムソンは先に注文を済ませて席を取っておいて欲しいな」


「っ! そういうことでしたら、お任せください!」



 僕がそう言うと、サムソンは嬉しそうな顔をして食堂のおばさんの方へ走っていった。



(よし、これで落ち着いてメニューを選べるぞ)



 僕は食事についてはじっくり選びたいタイプだ。

 彼には悪いが、ここは時間をかけて選ばせて貰うとしよう。



(ん~、それにしても沢山メニューがあるなぁ……)



 食堂のメニューは種族ごとに色々なモノが用意されているらしく、50種類近い料理があるようであった。

 中にはとても料理とは呼べないゲテモノものもあるようだが、魔族や吸血鬼向けのメニューであれば僕でも問題なく食べられそうである。

 ……いや待てよ? 僕って魔族に転生したんだから、別にゲテモノの類だって食べられるようになっているかもしれないのか?

 もしそうなら、試してみる価値は……って、やっぱりやめておこう。

 たとえ食べられたとしても、気持ちの問題で腹を壊しそうだ。


 僕は無難に豚の焼肉定食を選び、サムソンの待つ席へと向かうのであった。





 ………………………………



 ……………………



 …………





 昼食を食べ終え待ち合わせの場所へ向かうと、既にギアッチョさんが待ち合わせの場所に来ていた。



「すみません。お待たせしましたか?」


「いえ、私も雑務を終えて今来たところです」



 なんだかデートの待ち合わせみたいな会話だな……

 それで言えば、ギアッチョさんは気遣いの上手なイケメンってところだろうか。



「それでは早速、上の居住区へ向かいましょうか」


「はい、お願いします」



 午後の案内については、上位の魔物が住んでいるという上の階層の居住区を案内してもらうことになっていた。

 人型でない魔獣達の住む地下の階層の方が人数は揃っているだろうとのことであったが、いきなりそんな魔獣達とコミュニケーションを取れるとは正直思えなかったため、上の階層を選んだのである。



「ギアッチョさん、上の居住区には、具体的にどんな種族がいるんでしょうか?」


「本当に様々です。私やレブル様と同じ魔族もいれば、悪魔や獣人、吸血鬼などもいます」


「獣人!? ……ってああ、そういえば獣人の中にも魔物として扱われる種族もいるんでしたっけ」



 獣人は人間の世界の中にも溶け込んでいる種族だが、より獣に近い性質を持つ者達は魔物として扱われる。

 わかりやすいところで言えば、人狼や人虎、コボルドなどがそれに当たる。

 彼らは人型ではあるが、顔の作りや体毛などは獣そのもので、非常に優れた身体能力を有している。

 手足や耳などの一部が獣なだけの一般的な獣人達とは、戦闘能力に大きな差があるのだ。



「はい。彼らの多くは、以前から魔王様の庇護下にあった者ばかりですので、比較的付き合いやすい部類と言えるでしょう」



 庇護下か……

 人狼とか人虎って、危険だからって理由で討伐されたりしていたからな……

 ザッハ様は、そういう人間の魔の手から彼らのことを守っていたのかもしれない。



「ただ、先程もお伝えしましたが、この時間は彼らも業務中で出払っている可能性が高いです。もし、いないようであれば、夜に改めて尋ねられた方が宜しいかと存じます」



 そういえばさっき、今の時間はあまりいない可能性があるって言ってたっけ。

 業務中だからいないってことだったのか……


 なんだか魔王軍って、思った以上に真面目な職場なのかもしれない。



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