第17話 ギアッチョさんの運用について



「……どうやら、方が付いたようですね」


「みたい、ですね……」



 ワールドマップのアイコンは、こちらから送り込んだモンスター名しか表示されていない。

 逃げ延びた者もいなさそうなので、完全に制圧が完了したようである。

 このパーティには『中級マッパー』もいたので逃げられる可能性も考慮していたのだが、杞憂だったようだ。



「最後にサムソン達を送ったのは余計だったかもしれませんね」


「そうですね。彼らの実力はそこそこだったようですが、スケルトンを送り込んだ時点でかなり陣形を崩していました。恐らく挟み撃ちなどの対多数戦を想定していなかったのでしょう」



 その通りだと思う。

 彼らのパーティ人数は5人と平均的な数字だったが、デスゾーンに挑む人数としては少なすぎる。

 恐らく、多少背伸びしてデスゾーンのモンスター情報を集めに来たといったところだろう。



「しかし、一つ疑問があります」


「はい。なんでしょうか?」


「何故私を召喚しなかったのですか? この程度のパーティであれば、私一人送り込めば瞬時に殲滅できたでしょう?」


「あぁ~、それはですね……っと、その前にサムソン達に戻ってきてもらいましょうか」



 僕はワールドマップ上のサムソン達のアイコンをヒットする。

 想像通りなら、この状態で……



「送還!」



 キーワードを宣言すると、同時にサムソン達のアイコンが消失する。

 そして、先程までいた場所にサムソン達が戻ってきた。



(思った通り! これは使えるぞ!)



 契約召喚は、他の召喚術とは違って実在する存在を召喚することになる。

 その為、用が済めば対象を指定して『送還』というキーワードで送り返す必要があるのだが、この『ワールドマップ』で使用する場合、それ以上の意味を持つ。



(ユニットの送還が可能なら、モンスターを使い捨てる必要もなくなるし、回復させて再出撃なんて運用も可能になる。ますますタワーディフェンスゲームみたいになってきたぞ……)



「レブル様」



 あ、そうだった。興奮してギアッチョさんへの回答するのを忘れていた。



「え~っとですね、ギアッチョさんを召喚しなかったのは、単純にギアッチョさんが強過ぎるのが理由です」


「強過ぎるのが理由……? それはどうしてでしょうか?」


「あ、すみません。言葉が足りませんでした。え~、理由はいくつかあるんですが、まず一つ目はギアッチョさんに頼りきりになるのを避けるためです」


「……ああ、成程。先を見据えて、ということですか」



 流石ギアッチョさん。見た目通り聡明である。

 ギアッチョさんの言う通り、僕は今回、先を見据えてギアッチョさんを出撃させなかった。

 この先、ギアッチョさんだけに頼り切った戦略を取りたくなかったのである。


 確かにギアッチョさんは、現状の僕の手駒の中で最強だろう。

 しかし、彼は強いユニットとはいえ、あくまで単騎なのである。

 もし複数のエリアにて対応が必要な場合、彼に頼った戦略だけではいずれ破綻するに違いない。

 それを避けるには、彼無しの戦略運用を構築しておく必要があった。

 今回は、まさにその練習のための戦闘だったのである。



「これから先、今みたいに一つのエリアだけを対応するだけという簡単な状況になるとは限りません。ですので、ギアッチョさんはあくまで切り札の一つとして運用したいんです」


「理解しました。素晴らしい慧眼けいがんです」



 け、慧眼とか随分な持ち上げかただな……

 まあ、褒められているのだから悪い気はしないけど。



「それに、ギアッチョさんだけを酷使するワケにもいきませんしね」


「お気遣い、感謝いたします」



 この魔王軍は出来立てほやほやで色々緩いが、現状はホワイト企業……だと思う。

 それを僕の手でブラック企業にしてしまうワケにはいかない。



「それから、ギアッチョさんのような強力な魔物が出現した場合、その情報を持ち帰られると、王国が討伐軍を組んで押し寄せてくる可能性が出てきます。先程のパーティには「中級マッパー』がいましたので、逃げられる可能性は十分にありました」



 マッパー職はマップ情報を集めるのが専門なので、戦闘力はあまり高くない。

 代わりに、逃亡に関するスキルが充実しているため、情報収集を目的とするクエストでは重宝されていた。



「……すみません、私は人間たちの常識に疎いのですが、私程度の魔物相手でも、わざわざ討伐軍を組んだりするのでしょうか?」


「私程度って……。ギアッチョさんは人間から見れば完全に災害級の化け物ですよ? 下手をすれば冒険者総出で討伐にきますよ」


「……そんなものですか」



 ギアッチョさんは自分のことをあまり理解していないようだが、人間目線でいえばレベル200超えでも十分に脅威である。

 レベル556のギアッチョさんなんか、まさに災害レベルだろう。彼が魔王だと名乗っても、きっと人間は疑わないハズだ。



「人間は数は多いですが、個人で大きな力を持った者はほとんどいません。だから脅威が発生した場合、まず徒党を組んでその対応にあたります。そしてそんなことをされてしまえば『サクライ平原』なんかはしらみつぶしにされ、あっという間に制圧されてしまうでしょう」



 そうなれば、たとえデスゾーンでも攻略される可能性が高い。

 Sランク冒険者のパーティが複数押し寄せてきたら、いくらデスゾーンでも確実に攻略されてしまうだろう。



「成程。そういった事情があるのであれば、理解いたしました。しかし、先程の『中級マッパー』が情報を持ち帰る可能性に関しては、恐らくゼロに近かったでしょう」


「え、それはどういうことですか?」


「マッパー職の使う逃亡系のスキルは、目くらまし系と隠れ身系の二種が主となりますが、目くらまし系は死霊系のモンスターには通じませんし、隠れ身系は召喚した魔物の目を欺けないのです」



 そ、そうだったのか……

 目くらまし系が死霊系モンスターに効かないのは知っていたけど、隠れ身系が召喚モンスターには効かないのは知らなかった。

 マッパー(というか冒険者のほとんど)に知り合いはいなかったし、そういう細かいデータには疎いんだよな僕……


 しかし、この情報はありがたい。

 この先、マッパーが相手でも逃亡への対策が取りやすくなったと言えるだろう。



「ギアッチョさん、ありがとうございます! この先も職に関することで相談させていただいても宜しいですか?」


「もちろんです。私はレブル様の補佐を命じられていますので、これからも不明なことはなんなりとご質問ください」



 ギアッチョさん……、本当に頼りになるなぁ……

 もし給料とかが出るのなら、ギアッチョさんには何かお礼をしたいところだ。



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