第16話 サモナーの影



 ◇冒険者side





 少なくとも俺の<先見>には反応がなかった。

 であれば、このゴブリン達と同様範囲外でのランダムエンカウントが発生したのか?

 ……いや、後ろについてはチョウジが<サーチ>を使って警戒をしていた。

 その上でチョウジは「いきなり現れた」と言ったのだ。<先見>の範囲外でランダムエンカウントが発生したとしてもを見逃すハズがない。


 ……考えても答えは出ない。

 それよりも、今は出現したスケルトンに対処するのが先決だ。



「チョウジ、スケルトンに対処できるか!?」


「無理だ! 1体や2体なら問題ないが、あの数は俺じゃどうにもならん!」



 チョウジのレベルは20を超えている。

 だからステータスでゴリ押せるかと考えたが、駄目なようだ。

 なら……



「ジルは後ろに回ってくれ! ロンドもジルとチョウジの援護を頼む! 前は俺とドッジだけでいい!」


「「わかった!」」



 俺の指示に従い、ジルが後方へ向かう。

 ロンドは先程の<ファイアボール>のクールタイムがあるため範囲呪文はしかけられないが、<アイスニードル>などの下級呪文でスケルトンを牽制し始めた。



(よし、これでなんとか凌げるハズ……!)



 俺は<居合>で手負いとなったゴブリンを始末し、防御主体の構えを取る。

 残るゴブリンはあと4体。自分から攻め込まなければなんとかなる数字だ。



「<居合>!」



 近付いてきたゴブリンソルジャーを<居合>で斬り裂く。

 小賢しくも頭部をガードしているせいで一撃必殺とはいかないが、<居合>であれば一閃でほぼ無力化することができる。

 俺はただ、奴らが間合いに入るのを待ち構えていればいい。



(ジル達の方は……)



 心に幾分か余裕ができたため、隙を見て後方を確認する。

 すると半数以上のスケルトンは、既に倒された後のようであった。



(所詮はただのスケルトン。ジルの相手ではないか)



 チョウジは息を切らして攻撃を凌いでいるようだが、ジルの方は余裕をもってスケルトンを処理している。

 ロンドの援護もあるし、問題は無さそ……っ!?


 問題無いと判断し、自分の戦いに集中しようとした矢先に、<先見>が予兆を感じ取る。



(ランダムエンカウントだと!? このタイミングで!?)



「どうしたゼン!」



 俺の動揺に気づいたのか、ドッジが俺の肩を掴んでくる。



「……ランダムエンカウントだ」


「なんだと!?」



 ランダムエンカウントに良いタイミングなどありはしないが、今日のはかつてない程の最悪なタイミングである。

 何が来るかはわからないが、今の状況ではスケルトン程度であっても厄介だ。



「ゴブリンにコボルドに……、オーク! 最悪だ!」



 ゴブリンやコボルドならともかく、オークはマズい。

 オークは下級モンスターとはいえ、攻撃力だけなら中級クラスにも匹敵する可能性がある。

 万全の布陣ならともかく、今の乱れた陣形で相手にするのは危険だ。

 そう判断するや否や、俺はチョウジに指示を飛ばす。



「チョウジ! クエストは放棄する! 逃げる準備を!」



 チョウジには<隠れ身>という下級の野生モンスターから身を隠すスキルがある。

 さらに『マッパー』職には、これを全体化するスキル<共有>があるため、パーティ全員を安全に戦闘から離脱させることが可能なのだ。

 死霊系モンスター相手に目くらましの類は通用しないが、<隠れ身>と<共有>のコンボなら問題なく逃げられるハズ。



「…………」


「っ!? チョウジ!? どうした! 早く<隠れ身>を!」


「……ゼ、ゼン、スケルトンが、なんでいきなり出現したか、わかったぞ」


「何っ!? ……いや、今はそれどころじゃない! 早く<隠れ身>を!」


「だ、駄目なんだよゼン……。<隠れ身>じゃ、コイツら・・・・の目を欺くことはできないんだ……」


「っ!? どういうことだ!」


「あ、あれが見えるだろ? コイツらは、野生のモンスターなんかじゃないんだよ!」



 じれったい気持ちを抑えつつ、視線だけを後ろに向ける。

 そこには……



「……な、なんだと」



 ジル達が交戦しているスケルトン達の後方。そこには、紫色の魔法陣が出現していた。

 それが何を意味するのか。そんなこと、普通の冒険者であればすぐに理解できる。



「召喚魔術、なのか……?」


「そうだよ! このエリアのどこかに、『サモナー』が隠れていやがるんだ!」



 それは絶望的な情報であった。

 本来魔物には、『サモナー』などの特殊職は存在しない。

 しかし、例外がある。……魔族だ。

 つまり、この召喚魔術を行使している術者は――



「召喚されたモンスターには<隠れ身>が通じない……。しかも、魔族まで潜んでいるんじゃ、終わりだよ、ゼン……」



 召喚された20体のソルジャー・・・・・スケルトンを見て、チョウジが戦意を喪失する。

 そして、ジルや俺でさえも、もはやこの状況に活路を見出すことはできなかった。



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