第13話 オークとの契約



「こちらが、オークやゴブリンなどの人型下級モンスター達の宿舎になります」



 案内された先は、魔王城の地下にある洞穴のような場所であった。

 そこにはいくつもの横穴が存在しており、一つ一つが結構な奥行きがある。



(うわ、なんかハンモックみたいなのもあるし、本当に待遇いいなぁ……)



 横穴の中にはハンモックが張り巡らされており、スペースを有効活用しているようであった。

 これならば、かなりの人数が収容できそうである。



「……でも、あんまりいないみたいですね」


「はい。半数は見回り業務で出払っております。今残っている彼らは夜勤組ですね」



 夜勤組とかあるのか……

 なんだか、不規則な生活を送っている冒険者などよりも余程しっかりとした生活リズムが形成されているように思える。



「彼らは野生のモンスターとは違い、ある程度の教育は受けております。ですので、レブル様の命令もしっかりと聞いてくれるでしょう。試しに契約を結んでみては如何ですか?」



(うーん、どうしよう? 今の僕の契約召喚ってLV1なんだよな……)



 契約召喚も、他の召喚魔法と同様、レベルで召喚数に制限がある。

 恐らくレベルに比例して契約数が増えるハズなので、現時点で迂闊に契約をしてしまうと後々できなくなる可能性も出てくる。



「……あ、レブル様だ」



 そんな風に迷っていると、一匹のオークが僕に気づき近付いてくる。

 僕は未だにオークに対する恐怖が残っているため、瞬間的に体を強張らせてしまった。



「ひ、ひぃ!? また殴るんですか!?」



 すると、僕の反応を見て逆にオークの方がビビリ始める。

 なんでそんな反応をするのか、僕にはさっぱり……ん? 今、またって言ったよね?



「あ、もしかして、この前僕が殴っちゃったオークさんですか?」


「は、はい。この前はその、すごく……強かったです……」



 そんなモジモジと、すごく……大きいです……みたいな反応はやめて欲しい。

 ……まさか、そっちのがあったりしないよね?



「その節はどうも……。ご無事だったんですね」


「が、頑丈だけが取り柄ですので」



 オークは恐縮そうに頭をかきながら照れている。

 こんな人間味のある反応をされると、正直普通のモンスターには見えない。



「彼はオークの中でも有望株ですよ。先日は『剣豪』のスキルにも耐えましたし、耐久力だけならハイオークにも匹敵します」



 スキル……、ああ、『剣豪』が逃げる際に放った<紫電>のことか。

 確かにアレを喰らって生き残ったのは確認してるけど、いくらなんでもピンピンし過ぎじゃないか?

 昨日の今日で、ここまで回復したということだろうか……



「あの、傷は大丈夫なんですか?」


「あ、はい。俺はスキルに自己再生 LV2があるので、時間さえかければ傷は治ります」



 自己再生って、確か『格闘家』の上位職である『武闘家』が覚えるスキルだった気がする。

 下級モンスターでありながら上位職のスキルを覚えてるって、結構凄いな。



「レブル様、どうでしょう? 彼は近い将来ハイオークに進化するでしょうし、契約をしてみては?」



 なんだろう、このギアッチョさんの推しっぷりは。

 何故だか、妙にこのオークを評価しているようである。

 確かに普通のオークではないようだけど、どうしたものか。



「あの、俺、いつかは魔王軍の幹部になりたいと思ってるんです! レブル様の配下に加えていただけるのでしたら、是非お願いしたいです!」



 キラキラとした目でオークが迫ってくる。

 僕は未だ残るトラウマから腰を引いてしまったが、いつまでもビビっていられないと思い直し、なんとか踏みとどまる。



「……結構危険な業務になると思いますが、それでも平気ですか?」


「っ! はい! 望むところです!」



 うーん、凄い上昇志向だ。

 これは確かに有望株かもしれないな。

 よし、決めた。彼と契約しよう。



「えーっと、お名前を聞いても宜しいですか?」



 僕は召喚契約のスキルを起動しつつ、名前を尋ねる。



「名前は、まだありません。宜しければ、レブル様が名付けてくれないでしょうか?」



 昨日の僕と同じ状態か……

 でも、この場合、僕が名付けてもいいのだろうか?



「問題ありません。レブル様が好きなように名付ければ宜しいかと」



 確認するようにギアッチョさんに視線を送ると、そんな回答が返ってきた。

 じゃあ、折角だし名付けもさせてもらおうかな。



「では、今日から君はサムソンと呼ぶことにするよ。よろしく、サムソン」


「は、はい! よろしくお願いします! レブル様!」



 僕の握手にサムソンが応じる。

 こうして、僕とサムソンの契約が成ったのであった。



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