第11話 『翻訳の宝珠』
とりあえず、ギアッチョさんから色々と情報を聞き出すことにしよう。
「ギアッチョさん、ちょっと宜しいですか?」
「はいレブル様」
僕が声をかけると、ギアッチョさんは仕事の手を止め、畏まった様子で膝を付く。
その反応に、僕は慌てて普通に接してくれるようお願いする。
「ギアッチョさん、僕と接する時は普通の態度で構いませんので」
「しかし、それでは他の者達に示しが……」
「いいんです。僕は幹部だけど新人でもあるんで、あまり偉そうにしたくないんですよ。印象とかもありますから……」
「そういうものですか……」
いや、実際は威厳とかがあった方が良いかもしれないけど、僕には荷が重すぎる。
偉そうなフリをしてもいずれ破綻することが目に見えているので、最初から自分のやり方で通すつもりだ。
「お願いしますね。……それで、少し相談があるのですが、お時間をいただいても宜しいですか?」
僕が声をかける前、ギアッチョさんは何やら作業をしていたようなので、あまり時間を取らせてはいけないかもしれない。
もし時間がないようであれば、予定を聞いてどこかで時間を作ってもらうつもりだった。
「はい大丈夫です。これは定期業務に過ぎませんので、いくらでも時間の調整は可能です」
ギアッチョさんは何やら魔石を磨いていたようだが、急務ではないらしくそのまま魔石を片してしまった。
「それで、どのような相談事でしょうか?」
「あ、はい、実はですね、早速ワールドマップで冒険者達の監視を行ったのですが……」
僕は一通りマップ全体を見て得た感想と、今後の課題について説明する。
ギアッチョさんは見た目通り聡明なようで、僕の説明を聞くと今抱えている問題についてあっさり理解してくれた。
「なるほど。戦力の増強のため、魔王軍の幹部達や配下とコミュニケーションが取りたいということですね」
「はい。ですが自分、新人なもので一体どういう人がいるのかとか、その人? 達がどんな性格かとかもわかりませんので……」
「それはそうでしょうね。魔王様に長年お仕えしている私ですら、今の魔王軍の所属者全てを把握しているワケではありませんから」
ギアッチョさんなら何でも知っていそうと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
詳しく聞いてみると、ギアッチョさんはザッハ様が魔王となる前からの側近であり、この魔王軍にはザッハ様と共に配属されたばかりなのだそうだ。
魔王軍のほとんどはザッハ様の元々の配下で構成されているようだけど、魔王軍編成にあたって組織に組み込まれた者達もそれなりの数いるらしく、そういった者達のことはギアッチョさんでもしっかり把握はできていないのだとか。
「それじゃあ、知っている方々だけでもいいので、ご紹介いただけないでしょうか?」
「わかりました。では早速ご案内いたします。……と、その前に」
そう言って、ギアッチョさんはロッカーの中から何やら水晶玉のようなものを取り出した。
「レブル様にはこれをお渡ししておきましょう」
「これは?」
「これは『翻訳の宝珠』になります。これがあれば、言語の異なる種族とも会話が可能になります。元人間であるレブル様には役立つものとなるでしょう」
『翻訳の宝珠』!? そんな便利なものがあるのか!
これは正直凄く助かる。この前のオーク達のように会話が不可能な種族とも、意思疎通が可能になるかもしれないだ。
オークは正直まだ怖いけど、これがあれば彼らともちゃんとコミュニケーションが取れるかもしれない。
「凄く助かります。これ、暫くお借りしても大丈夫でしょうか?」
「いえ、そちらは差し上げます。私には不要な物ですので」
くれる!? こんな貴重そうなものを!?
僕は思わず遠慮しそうになったが、ギリギリのところで踏みとどまる。
変に遠慮してしまうと、あとで後悔することになるかもしれないからだ。
「あ、ありがとうございます! 大切に使いますね!」
「そう壊れるものでもありませんが、もし壊れたら言ってください。まだ替えはありますので」
貴重なものだと思ったが、どうやらそこまでのものでもないらしい。
ただ、人間基準で言えばこれだって立派なアーティファクトだ。大事に使わせてもらおう。
「使い方については、特に難しいことはありません。聞くとき、伝えるときに意識すれば宝珠を介して翻訳がされますので」
「凄く便利ですね……」
「はい。種族間の
確かに、言語の異なる種族同士の諍いも、お互いの意思を伝えあえば解決できる可能性が高い。
もしかしたら、コレは本来そういう使い方がメインなのかもしれないな……
「それから、僭越ながら私もレブル様と契約をさせていただきたいと存じます」
「……え、今なんと?」
「ですから、契約です。私はレブル様と召喚契約を結びたいと存じます」
……な、なんですとぉぉぉぉぉぉぉ!?
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