第10話 監視地域の確認



 さて、早速この中立エリアをズームアップしてみよう。

 僕はリモコンを操作し、エリアを選択してからズームボタンを押す。

 ザッハ様はこの操作も慣れていない感じだったが、僕からするとこの操作はとてもシンプルで馴染みやすいものであった。

 前々世のリモコンと操作性はほとんど変わらないので、もうヘルプを見る必要もなさそうである。


 もう少しズームしてみると、いくつかのアイコンが表示された。

 どうやら、冒険者が何かのクエストをこなしているらしい。



(ここはティドラの森の入口付近だから、薬草採取クエストかな?)



 薬草採取クエストは、戦闘力に自信のない者でも受けやすい人気クエストだ。

 僕もよくお世話になったので、この辺で採取できる薬草はしっかりと頭に入っている。



(このクエストを受けているってことは、戦闘力は大したことなさそうだな)



 アイコンは『盗賊』が2名と、『剣士』が1名。

 恐らく臨時で組んだ即席パーティなのだろう。



(この3人くらいなら、僕の召喚魔法で十分仕留められるだろうけど……)



 残念ながら、彼らを仕留めることにあまり意味は無いだろう。

 恐らく彼らには、エリア攻略をする意思はないからだ。


 全ての冒険者を監視するなど不可能だし、こういった脅威性のない冒険者は相手にしない方がいい。

 運用保守業務は、あくまで現状維持、脅威性のありそうな事柄に注意するのが仕事だからだ。



(となると、やはり注意すべき場所は3か所か)



 冒険者時代、特に人気のクエストだったのが、『ラガック山脈探索』と『迷宮の森探索』、そして『サクライ平原モンスター討伐』である。

 このクエストの対象となるエリアは要チェックだろう。恐らく今も、何組もの冒険者達がクエストを受けているハズ。


 早速『ラガック山脈』をヒットしてみる。

 しかし、予想とは異なり、冒険者のアイコンは表示されていなかった。



(何で…………、あ! もしかして……)



 つい先日、この『ラガック山脈』では僕とザッハ様で冒険者パーティを敗走まで追い込んでいる。

 その情報が出回り、冒険者ギルドが警戒をしているのかもしれない。

 この地域でランダムエンカウントが発生するなんて情報は今までなかったハズなので、警戒されたとしても不思議ではない。



(ってことは、昨日のアレが、今日の業務に影響を与えたってことだ)



 偶然とはいえ、初仕事から成果を上げたということになる。

 もちろんザッハ様の成果でもあるので、あとでしっかりと報告しておこう。



(じゃあ、『迷宮の森』は、と……。やっぱり、結構な冒険者がいるな)



 『迷宮の森』は、その名の如く迷宮と化している森林地域だ。

 特に入口などは無いが、森そのものがダンジョンとしてギルドには登録されている。

 このダンジョンはあまりにも広大な上に、迷路のように道が曲がりくねっているため、未だに攻略はされていない。

 その為、中級~上級の冒険者達は、このダンジョンの攻略を目標に掲げている者が結構多かったりする。



(……こうして見ると、攻略の度合いが簡単にわかるな)



 人間だった頃の情報では、『迷宮の森』はまだ半分ほどしかマップが完成していないとされていた。

 しかし、このワールドマップで全体像を見ると、人間はまだ三分の一程度しか『迷宮の森』を攻略できていないことがわかる。

 この分だと、完全攻略にはまだまだ時間がかかりそうであった。



(となると、『迷宮の森』も緊急性は低そうだな……)



 冒険者の攻略度合いは要チェックだが、すぐに僕が対処しなきゃいけないという状況ではない。

 なので、この『迷宮の森』も『ラガック山脈』と同様、現状は監視対象に含めるだけで平気だろう。



(問題はやはりサクライ平原か)



 サクライ平原は、モンスターの討伐クエストが人気のエリアである。

 広い平原には様々なモンスターが生息しており、それぞれ強さにより分布域が異なっている。

 そのため、あらゆるランクの冒険者がこの平原に集まってくるのだ。



(サクライ平原のマップは既に完成していたハズ……)



 サクライ平原のマップは前世の僕でも見たことがある。

 マップは平原の全エリアを網羅しており、モンスターの分布域もしっかり記載されていた。

 にも関わらず完全攻略となっていないのは、最高難易度と言われる最南端のデスゾーンがあるからだろう。


 デスゾーンは、その名の如く死の領域とされる場所で、出現するモンスターがべらぼうに強いエリアだ。

 その攻略難易度ゆえに、Aランク冒険者からも敬遠されるというのだから凄まじい話である。

 ここのマップを完成させたマッパー(マッピング専門の冒険者)は巨額の富を得たそうだが、果たしていくらぐらい貰ったのだろうか……



(……っと、いかんいかん、またお金のこと考えてた)



 もう人間のお金のことなど関係ないというのに、ついつい考えてしまうのは僕が貧乏だったからだろうか?

 ……いやいや、こんな金の生る木のようなモノを持ってたら、誰だって考えるに決まっている。


 とまあそれは置いておくとして、『サクライ平原』の対応についてだ。

 このマップにはデスゾーンと呼ばれる高難易度エリアはあるものの、すでにマップは完成しており、到達する道順についても最適化されている。もし優秀な冒険者パーティが攻略に乗り出したりすれば、完全攻略される可能性は十分にあり得るだろう。



(となれば、まずはデスゾーンまでの順路を重点的に警備するか……)



 デスゾーンには、怖いもの見たさに挑戦を試みる冒険者達もいる。

 そんな冒険者達にデスゾーンが攻略できるとは思えないが、万が一に備えて警備計画は練っておいた方が良さそうだ。



(よし、じゃあこのエリアを監視設定にして、と……)



 リモコンを操作し、エリア内に冒険者が侵入したらアラームを鳴らすようにセットする。

 これで常時監視していなくても、アラームが鳴った際に対応すれば良い状態になった。



(さて、それじゃあ次は、僕の手駒になってくれるモンスターをスカウトしないとな)



 現状、僕の手駒は自分の召喚術で呼べる下級モンスターだけである。

 これだけでは、下手をすればCランク以下のパーティにすら苦戦する可能性が高い。

 だからまずは、魔王軍の中から僕に協力してくれるモンスターをスカウトする必要があった。



(でも、僕なんかのお願いを、みんな聞いてくれるかなぁ……)



 というか、言葉が通じるかすら怪しい。

 まあ、それでもやるしかないのだが……


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