第9話 保守運用業務



 翌日、魔王軍の定期集会にて、僕が魔王軍の幹部になったことを大々的に発表された。

 大小様々な魔物の前に引っ張り出されたときは冷や冷やしたが、どうやら魔族は魔者達の中でも格が高い存在らしく、結構な歓迎ムードだったみたいだ(僕には見た目で判断がつかなかったけど)。


 そして、魔王ザッハ様より直々に僕の業務内容が通達されたのだが、その内容はやはりワールドマップに関する業務を任せるというものだった。



「すまないが、ワールドマップに関する業務は、全てお前に任せようと思っている」


「え、全てですか?」


「ああ。正直私は、こう見えて肉体労働派でな。細かい仕事が苦手なのだ」



 いや、どう見ても細かい仕事が得意そうには見えませんけどね……



「でも、良いんですか? このワールドマップって、相当貴重なアーティファクトなんですよね?」


「そうだ。それは魔王になった者にのみ与えられるアーティファクトだからな。だが、私が持っていても宝の持ち腐れとなるだろう。それならば有効活用できる者に使わせた方が良い」


「そうかもしれませんが……。というか、そもそも僕が使えるものなんですか?」


「お前には既に、アドミニストレーター権限とやらを与えてある。昨日ワールドマップに直接操作ができたのもそのためだ」



 そういえば、昨日は特に何の制限もなくワールドマップを操作できたっけ。

 しかし、アドミニストレーター権限って、確か管理者権限のことだよな……

 そんな重要な権限、僕に与えて良いのだろうか?

 コンプライアンス的にも問題ありそう……、って法令なんてないんだから遵守も何もないか……



「……わかりました。その業務、このレブルが謹んで務めさせていただきます」


「任せたぞ。詳しい業務内容はこの紙面を読んでくれ。それから、操作説明についてはワールドマップのヘルプ機能を使えばわかるようになっている」



 ヘルプ機能までついているのか。

 凄いなワールドマップ……



「では、私は執務室に戻る。何かあればギアッチョに伝えてくれ」



 ザッハ様はそう言って、トボトボとした足取りで奥の部屋に戻っていく。

 どうやら、書類仕事がまだ残っているらしい。



(自分で肉体労働派って言っていたのに、なんだか可哀そうだな……)



 自分にできることであれば何か手伝ってあげたいところだが、まずは自分の仕事をしっかりとこなしてからになるだろう。

 そのためには、まずこのワールドマップの使い方を習熟しなくてはならない。



(いや、その前にまずは業務内容の確認からか……)



 渡された資料は、羊皮紙であるせいかズッシリと重い。

 枚数的には大した量じゃないようだが、中々読みごたえがありそうだ。

 まずは部屋に戻って、この資料を読むことにしよう。





 ………………………………



 ……………………



 …………





 資料の内容に一通り目を通した僕は、早速ワールドマップを起動する。

 業務は今日から早速始まっているので、できることから始めようというワケだ。


 ワールドマップを開くと、前日ザッハ様が開いたのと同様の全体マップが表示される。

 このマップは、ザッハ様の管理地域である第43支部と呼ばれる地域を表示しているらしい。

 僕も冒険者ギルドで世界地図は見たことがあるが、それよりも明らかに広い……

 これはつまり、人間が未開拓の地まで表示されているということになる。



(このマップ情報だけでも、ギルドに売ったら凄い額になりそうだな……)



 マップ情報の更新は、冒険者の基本クエストの一つである。

 これだけのマップ情報があれば、恐らく相当な報酬額が見込めるだろう。



(まあ、今の僕には関係ない話だけどね……)



 それよりも、まずは操作方法を調べないといけない。

 僕はワールドマップの本体――以降リモコンと呼ぶことにする、を操作し、メニューからヘルプを呼び出す。

 ヘルプにはリモコンの各ボタンの意味や解説が書かれており、僕はそれに従ってまずマップを詳細表示に切り替えた。



(ふむふむ、この青いエリアが魔王軍の支配エリアか)



 マップには青、赤、白の三色のエリアが表示されており、青が自軍、白が中立、赤が敵軍のエリアを意味しているようだ。

 確かに、赤と白のエリアには僕も見覚えがあるので、人間の所有するマップにも記載されている地域のようだ。



(こうして見ると、結構中立のエリアって多いんだな……)



 中立のエリアは冒険者に侵攻はされているものの、まだ攻略完了となっていない地域だ。

 冒険者はこうしたエリアを完全攻略することで、人間の支配地域を増やしていくのである。

 そして、僕の基本業務が、この中立エリアの保守であった。



(魔王軍なのに保守が仕事っていうのも、なんだか変な感じがするけど……)



 僕の仕事には、魔王軍の支配地域を増やすような内容は含まれていない。

 あくまでも、この中立エリアを中立のまま保つのが仕事なのである。



(人間だった頃はあまり考えたことがなかったけど、こうして見ると人間の方が侵略者だったんだなぁ……)



 僕は改めて、人間って勝手だなぁと思うのであった。



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