第2話 魔族転生

 


「よし、成功だな」


「?」



 意識が戻ると、僕の目の前には悪魔のような見た目の男が立っていた。



(あれ? 僕、確かオークに生きたまま食われて……)



 僕の記憶は、その瞬間で途切れている。

 まさか、あのあと誰かに助けられたのだろうか?



「んん? まだ意識がはっきりしてないのか?」


「あ、いえ、意識はあります」



 意識はある。ただ、現在の状況に頭が追い付いていないだけだ。



(もし助けられたのなら、助けてくれたのはこの悪魔のような男なのか……、って悪魔!?)



 ぼやけた頭が、悪魔という単語を意識することで急速に回り始める。

 それとほぼ同時に、僕はバックステップで一気に距離を取った。



(ん? 体が、軽い……?)



 咄嗟に行ったバックステップが、思いのほか距離を離したことに驚く。

 普段の僕であれば、ここまでの距離を取ることはできなかったハズだ。



「おいおい、どこに行くつもりだ。混乱しているのも無理はないだろうが、まずは落ち着いてくれ」



 悪魔がそんなことを言ってくるが、落ち着いてなどいられない。

 一刻も早く、ここから逃げ出さないと……



「落ち着けと言っているだろう」


「っ!?」



 逃げ出そうとした次の瞬間、僕の腕が悪魔に掴まれていた。



(嘘だろ!? あの距離を一瞬で!?)



 僕と悪魔の距離は、およそ20メートルほど離れていたハズ。

 だというのにこの悪魔は、瞬く間にその距離を詰め、僕の腕を捕らえたのであった。



(こんなの、逃げられるワケがない……)



 悪魔――デーモンはAからSランク級の化け物だ。

 最初から逃げるのなんて不可能だったのかもしれない。



「ようやく落ち着いたか、我が配下よ」



 絶望に打ちひしがれている僕を落ち着いたと勘違いしたのか、悪魔がそう声をかけてくる。



「え? 配下?」


「そうだ。お前は私が召喚した配下なのだからな」



 僕が、召喚された……?

 どういうことだ? 何故悪魔が人間の僕なんかを召喚……



「っ!?」



 掴まれている自分の腕を見てハッとする。

 か細いハズの僕の腕が、何故だか少したくましくなっていた。

 腕だけじゃない、脚や腹筋、そしてアレまでもがたくましく――って、なんで僕、裸なんだ!?



「ふむ、まだ状況を理解できておらぬようだから説明してやろう。お前は、私が魔王たる特権で召喚した魔族だ」



 魔王!? 今この悪魔、自分のことを魔王って言ったか!?

 それに今、僕のこと魔族って……



「な、何かの間違いじゃ? 僕、人間ですよ?」


「間違いではない。お前の前世が何の種族であろうと、英霊であれば魔族として召喚できる仕組みだからな」



 ……つまり僕は、あのときやっぱり死んでいて、今度・・は魔族として転生したってこと!?

 いや待て、でも英霊っていうのは少しおかしい気がする。



「でも僕、ただの人間で、しかも『サモナー』ですよ?」


「何ぃ!?」



 どうやら魔王も、僕の前世が『サモナー』だったことは意外だったようだ。

 何せ『サモナー』と言えば、冒険者の中でも完全なハズレ職扱いだったからな……



「むぅ……、まさかサモナーとは……。いや、しかし英霊として召喚されたからには、戦闘の素質は高いハズだが……」



 素質……、素質か……

 そういう見方をすれば、僕は確かに英霊としての素質はあったのかもしれない。

 何故なら僕は、元々異世界から転生してきた者だからだ。



「サモナーでありながら戦闘力は高かった、ということはないか?」


「ないです。僕は完全にサモナー一筋でしたから」



 この世界に転生する際、そう僕が願ったのである。

 そして全ては、そこから始まった。



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