第4話
「あの女神については教会で再会した時に説教するとしてだ、まずはこの金の価値について調べるか……【鑑定】この世界の貨幣価値」
サファロデの預かり知らぬところで彼の不興を買ってしまった彼女だが、今はそんなことはどうでもいいと考えた秋雨はこの世界についての情報を【鑑定】を使って調べていく。
秋雨が彼女から貰ったお金は全部で33枚、その内訳は以下の通りとなっていた。
大銀貨5枚
銀貨9枚
大銅貨9枚
銅貨10枚
ちなみにこの世界では共通の貨幣というのは存在せず、それぞれの大陸によって使用している貨幣が異なっている。
現在秋雨がいるイースヴァリア大陸で主に流通している貨幣は、ルーブル貨幣と呼ばれているもので、六種類の硬貨が存在する。
価値の低い順から銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、白金貨となっており、それぞれ10枚で一つ上の貨幣と同等の価値になる。
例えば銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚という具合だ。
どうやらこの大陸の平民が一か月暮らしていくのに必要な金額は銀貨15枚から20枚で、サファロデから貰った三ヶ月分の路銀とやらは一月銀貨20枚で計算されていた。
そして、この世界の時間の概念も調べてみたのだが、秋雨がいた世界とほとんど変わらないという事も判明した。
ほとんどという事は完全に同じではないという事だが、それも些細な差でしかない。
この世界の一年は三百六十日で、一か月を三十日としそれを十二回繰り返せば一年という計算になる。
「まあ大体こんなところか……しかし三ヶ月分ぴったりしかくれないとは、女神というのはケチなのだろうか?」
サファロデから貰った金額が余りにもぴっちりとし過ぎていたため、女神という人種は金にがめついのだろうかと妙な勘ぐりをしてしまう秋雨。
思わず鑑定を使ってサファロデとはどんな人物なのか調べかけたが、もしその結果彼女がドケチだという事が判明した場合、とてもやるせない気分になるだろうと考えた秋雨は鑑定を使うのを止めた。
(第二の人生の初っ端からブルーな気持ちでスタートするのは流石に勘弁だしな)
彼女についての文句は教会を見つけてから言えばいいと考えた秋雨は、次に自分の身体についての案件に移ることにする。
「次は身体能力だな、一応加護は貰ってるんだから弱いわけはないと思うが……」
元の世界にいた時と見た目がほとんど変わらない秋雨としては、強くなっている自覚がこれといってないためこの世界で自分がどの程度の強さなのか分かり兼ねていた。
尤も、見た目はこの世界の成人年齢である15歳にまで若返らせてあるとサファロデの手紙にもあったので、多少見た目が幼くはなっていると秋雨は予想していた。
「とりあえず、あそこまでダッシュで走ってみるか」
そう言いながら秋雨が視線を向けた先には直径2メートルほどの岩があった。
いつからそこにあったのか、それは誰もわからない。それほど長き時を過ごしてきているほどの風格を漂わせていた。
今彼がいる位置から大体30メートル先にその岩があり、普通に速く走ればおよそ5秒か6秒で到達できる。
あそこまでダッシュで走って一体何秒でたどり着けるかで身体能力がどれだけなのか試すことにしたようだ。
「でもあんまり力まずにやったほうがいいかもな……」
秋雨はその部分についてはかなり慎重だった。
大体異世界に転移した人間は、圧倒的な力に慣れておらずやりすぎてしまう事が多々ある。
それは戦闘能力に限らず、様々な分野で転生者は自重を知らないのだ。
時にはそれが原因で面倒事を呼び込んでくることもあり、本末転倒も甚だしい。
だからこそ秋雨は最初の力加減を普段よりも意識して心掛けるようにするつもりだった。
ここで力加減を誤り、この周囲の地形を変えてしまうような愚行を犯せば、たちまち化け物認定をこの世界に来て早々受けることになってしまいかねないのだ。
「よし、いくぞ……はっ!」
力加減に注意を払いながら全力の半分の半分くらいをイメージして地面を蹴る。
その瞬間気が付いた時には目の前に岩肌が突如として現れていた。それを見た秋雨は理解した。僅か瞬き程の時間という一瞬で30メートルの距離を走破してしまったことを。
「あぶねえ、やっぱ力をセーブしといて大正解だ。普段通りにやってたらこの岩を砕いて周りの風景が森から荒野になってただろうな……」
最悪の事態を想像し、秋雨は冷や汗を流しながら呟く。それだけ先ほどの一連の行動は意味深いものだったのだ。
さらに確認のため、試しに目の前の岩に軽くノックするとメキメキと音を立ててヒビが入ったため、改めて秋雨はの自分の身体能力が化け物染みていることを理解させられてしまう。
「こりゃ下手すりゃ全力で殴ったら、殴った相手の身体ごと爆散するだろうな……どこのスプラッターマシーンだっての! 俺はアイスホッケーマスクを被った某キャンプ場がホームグラウンドの化け物じゃねえぞ!!」
秋雨は先ほど自分がツッコんだ、アイスホッケーマスクを被った化け物の方が今の自分よりも矮小な存在ではないだろうかというどうでもいいことを考え出し始めた時、突如として女性の悲鳴が森に響き渡った。
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