第3話



「ん……ううん……」



 まばゆい光に包まれた秋雨は、強い光に思わず手で目を庇う。

 しばらくすると光が徐々に弱まっていきとある風景が目に飛び込んでくる。



 そこは平たく言うのであれば森の中だった。

 ただ誰も人の手が加わっていないような未開の地の森というよりは、ある一定の頻度で人が踏み入れられた痕跡があり、森という表現よりもどちらかと言えば林という表現が近い規模の場所だった。



「ここ何処だ? ああそうだ、こういう時こそこれだろ……【鑑定】現在地」



 秋雨はさっそく女神サファロデに与えてもらった加護の力の一つである【鑑定】スキルを使い、この世界から見て現在いる場所が何処なのか調べてみることにした。



 その結果現在秋雨のいる場所は、イースヴァリア大陸北東部に存在する国の一つバルバド王国南東部に位置する都市グリムファームの街から徒歩30分の距離にある森の中だということが分かった。



 この世界は東西南北に渡り四つの大きな大陸に分かれていて、北のノースヴァリア、南のサウスヴァリア、西のウエストヴァリア、そして東のイースヴァリアとなっている。

 加えてそれぞれの大陸によって種族の分布比率が異なっており、北は魔族、南は獣人族、西はドワーフ族とエルフ族、そして東は人族がそれぞれ住んでいる種族の比率が高い。



 それ以外にも海に居を構える海人族や特定の決まった場所に居を構えない妖精族など、様々な種族がそれぞれの文明を築き上げ今日に至るといった具合だ。

 この他にも少数民族として数えられている多種多様な種族がそれぞれの大陸に分布しており、中には未開の地と呼ばれる場所に独自の文明を持つ種族も存在する。



「なるほど、バルバド王国ね……当たり前だけど、聞いたことのない国だな」



 この世界が秋雨のいた世界でない以上この世界の国の名前を知らないのも無理はない。

 寧ろ知っている方がおかしな話なので、彼の反応は当然と言えば当然の反応だった。



「この国の事は分かった。じゃあお次は……って、なんだこれ? 光ってるぞ」



 今の現在地が確認できたところで、次に確認すべき事案に移ろうとした秋雨だったが、ふと自分の腰に下げている皮袋から光が漏れているのを発見する。

 光を放っている物体を皮袋から引っ張り出すと、それは15cm角のメモ帳を千切ったような白い紙だった。



「これは、手紙か?」



 光が消えていくとそこに残ったのは、どうやら文字が書かれた手紙だった。

 差出人はこの世界に送ってくれた女神サファロデからだった。



「なになに、『拝啓、日比野秋雨様……』ってかこんな小っちゃいメモ用紙に手紙の慣用句を使うなよ!」



 そこには拝啓から始まり、いかがお過ごしでしょうかという今の状況で全く意味のない言葉の羅列が列挙されていた。

 それでも一般的な社会人が出す手紙の慣用句としては無難なものであったためそれ以上はツッコまずに本題を読むことにした。



『さて、ここから本題です。言い忘れていたことがいくつかありましたので、手紙で伝えることにしました。一つは今の君の見た目は以前の姿と変わりません。こちらの世界では15歳が成人なので、サービスで見た目をそれくらいの年齢に若返らせておきました、てへ♪ それと元の世界の服装では目立つでしょうから一般的な平民の服と変えてあります。最後に先立つものが必要かと思い三か月分の路銀を持たせてあるので、できるだけ早く職を見つけてくださいね。長々と話しましたが、言い忘れた事は以上になります』



 手紙を読み終えた秋雨は思わず顔に苦笑いを浮かべる。

 よくもまあこんな小さい紙にこれだけの文字を書けたものだなと呆れの感情を抱いた。



「まあとりあえず、サンキュー。最初から無一文じゃないのは有難いな、まさに女神様様ってやつだな」



 改めて、自分をこの世界に送ってくれた女神の凄さに感心していると、突如として手に持っていた手紙が燃え始めた。

 いきなりの事で、火傷しそうになる手を間一髪で手放すことで何とか火傷する事は避けられたのだが――。



「おいおい、なんだよいきなり? なんで燃えたんだ?」



 そう思っていると、独りでに手紙が動き出し秋雨の目の前で止まると、そのままめらめらと燃え続けている。

 そして、手紙が燃え尽きる直前に追伸が記載されていたことに気付き、なんとか読むことに成功したのだが、その内容というのが。



『追伸、この手紙は読み終わると自動的に燃えて無くなります。だから火傷には気を付けてね♪』


「そういうことは先に言っとけよぉぉぉおおおお!!」



 サファロデの不親切な手紙の書き方に思わずツッコんでしまう衝動を抑えられなかった秋雨は、雲一つない空に向かって大声で叫んだ。

 だがその声は当然彼女に届くことはなく、何とも言えない空気が漂うだけだったのであった。

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