第2話



(さて、こういった状況は知識としては持っているが、とりあえずは魔法の世界っていう話だから膨大な魔力だろ。それと肉体的な戦闘能力も欲しいから身体能力の高い丈夫な身体だろ。あとは情報とかも重要になってくるだろうから、どんなものでも見透かしてしまう鑑定能力も欲しいし、あとは向こうでどんな仕事をするかわからないが、料理ができたらいいかもな、あとは……)



 そういった具合で頭の中で必要な能力をピックアップした結果、とりあえず出てきた能力は全部で5つだ。



 順番に上げると膨大な魔力、丈夫な身体、鑑定能力、料理、錬金術または薬師だ。

 先の四つは彼が理由を述べたので割愛するが、錬金術または薬師についてはどういう事かと言えば魔法薬という存在に起因している。



 魔法薬またはポーションと呼ばれることもあるが、ファンタジーな物語で必ずと言っていいほど登場する便利アイテムだ。

 大概がちょっとした傷から命にかかわるような怪我までを瞬時に治してくれる薬で、他にも魔力を回復するマナポーションと呼ばれるものも存在する。



 そのポーションというものを作れるのは錬金術師または薬師と呼ばれる存在が一般的だ。

 だから秋雨としてはポーションが作れればその薬を売って生計を立てることができるだろうという金策としての意味が強かった。



 自分の考えが纏まった秋雨は、改めてサファロデに向き直ると自身の希望を伝えた。



「魔力に丈夫な体、それと鑑定に料理と錬金術ね。それだけでいいの? もっとこう魔王を倒せる力が欲しいとか、勇者になりたいとかはないの?」


「内容が漠然とし過ぎだろ……それにいきなり世界の命運を担うなんてまっぴらごめんだ」



 そう言いながら秋雨が呆れた視線をサファロデに向ける。

 せっかく二度目の人生を歩むのならば、ゆったりとした生活を送りたいと彼は思っていた。



「そう、あなたが向こうの世界でどんな人生を送ろうと自由だし、わたしとしては何も問題ないわ。じゃあ他に細かい要望とかは無いかしら?」


「そうだな、膨大な魔力とは別にどんな魔法でも作れる【創造魔法】が欲しいのと、あとはどんなものでも持ち運びができるアイテムボックスかな」



 サファロデの問いに秋雨は咄嗟にそう答えた。

 なぜそう答えたのかというと、この時彼の中である疑問が浮かんだのだ。



 いくら膨大な魔力を持っていようともそれを十全に使いこなせてこその膨大な魔力だと。仮に魔力はあってもその魔力を使えなければそんなものはいくらあったところで意味を成さない。



 だからこそ、魔力を活用するための魔法自体を創造できれば、少なくとも魔力を無駄にするこはないだろうという結論に至ったためだ。



 アイテムボックスに関しては、先の創造魔法の能力を思いついた時にまるで芋づる式のように関連して思いついたものだった。

 どんな大きさの物でも持ち運び可能で、アイテムボックスに入れている間は時間経過による劣化もないという便利なもの、それがアイテムボックスだ。



 物語によって魔法アイテムだったり、時空魔法の一つとして覚えることができたりとその存在概念は様々だが、総じて言えることはこの上なく便利なものだという事だ。



「【創造魔法】については問題ないけど、ごめんなさい、アイテムボックスはこれから行く世界ではアイテムとしては存在してないのよ……でも時空魔法を覚えれば、その中にアイテムボックスと同じ能力の魔法があるから、向こうの世界に行ったら【創造魔法】で時空魔法を覚えてそこからアイテムボックスを覚えて頂戴」


「わかった、じゃあ早速頼むわ」


「了解~」



 まるでそこらの女子のようなノリに一瞬不安が過ったが、思っていたよりも簡単にその作業は完了した。なぜならサファロデがやったことといえば指をパチンと鳴らすだけだったのだから。



 その瞬間体に違和感を覚えたが、その後何事もなかったかのようにいつもの状態へと戻っていった。



「はい、これであなたが望んだ能力は贈呈できたはずだけど、ちょっと確認してみてくれないかしら?」


「確認ってどうするんだ?」


「簡単よ、頭の中で【ステータス】って念じれば確認できるはずよ」


「そうか、やってみる」



 サファロデの言った通り、秋雨は頭の中で【ステータス】と念じた。すると頭の中に情報が浮かんできた。




名前:日比野秋雨


年齢:22


職業:なし


ステータス:



 レベル1



 体力 100000


 魔力 100000 


 筋力 1000


 持久力 1000


 素早さ 1000


 賢さ 1000


 精神力 1000


 運 1000



 スキル:創造魔法Lv1、料理Lv1、錬金術Lv1、鑑定Lv1



(ふむふむ、このステータスが高いのか低いのか分からんが、さすがにチート能力を付けられといて低いという事はないだろうな。でも流石にスキルの類はレベル1からか)



 実際の所秋雨が貰ったこの能力は破格と言っても過言ではなかった。

 その事を後になって秋雨は思い知らされることになるのだが、今の彼がそれに気付くことはなかった。



「これでわたしがあなたに与えることができる加護の受け渡しは終わったわ、最後に一応聞いておくけど、他に何かあるかしら?」


「そうだな、一応向こうの世界でトラブった時のためにあんたと連絡できる手段が欲しいかな、そんな頻繁に連絡することはないがどうしようもなくなった時に頼れる存在がいるのといないのとでは違うだろうからな」


「それなら、向こうの世界に行けば教会があるからそこで祈りを捧げれば大丈夫よ、あなたも言った通り頻繁には無理だけど何かあればわたしと連絡が付けられるわ」


「わかった、詳しいことは向こうの世界で行ってからいろいろ自分で調べてみる」


「じゃあすぐに向こうに行ってもらうけど、準備はいい?」


「ああ、やってくれ」



 秋雨の言葉を受けて、彼に能力を与えた時と同じように指をパチリと鳴らす。

 すると彼の体が淡い光に包まれ、その光が強く輝くと彼の姿はその場から消え失せていた。



「いってらっしゃい、多分苦労すると思うけど楽しんできてね」



 もはやその言葉を聞く相手がこの場にいなかったが、サファロデは敢えてそう呟いた。

 その呟きは彼がこれから待ち受けている運命を知っているかのような口ぶりであった。

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