悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号

第一章 冒険者に俺はなる

第1話


「というわけだからよろしく」


「はい?」



 突如としてそう宣言された男だったが、彼には何のことだかさっぱりわからなかった。

 それもそのはず、なぜなら気付いた時には見覚えのない謎の空間にいて、今目の前で自信満々でいる謎の美女にいきなりそう言われたのだから。



 年の頃は二十代後半の金髪碧眼の女性でその顔立ちは恐ろしいほどに整っており、色情的な色香を漂わせている。

 女性として均整の取れたナイスバティに表面積の少ない生地に包まれた二つの大きな膨らみは今にもこぼれ落ちそうなほどだ。



 服装は白を基調とした純白のドレスであるが、生地が薄いためその艶めかしい肢体が所々見え隠れしていて目のやり場に困ってしまう。



 年代から考えて、古代ギリシャに登場するウールを使った一枚布を体に巻き付け、はだけないように帯やピンなどを使用して体に纏わりつかせている服装に酷似していた。

 尤も、実際は布一枚を巻き付けたというよりも、隠すべき大事な部分を辛うじて隠しているという意味合いが強いだけのただの露出狂とも見て取れる。

 


 そんな痴女と言っても差し支えない彼女の姿を見て、目のやり場に困っている彼の名前は日比野秋雨(ひびのあきさめ)、今年大学四年生で就職を控えていた22歳の青年だ。日本人独特の黒髪黒目のどこにでもいる好青年なのだが、なぜ彼がこのような事態に巻き込まれているのかと言えば、端的に言えば突然の事故で死んでしまったからだ。



 秋雨が大学で卒業に向けての論文の仕上げを行うため大学へ向かっていた時にそれは起こった。



 通い慣れた並木道を横切り、秋から冬に変わろうとしている木から剥がれ落ちていく枯れ葉を横目にしながら彼が歩いていると、何かの高層ビルを建設している工事現場に差し掛かる。そこでは重さ数トンほどもある鉄でできた鉄骨がクレーンで運ばれている最中だったらしい。目的地である大学まではその工事現場を横切り道なりに進んだ先にあるのだが、そこで突然鉄骨を支えていたワイヤーが切れてしまう。支えを失った鉄骨は重力に逆らうことなく落下し、ちょうどそこを通りかかった秋雨の頭上へと降り注いだのだった。



「俺は……死んだのか?」



 自分が最後に覚えていた光景を思い出し突如としてそう呟く、その問いかけに目の前にいた美女はその事実を彼に突きつけるよう肯首する。



「ええ、即死だったわ……というわけだからよろしくね」


「だから何をよろしくするんだ? 絶対説明すっ飛ばしてるだろ!?」


「わかったわよ、面倒だけど説明してあげるわ。そうねどこから話そうかしら……」


「そもそも、あんたが何者なのか教えて欲しいんだけど?」



 秋雨の疑問は至極当然の疑問であった。

 まさに今自分が置かれいる状況はとても非現実的なことであり、信じられないことだろう。だが実際人というのは自分の目で見たもの以外人から聞いたものだとあまりにも突拍子なことであるため信用しないのだ。



 だが彼は今実際にその目で見て感じてしまっている。そのため目の前で起きてる事を否定しようがないのだ。



「ああ、そうだったわね、私の名前はサファロデ。あなたの世界でいう所の神と呼ばれる存在よ。それでさっきも言ったけど、あなたは不慮の事故で死んでしまったの。けど安心して、あなたには生き返る権利が与えられるわ」


「夢じゃないんだよな? それでその生き返る権利ってのは?」



 思わず今のこの状況が夢ではないのかという言葉を首を横に振りながら否定するサファロデ。続けて秋雨が疑問に思った事を答え始める。



「さすがに生き返る権利と言っても、一度死んでしまった人間を元の世界に生き返らせることはできないんだけどね、別の世界で生き返ることになるんだけど、その点は我慢して頂戴」


「あ、ああ……それで、その生き返る世界ってのはどんなとこなんだ?」



 本音を言うと秋雨としては、不慮の事故で死んだのなら元の世界に生き返らせてくれてもいいだろうにと内心で思ったが、自称とはいえ神を名乗っている彼女ができないというのであれば、そういうものなのだろうと納得するほかない。



 今はそれよりも自分がこの先生き返るであろう世界の情報を少しでも手に入れておくべきだと頭を切り替えサファロデに質問する。



「文明のレベルとしては、中世くらいの文明力しかないけどその代わり魔法というものが物凄く発展している世界で、簡単に言うとファンタジーの世界と言えば分かるかしら?」


「あ、ああ……」



 秋雨はどちらかと言えばそう言った類の小説や漫画を好んで読んでいたこともあり、彼女の説明はなんとなく理解できる。だがしかし、理解できるのと実際それを体験するのとでは当たり前だが訳が違う。まさか自分が異世界転生の主人公になるなど夢にも思っていなかったからだ。



「そこで、その世界に行ってもらう前にいくつか神の加護のような能力を与えられるんだけど、どんな能力がいいのか希望はあるかしら?」


「まさに異世界転生でありがちな展開だな……そうだな考えるからちょっと待ってくれ」


「いいわよ、ここの空間は時間の経過の概念が無いから何千年でも考えて頂戴」


「ならお言葉に甘えて」



 サファロデにそう言うと、秋雨は腕を組みながら精神統一をするかの如く目を瞑って考え始めた。

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