煙々羅
しづが
鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』より
一、紫煙
時刻は午前三時三十分。
「どうにかしないと、店と共倒れしてしまう」
タバコに火を
二本目のタバコを
フロアタイルの上でタバコが煙を立てている。
やがて、煙は
「そろそろ
二、同情
「そりゃ、お前、
「ほら、これが
うすぼんやりとした煙が立ち上り、人の子どものような像を結んでいる。
「あまり、見ていて楽しい気分になる絵じゃないな。何だか不安を掻き立てるような、妙に居心地が悪くなるような感じがする。少なくとも、俺は好きになれそうにないな」
「いや、
「お前は昔から臆病なところがあったからな。僕も度胸がある方じゃないが、お前のは
「いつまで
「お前も結婚してみろよ。嫁さんが家にいるっていうのは良いもんだぞ。生きている理由が一つできるからな。子を授かれば二つも理由ができるんだ。
「いないな。こんな不安定な商売をしている奴に
そこまで言うと、
「そういえば、お前のところの
三、ゲーム
「女性が一人歩きして良い時間じゃない」そう言うと、
「
「それはありがたいけれど、このお店も困ってるんでしょ。稼げる客は大事にしておいた方がいいんじゃないかしら。絞れる時に絞っておくべきよ」
「以前から
「そうね、一人が好きなのよ。今日はお
「十の質問というゲームよ。あなたの質問にイエスかノーで答えていく。その回答から私が就いている職業を推察してみなさい。もし正解したら、あなたの願いを一つ叶えてあげる」
「質問、あんたは仕事に就いているのか?」
「回答、イエス。定職に就いているわ」
「質問、充分な収入を得ることができる仕事か?」
「回答、イエス。食うに困らない程度には稼げているわ」
「質問、
「回答、無回答ね。
「質問、仕事に満足しているか?」
「回答、それも無回答。満足の程度が分からないわ」
「質問、体力が求められる仕事か?」
「回答、イエス。重労働だと思うわ」
「質問、他人に
「回答、イエス。ある種のサービス業に違いないわね」
「質問、女性にしかできない仕事か?」
「回答、ノー。以前まで女性の仕事だったけどね」
「質問、恋人はいるのか?」
「回答、ノー。あら、
「質問、子どもはいるのか?」
「回答、ノー。面白い質問ね」
「質問、親は健在か?」
「回答、イエス。両親共に健康よ」
十の質問が終わった。
「あんたは公務員だ」
「不正解。あなたは優しい人ね。初めから正解する気なんてなかったくせに。でも、私はあなたのことをちょっとだけ理解したわ。当ててみせましょうか?」
「まず、あなたが私に好意を抱いていることは明らかだわ。そうでなくちゃ、私の生活について知りたいなんて考えないからね。思い上がりじゃないといいのだけれど、たぶん
次に、あなたの質問には、ある種の
面白いのは、それを確かめた後の質問よ。あなたは家族についての質問を連続でしている。あなたは確信を得たはずなのに、それを非難するような質問をした。これはちょっと不自然よね。私は色々と考えたわ。
ここからは、私の勝手な想像よ。あなた、お母さんと
いずれにせよ、あなたは
「
「
四、孤独
いつの間にか
「俺は母親が恋しいのだろうか」
宙空に漂う煙が、暖色の照明の下で
タバコから立ち上がる煙は、ぼんやりと膨らみ、次第に像を結びつつある。
数分後、アルコールが
夏、
(了)
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