犬神
病の憑きし
紫の染芳
『狂歌百物語』より
一、退屈と憂うつ
昭和六十二年の夏のことである。僕は
北九州の盛夏は想像以上に
あそこには
道路を挟んで向こう側に、
大学の夏季休校を利用して、北九州までやって来ると、
「人はおおむね自分で思うほどに幸福でも不幸でもない。
二本目のタバコに火を
「
「この度はお疲れ様でした。それでは失礼させていただきます。皆様のもとに安らかな日がおとなうことを
適当な
大通りの角を曲がり、屋敷が見えなくなるまで、僕たちも沈黙を守り続けた。
「さあ、お茶にしましょうか。ようやく、一息つくことができそうだ。どこのお店にしますか。疲れちまいましたよ」
車を走らせてから、きっかり十分後に
「あら、タバコを
過ぎ行く街並みを眺めながら、
「もう、けっこうです。それでは、この住所のお
「とはいえ、私の留守中に車の中を
意外な申し出に少なからず喜んだ。僕は
二、依頼人
とあるマンションの一角に
「
「今日は私に紹介したい方がいらっしゃるみたいだけど、
そう
「はい、
主人の
「お会いできる日を心待ちにしておりました。
「あんた、
そう言うと、
「
扉を開けると
「とにかく、頭が痛くてしようがないのです。あまりに痛くて立っていられなくなることもあるくらいです。病院に行っても
「ご
そういうと
「あの、これから
しかし、
「あなたが気にする必要は、これっぽちもありません。立場を
三、儀式
四つの影がヌラリヌラリと
「
「
壁に
さんざん、
「息してない。息してないよお」
「
僕は
「
僕は
「どこに電話を掛けるつもりですか。もう、手遅れです。
「
僕の
「先生のご意見を伺いましょう。先生なら良い知恵を
――
僕たちは
「何をするのです。あなたは大変な思い違いをしているのです。
「
――狂っている。世界が狂っている。どうにかしないと、僕までおかしくなってしまいそうだ。僕は恐怖を感じている。
いまや、僕の身体は恐怖によって
数分後、
四、禊
視界が白い
「
乱暴とはそぐわない
身体が椅子に
「
「この
「
「
鼻と口から水が流れ込み、
「
「もう、そろそろいいでしょう。
「あ、何かブツブツと
「
やがて、
「
脱衣所の
白いシャツは血に染まり、髪は水に濡れていたが、さほど気にすることもないまま、
僕は疲労のためにおぼつかない足取りで街をさ迷い歩きはじめた。どこを歩いているのかは知らないが、どこへ行くべきなのかは明らかだった。運が良ければ、僕の身なりを見て、向こうの方から
多くのものを失った気がしてならない。一滴の涙が頬を伝って落ちたが、その理由は自分にも分からない。ただ、
それにしても、ここはどこだろう――。どうやら、
五、ある雑誌記事の抜粋
北九州市で猟奇事件発覚か?
昭和六十二年八月九日、福岡県北九州市内の
同年八月十二日、警察は市内の某マンションに踏み込んだが、あまりに
すぐに遺体の
マンションの持ち主である
死体を
八月十二日に北九州市の某マンションで発見された死体遺棄事件に進展があった。事件は八月九日に同市内の
事件は会合中に
警察官らが現場に踏み込んだ時、部屋の中は異常なほど熱気が
(了)
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