枕返し
死し如くよく
南枕も北とこそなれ 南向堂
『狂歌百物語三篇・枕返シ』より
一、
ログナンバー・220401
――KEYさんがログインしました。
KEY:ご
身辺の整理がついたので、ご挨拶に来ました。
風船:おお、新しい生活が、ついに始まったようだね。
そっちは岩手県だったっけ。
マロ:こうしてチャットするのも久しぶりな気がする。
お
地で
れない。
KEY:はい。
ますが、腐ったような生活を送っていた頃よりは
風船:前向きになれたようで良かったよ。こっちにいた
時は本当に辛そうだったからね。もう、新しい就
職先は見つかったのかな。
KEY:いや、まだ見つかっていませんね。バタバタして
いたので、就職先を探す
でも、実家の管理をしてくれるなら、しばらくの
間は生活費の援助をする、と言ってくれる親戚が
いるので助かっています。
マロ:まあ、人生は色々とあるからね。生きているだけ
でも立派なもんだ。それより、疲れていると言っ
ていたけれど、実家の管理って具体的には何をし
ているのかな。
KEY:今のところはひたすらに掃除をしています。広い
うえに古い屋敷なので、いくら時間を掛けても終
わらないのです。生前の
たこともあって、部屋や道具の整備にまで手が回
らなかったようなのです。
風船:これから冬を
ら、きちんと準備しておかないと大変なことにな
りそうだね。
KEY:はい。いまだに
すからね。
知りましたよ。都心から離れている地域なので、
ネットや電気を繋げるのも
マロ:お疲れ様です。まあ、休める時に休んだ方がいい
と思う。苦労は買ってでもしろ、とは言うが嘘も
いいところだね。生きていくだけで苦労は積もる
ものなのに、
KEY:全く同感です。ここまで来るだけでも
しましたよ。それが原因してか最近は妙に
悪くてしょうがないのですよね。思っているより
も疲れているのかもしれません。
風船:新天地での暮らし向きに疲れているのかもね。
れないことも多いみたいだし。
マロ:かもしれないな。具体的にはどんな夢を見るのか
な。
KEY:あくまでも夢の話なので、目が覚めた時には、大
体のことを忘れてしまっているのですが、知らな
い屋敷に迷い込むというか、一人取り残される夢
ですね。
風船:今、住んでいる実家のことじゃないのかな。
KEY:違います。間取りが全然違いますから。それに僕
が管理している屋敷よりも古い感じがします。
しくは覚えていないのですが。
マロ:夢とは記憶の蓄積が無意識下に表出したものだ、
と聞いたことがある。それもどこかで見たり行っ
たりしたことのある場所の記憶なんじゃないか
な。
KEY:そう言われてしまえば
あたるフシが少しもないのです。それに妙に不安
になる夢で、ちょっとだけ困惑していたりもしま
す。
なくさまよい歩くだけなのですが、僕の他にも屋
敷の内に誰かが
になって逃げているみたいな。
風船:それはちょっと気味が悪いね。そういう夢を
に見るのかな。知らない屋敷の中に一人取り残さ
れて、何者かから
KEY:
現れる屋敷は同じ場所だという気がします。一週
間のうちに二回から三回ほどの
ずの屋敷の中を歩かされています。
マロ:やっぱり、新生活が影響しているように思える
んだよな。ゆっくり休んで忘れてしまうのが一
番なのだろうけれど、夢の中まで
まっているようなら逃げ場がないよな。
風船:
疲れているような気がするんだよなあ。寝ても
覚めても家に取り憑かれているように感じる。
外出して遊びに出かけるのも一つの手段だと思っ
てみたりしている。
KEY:遊びに行きたくても、こちらに越してきたばかり
なので、金銭的な余裕がないのですよね。実家の
整理と管理をするという名目で親戚から援助して
もらっている身分なので、自由気ままに振る舞う
わけにもいかないのです。
う。
風船:思ったよりも複雑な事情があるみたいだね。
マロ:微妙な立場にいることは理解したよ。
KEY:気を
それにしても、
やっぱり、覚えていないだけで見たり行ったりし
た経験がある場所の記憶なのでしょうか。
マロ:まあ、ちょっとだけ不思議な世界の話になってし
まうのだけれど、全く思い当たらない事ではな
かったりする。困惑しているところに
りするようなマネはしたくないのだけれど。
風船:実は私も何となく思いあたるフシがあるんだよ
ね。岩手県で夢の中に現れる古屋敷の話と聞いた
ら、あれを思いつくよね。確か、柳田國男の『遠
野物語』だっけ。
KEY:気になります。教えてください。
マロ:俺もさほど
県の
や説話が多く残されている。その中には
れるという不思議な
般に「マヨヒガ」と呼ばれているな。
風船:「マヨヒガ」は訪れた者に富を授けるとも
ているね。たいそう、立派な屋敷なのに
い。部屋の中には食器が山のように収められてい
る。その食器の一部を持ち出して使えば、穀物が
どこからともなく現れて尽きることがないそう
な。
マロ:まあ、大体はそう言われているね。その食器を
が正しいのだけれど。
そう記されている。
KEY:僕の見る夢もそういった
か。幸福の
に薄気味悪い場所なのです。
マロ:まあ、「マヨヒガ」も気味の悪い屋敷だと言われ
ているし、
るくらいには。もしかしたら、夢に見る屋敷もそ
の
風船:気休めにしかならないのかもしれないけれど、必
要以上に
一度、夢の中を散策してみて、食器の部屋がある
かどうかだけでも確かめてみてもいいかも。
KEY:今のところ
また夢に見たら思い切って屋敷の中を調べてみよ
うかな。自由に探索できるかどうか分かりません
が。
動けないのです。
マロ:夢の中の話だから、仮に食器の部屋を見つけたと
しても、実際に持ち出せるとは思えないけど、
「マヨヒガ」だとしたら幸運の
れば充分なのではないかな。少なくとも、
対象ではないわけだし。
風船:そうだね。あまり力になれなかったようで申し訳
ない。何にせよ、また会えて嬉しいよ。
こともあるだろうけれど、
ましょう。
KEY:はい。ありがとうございます。
でお
す。それでは失礼します。
――KEYさんがログアウトしました。
二、
ログナンバー・220521
――KEYさんがログインしました。
風船:おお、久しぶりです。そっちでの生活には
てきたかな。
マロ:久しぶりだな。何か進展はあったのか心配してい
たところだ。ゆっくりとしていくといいよ。
KEY:お
言った感じですかね。奇妙な
何だか疲れています。起きているのか、眠ってい
るのかよく分からないこともあります。
マロ:すっきりと起きられないような感じかな。
KEY:それもあるんですが、起きたと思ったら夢の中
だったり、夢を見ていると思ったら
り、現実と夢の間を
す。ちょっと不眠気味でもあります。
風船:ふむふむ。かなりお疲れのご様子ですね。あれか
ら連絡がなかったから、みんな心配していたん
だ。
マロ:あれから少しだけ調べてみたんだけれど、あまり
夢の深追いはしない方がいいのかもしれない。
KEY:ありがとうございます。でも、一度でも気になっ
てしまったら解答を導き出さないと納得がいかな
い性分なんですよね。
風船:相変わらず、
KEY:はい。段々と鮮明になっています。記録を残すよ
うにしていますから。夢の記録は良くないと聞い
たことがありますが、好奇心には勝てない感じで
すね。
マロ:さっきも言ったけど、夢の深追いは止めた方がい
いと思う。あの時は無責任なことを言ってしまっ
てすまなかった。
KEY:謝るようなことではないですよ。いずれにせよ、
調べるつもりでいました。遅かれ早かれ同じこと
をしていましたよ。
マロ:俺は医者じゃないから確実なことは言えないけれ
ど、あまり
ではないかな。
風船:それには同意見だね。現実と夢の境界が
なっているようなら医療を受けた方がいいと思う
よ。
KEY:お気持ちは
それに、少しだけですが夢の中の
分かってきたところでもあるのです。夢とは無意
識下の記憶の表出と言っていましたね。
マロ:言ったね。覚えているよ。
KEY:あれは、たぶんですが、正しいのだろうと思いま
す。厳密には見たり行ったりした経験はないので
すが、夢の中の
じ記憶を
風船:あれ、この前は違うって言ってたよね。
KEY:確かに、夢の中の
る屋敷は間取りなどが大きく違っています。
でも、一つだけ共通している
す。
マロ:夢の中の
通項を見つけたということかな。
KEY:はい。間取りは違っていても柱の位置が同じ
でした。
や色は違いますが同じなんです。
マロ:よく分からないな。夢の中の
している実家の
うことかな。それで二つの屋敷は同じ建物だと解
釈したのかな。
風船:間取りが違うなら別の場所なのではないかな。夢
が無意識下の記憶の表出というなら、一度は
KEY:僕も困惑しました。確かに夢の中の
えのない場所です。それで、ちょっと親戚に訊ね
た上で実家の中を
た。
マロ:ふむ。それで何かを発見したのかな。
KEY:どうやら、今の実家は戦後に新しく
のらしいことが分かりました。具体的には昭和二
十年より前には、全く違った造りの建物だったら
しいのです。でも、さすがに全改築というわけに
はいかなかったらしく、
わっていないようなのです。
マロ:それはちょっと興味を
造りの家だったかは分からないのかな。
KEY:見取り図のような
してしまったようですが、
の中から古い写真をいくつか見つけました。夢に
見る
マロ:つまり、夢に現れる
家の記憶だったということか。
風船:でも、そんなことがあり得るのかな。知らないは
ずの屋敷の様子を何の情報もなしに夢に見るなん
てことが。
KEY:不思議な事ですが、今となったら、そうとしか考
えられません。夢の中に現れる
憶としか考えられないのです。
が、管理している現実の屋敷が夢を通じて、過去
の姿を僕に見せているのではないか、と思ってい
ます。
マロ:とりあえずそれは、置いておくとして、何か身体
の不調とかないのかな。大分、疲れているように
も思えるのだけれど。
KEY:はい。目に見えた体調の不良はありませんが、寝
相が悪くなったのか、目が覚めたらとんでもない
恰好になっていることがあります。
風船:まさか、
KEY:そこまで
でひっくり返っていたり、
たりするくらいですよ。
目覚めた時に、ちょっとだけ嫌な気分になる
のことです。
マロ:それならいいのだけれど。あまり夢を
方がいいのかもしれない。無責任なことを言って
しまって申し訳ない。
KEY:謝らないでください。初めこそ、よく分からない
夢を見て
に暮らしていた親族の
で、何だか懐かしい気分になることもあります。
奇妙な
るのだろうとも思っています。
風船:それなら、まあ、よかったのかな。よく分からな
いね。
KEY:特別な悪さをするような夢ではありませんし、問
題はないと考えています。多少は疲れていますが
マロ:くれぐれも身体を大切にしてくれ。これから冬が
やって来るわけだし、体調には気を付けておいた
方がいい。岩手県の冬は寒そうだしな。
風船:
何か困ったことがあったら報告してくれると助か
るな。こう見えて、私達も色々と経験しているか
ら、アドバイスできるかもしれない。
KEY:ご心配させてしまったようで申し訳ないです。も
う少しだけ、
お話に付き合って下さり、ありがとうございまし
た。そろそろ、失礼しますね。また、お会いしま
しょう。
マロ:はいよ。またね。
風船:また会える日を楽しみにしているよ。バイバイ。
KEY:それでは、失礼します。さようなら。
――KEYさんがログアウトしました。
三、
ログナンバー・220625
――KEYさんがログインしました。
KEY:こんばんは。
風船:こんばんは。こんな
珍しいね。さっきまで
みんな、明日は忙しいみたいで眠っちゃったみた
いだね。
KEY:そうですか。
風船:あれから、ちゃんと睡眠はとれているのかな。み
んなで心配していたところなんだ。あれから、し
ばらく会ってないけれど、大丈夫なのかなぁ、て
ね。
KEY:そうですか。
風船:元気ないね。何か困ったことがあったら教えてく
れるとありがたい。私なんかでよかったら、いつ
でも相談に乗るよ。
KEY:ありがとうございます。話を聞いてくれますか。
風船:うん。それで何があったのかな。ちょうど、コー
ヒーを
せてもらうことにするよ。
KEY:また、例の夢の話になるのですが、段々と鮮明に
なってきて、どうしたら良いのか分からなくなっ
てきました。
した。
あるんですね。
風船:真剣な話になるのだけれど、病院に行くことは考
えているのかな。
KEY:はい、考えました。でも、病院に通うわけにはい
かない事情ができてしまったのです。実は先日に
なって就職先が決まりました。非常勤講師として
私立の中学校で
す。
風船:それはめでたいね。でも、それが病院に通えない
理由になるのかな。健康のことを考えると通院し
た方がいいと思うよ。
KEY:いいえ、勤務先に悪い印象を
かないのです。私立学校の非常勤講師は、上長に
良い印書を与えなくては正規雇用されにくい傾向
があります。少なくとも、勤務実績をしっかりと
残せるようになるまでは
います。
風船:そうなのか。それでどんな内容の夢を見るように
なったのかな。まずは、それを聞くところから始
めるべきだったね。
KEY:はい。でも、何から話したらよいのか。気味が悪
くてしょうがないのです。思い出すだけでも、背
筋が冷たくなるのですが、昨晩の夢の話をしま
す。
風船:話しにくかったら無理に思い出さなくてもいいの
だけれど。大丈夫かな。
KEY:いいえ、たぶんですが、僕自身の中で整理をつけ
るためにも、話した方がいいのだと思います。聞
いてください。
風船:ゆっくりでいいからね。
KEY:はい。昨晩の夢は本当に薄気味が悪い内容でし
た。というのも、あの奇妙な
ざと見せつけられたのです。
風船:ちょっと待って。それは確かに自分の遺体だっ
たのかな。見間違いや思い込みではないと断言で
きるのかな。
KEY:はい、断言できます。初めこそ全く意味が分から
ず、誰の
かったのですが、直にこれは僕自身を葬送するた
めの儀式なのだと知りました。
KEY:のっぺらぼうのように顔のない参列者たちが深く
き
スと笑い始めるのです。まるで、何も知らない僕
のことを
ていました。
KEY:
く美しい女性が顔を
に、やがて気が付きました。女性は鈴を転がすよ
うな声で僕にそっと
風船:ちょっと待って。落ち着こうか。
KEY:最後まで聞いてください。その女性は
上げる
を指さして言いました。これは、あなたの
すよ、と。僕ははっきりと覚えています。
KEY:僕は女性の肩を
た。その冷たく整った
ました。誰だったと思いますか。
風船:分からないよ。
KEY:分かりませんか。想像もつきませんか。彼女の正
体は若返った僕の母親でした。数年前に他界した
はずの僕の母親だったんですよ。笑ってしまいま
すよね。夢の中では生と死が転換しているんで
す。秩序なんてものを求めること自体がナンセン
スなんです。
KEY:僕は夢の中では死んでいて、現実には死んでいる
母親から、死を宣告されたのです。生きているは
ずの人が死んでいて、死んでいるはずの人が生き
ている。夢の中では生と死がひっくり返っている
のです。
KEY:夢の中の
返っているのです。ようやく、僕はそれに気が付
きました。僕はひどく混乱しています。もう、生
きているという
風船:病院に行って医者に
う。夢が現実を
よ。
KEY:僕を異常者だと思っているのですか。
風船:違うよ。それは違う。
KEY:別にかまいませんよ。僕自身も気が付いているの
です。これが異常な事態であるということくらい
分かっているのです。僕は
馬鹿じゃない。
風船:うん。病院に行くべきだと思う。危険を
なマネをさせてしまって申し訳ないと思っている
よ。就職先のことに関して、助言らしいことは出
来ないけれど、ここは一度でいいから生活を見直
して、健康を第一に優先させるべきだと思うよ。
あくまでも個人的な意見の
てもらいたい。
KEY:もう、疲れてしまいました。この屋敷に住み始め
てから、何かが狂いだしてしまったようです。呪
いなんてものは信じたくありませんが、不吉な感
じを
いました。
風船:心中を察することはできないけど、それでも心配
だけはさせてね。くれぐれも変な気だけは起こし
てはいけないよ。まずは、落ち着いて、その家を
離れた方がいいと思う。
KEY:この屋敷を離れても夢の
ら考えると怖くてしょうがないです。
うな症状も段々と悪くなってきているようなので
す。目が覚めると別の部屋にいたなんてことも
しょっちゅうあります。
風船:病院に行って、医者に判断を
う。また、元気な姿が見られることを願っている
よ。とりあえずはできることから
いいんじゃないかな。
KEY:はい、泣き出したい気分です。寝ている間に屋敷
内を
そうです。
風船:本当に変な気だけは起こさないようにね。色々と
事情はあると思うけど、時間を掛けて治療すれ
ば、人生も良い方向に転がり始めるかもしれな
い。
KEY:はい。
ますが、今晩は失礼させていただきます。勝手に
やって来て、ベラベラとまくし立ててすみません
でした。
風船:私は大丈夫だよ。無理に話させてしまったよう
で、こちらこそ本当に申し訳ないと感じている
よ。
KEY:いいえ、話を聞いてくださってありがとうござい
ました。さようなら。
――KEYさんがログアウトしました。
四、書置き
ログナンバー・220631
――KEYさんがログインしました。
KEY:もう、僕は
一度は屋敷を離れてみましたが、夢の中の
は依然として、僕を追い回して
る間も
僕はとうの昔に死んでいて、誰かが見ている夢の
中にのみ存在できる
れない。皆様は夢と現実が交錯し、あるいは転換
するような経験をしたことがありますか。
今となっては、僕という存在が
いくような感覚すら
あの屋敷と
るのです。これから、あの屋敷に行ってきます。
皆様とは長い別れとなることと思います。僕は正
気を失いつつあるのでしょう。どうか、あの屋敷
には近寄らないことを約束してください。
そして、僕のことは早々に忘れて下さるとありが
たいです。
KEY:
興味本位で
ります。あの屋敷に
なりません。あれは夢を
です。
僕は僕自身を取り戻すために屋敷に戻るつもり
です。それでは、皆様、さようなら。
――KEYさんがログアウトしました。
五、焼失
ログナンバー・220703
――風船さんがログインしました。
風船:こんにちは。
マロ:こんにちは。
風船:もう、彼の書置きは読んだかな。
マロ:読んだよ。今は報道の方を確認していたところ
だ。
風船:岩手県の
だよね。私も今朝になって知ったばかりなんで
しくはないんだけれど。
マロ:
た屋敷に火を放って、焼身自殺を
は書いてあるな。おそらく、彼のことで間違いは
なさそうだ。そこまで追い詰められていたとは思
わなかった。
風船:彼のためにもっとできることがあったのかもしれ
ないと考えると、悔やんでも悔やみきれないよ。
まあ、今さらどうしようもないのだけれど。
マロ:調べてみたけど、彼はまだ亡くなってはいないら
しい。重症ではあるものの一命を取り留める可能
性はあるみたいだ。きっと、今は
だろう。
風船:そこまで
事に目を通しただけだから、読み落としたのかも
しれないね。そうか、まだ望みはあるのか。
マロ:いや、たぶんだけど、記事や報道ではそこまで
ているというのは、あくまでも直感の
ぎない。
風船:どういうことかな。
マロ:実は昨晩の
話を交わしたばかりなんだ。彼は夢の中から抜け
出せなくなったと言っていた。だから、
している。
風船:それは奇妙な
様子だったのか気になってるんだけど、訊ねても
大丈夫かな。
マロ:まあ、俺の思い込みかもしれないな。現実では一
度も会ったことがないわけだし。でも、何という
か苦しそうだったな。それと、
かないでくれ、と何度も
えている。
風船:あの屋敷には本当に何かが
マロ:分からない。少なくとも、彼はそう信じていたみ
たいだな。彼は何かに取り憑かれていたのだと思
う。それが狂気なのか化物なのかは分からないけ
れど、確かに正気を失うほどに追い詰められてい
た。
風船:あまり、深く
の言う通りに早く忘れてしまった方がいいのかも
しれない。そう考えてしまうのは
な。
マロ:ああ、何だか俺は眠るのが怖くなってきたよ。彼
がまた
て
ちてくれたことだけが、せめてもの救いだ。
風船:私も眠るのが怖くなってきた。
マロ:
風船:正気と狂気の
えようとすれば
る。そして、一度でも向こう側へ行ってしまえば
戻ってくることは難しい。
マロ:夢の中では
ひっくり返ることすらある。彼はそんなことを
言っていたよ。生と死が逆転するとね。
風船:これ以上、この話をするのは
マロ:それには賛同するね。飲み込まれてしまいそう
だ。
風船:今日はこのまま解散だね。
マロ:うん。解散だ。
――風船さんがログアウトしました。
――マロさんがログアウトしました。
(了)
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