二口女
『桃山人夜話・絵本百物語』より
一、疑念
夫である農夫の
寝ても立っても
家に帰れば彼の後妻とその間にできた子が自分のことを心待ちにしていることは知っていた。しかし、それを受け入れるほど彼の精神は
先妻の子を亡くした事実そのものがなかったかのように振る舞う後妻の姿に、
先妻の子が亡くなってから
汗を拭いつつ天を仰ぐと、いつの間にか茜色に染まっていた。
――なぜ、あれの子だけが生き残ったのか。確かに食料は充分ではなかったが、
二、
阿鼻叫喚に包まれた家の様子はまさに地獄そのものだった。
「あのおじちゃんが
どうやら
あれよこれよとしている間に
農夫である
後妻であるナツの怪我は深いものではあったが、村中の者達が懸命に看護した
実りの時節が訪れれば全てが順風満帆に進むに違いない、と村中の者達は
後妻の子が父親である
嫌悪の感情が彼を
三、
怪我が快方に向かうと共にナツは
短く切り揃えられてしまった後妻の髪を撫でながら、暗闇の中で
――自分はなんと
「ねえ、その身体の震えは
ナツは
「ねえ、
「ああ、
背中に走る痛みに堪えかねて
しかし、
「ねえ、
それでも、あの子は
二つの
弓の弦を引き絞るように緊張した神経は異常に耐えることができなかった。
四、低徊
稲が実る時期になっても
――これは
全てを投げ出して妻子を追い出すことは
――
――きっと、俺はこうして
(了)
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