021.おっさん、声を出して笑う
子供たちも寝室に引き上げ、食堂の片付けもあらかた終わった頃、シスターアメリアさんが戻ってきた。
「子供たちは年上の子たちに任せてきました。
いやな空気ですね」
「もう囲まれてますよ。10人以上、ってところですか。
数を揃えて脅すしかできないチンピラ共にも困ったものです」
「大丈夫なんですか?」
「あいつらの目的がデブのおっさん叩き潰して美しいシスターを連れ去っていろいろしたいってところだから、当初警戒してたよりずいぶん楽ですよ。
これが子供の拉致目的だと全員バラバラに塀を越えて侵入してきたりして手がつけられなくなるところなんですが」
「・・・あんまり大丈夫じゃなさそうですね」
「笑えばいいと思うよ」
ここがチャンスと名言をぶっこむ。
誤用はなはだしいし、元ネタばれたらそっちのほうが恥ずかしいわ。
変な声で笑いながら立ち上がる。
ほんと「デュフフ」なんて笑い声が出るんだな、自分の口から。
カバンから木の杖というか『
併用して装備効果が乗るかわからないけど、『解体ナイフ』も腰に挿す。
『
あと、初期装備のフード付きマントも羽織っておこう。
村人装備というかこの人が選んだ装備だから、鑑定でわかる〈防刃〉〈自動洗浄〉以上の装備効果はありそうな。
『幸運の護符』も胸ポッケに忍ばせる。フル装備だ。
村人さんが履いてた靴は靴底が木の板で便所スリッパみたいな履き心地、歩きにくいし激しい動きについていけなさそうなので、ここは靴底がゴムの登山靴に軍配上がるかと。
女神様に軽くお祈りをして、ケーキ屋『スイングガーデン』の『ミルククリームロールケーキ』を1本お供え。
『無事屋』の系列だからと無事を祈って。
状況を開始する。
「状況記録魔法による録画を開始する。」の意。
この言葉すごく嫌いだ。
ネットの掲示板で「日本語おかしいだろ」と言ったら、なんかフルボッコに遭ったことも含めて(大和田タモツ氏談)。
「僕が出たら鍵かけてください」と一方的に告げて、教会建屋の正門から出る。
なにやら敷地の外が騒がしくなってきた。
狙撃とか魔法が飛んでこないかとか警戒してるけど、まだ攻撃してくる気配は無い。
敷地内、前庭で迎え撃つ予定だったけど、このままだと門扉壊されそうな予感。
仕方ない。道路まで出るか。
通用門から出ると、早速5人ぐらいに囲まれる。
やいのやいのと大騒ぎだ。孤児っ子回転寿司よりにぎやかだ。
「てめえがデブか!」
はい、まあ私がデブですが。
そんな頭悪い発言されると笑ってしまいます。デュフフって。
20前後の若者がイキって凄んでみせても、思ってたよりかわいいものだ。
思えば自分の半分ぐらいしか生きてない奴等なんだよなあ。
怪我だけじゃなく命がかかってるような危機的状況なのに全然そういう気分じゃない。
見覚えのあるでかいのが走ってきた。
肩に包帯巻いてるけど、滲んだ血の染みが見てるうちに広がっていく。
「やぁっと見つけたぞクソデブ! 殺してやるから覚悟しろ!」
「はぁ・・・」
やれやれとため息を吐く。
「デブに負けたからって人数集めてお礼参りですか。
大きいのは体と威勢だけで肝っ玉も股間の玉も小さいですねえ」
「うるせぇハゲ「ハゲてないし!!!」
ついうっかり声をかぶせてしまう。
額の領土拡大について気にしたことは無い。ただのネット掲示板のノリ。
「てめぇは絶対許さねえ。楽に死ねると思うなよ!
ついでにあのシスターは壊れるまで回しまくって、泡風呂に沈めてやる」
俺、動く。
「ぐぅっ! てめぇ卑怯だぞ!!」
「教会には手を出すな」
冷めた声で告げる。目から光が消える(自分のイメージ)。
やだかっこいい!(自画自賛)
不意打ちのタイミングは会話中ずーっと計っていた。
“シスター”の単語が出たタイミングで、すっと『
殺気も何も乗せず、ただ差し出すようにごく自然に(自分イメージ)。
ヒットする直前に力を込め、包帯巻いてる肩口に全力で突き込む。
鉄木の黒に近い濃茶色がうまく夜闇にまぎれて不意打ちは成功した。
「てめえら、このデブを仕留めろ。殺してもかまわん」
その命令を聞いて、ざっと10人ほどが俺を囲む。
まだまだ集まってきそう。
さあ、本番はここからだ。
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