018.豚の実力

「こんにちわス。今日も来ました」


「あ、タモツ様。今日もご拝覧いただきありがとうございます」


「まずは女神様にご挨拶を」


「どうぞ、こちらに。

 タモツ様の熱心な信仰心、必ず女神様に届きますよ」



 いやぁ、なんか間がもたないからちょっと手を合わせてるだけなんですけど。

 女神様の像の前で手を合わせながら考える。



 やっぱりこれだよな、『解体ナイフ』。

 さすがにここで、女神様の前で物騒なものを出すわけにはいかない。


 戦闘になったとき、無我夢中だったけど思うように体が動いた。いや、自分が考えるより早く、体のほうが先回りした感覚。


 ゲームっぽく、「装備すれば能力が上がる」と考えるのが一番しっくりくる。

 現に、〈Str+5〉のアクセサリとか流通してるし。


『解体ナイフ』を〈鑑定〉してもよくわからないんだよなあ。

〈死体特攻〉〈弱点看破〉〈回復阻害〉がついているのは見える。スキルが3つもついているので素晴らしい逸品であることには間違いない。


 ちなみに、《召喚》でもう1本呼び出すことはできなかった。

 MPえむぴー的に、1品というか1日に金貨10枚100万円ぐらいが限界みたい。

 異世界のものは安いものと高いものの差がすごいので、ちょっといいものは割に合わない感じがある。


 さらにちなみに、魔石も《召喚コピー》できなかった。これができれば換金するだけで生活できるんだけど。

 金貨とか紙幣とかの《召喚》は駄目だよね。そんな感じの手応えの無さ。

 古銭とか10兆ジンバブエドル紙幣とか、額面が貨幣価値から外れたものは召喚できそうな気がする。


 完全に装備品頼りだけど、荒事になってもなんとかなると思っている。

 問題があるといえば、「刃物で切ったら血が出る」んだよねえ。


 血を見ると、胸がキュンとしちゃいます





 ちょっと長くなった“お祈り”?を終わらせ、金貨1枚を奉納する。

 大盤振る舞いすぎる気はしているけど、孤児っ子ちゃんたちの笑顔に変わるなら高くはない?


 施設の運営じゃなくこの街の支部とかもっと上に集められて、えらい人の懐に入っているようなら現物支給に切り替えるが。


 とはいえ数日では孤児っ子ちゃんたちの顔色には出ないか。

 シスターがまともに“堅実”なら、「わーい10万円の臨時収入があったよー、今日は廻らないお寿司で豪遊だー」みたいな即日使い切る流れには早々ならない。

 ほんとに苦労してるならそれだけ財布の紐は固い、と思う。




「ところでシスター、お昼って何か食事出したりするんですか?」


「うちは普段、朝夕の2食ですね。

 一般のご家庭だと1日3食のところも多いですよ」


「昼と夜、用意はできてますので食事を提供させていただいてよろしいですか?」



「え、よろしいのですか?」


「女神様に金貨1枚ぐらい奉納できる財力ありますし。

 みんなが喜んでくれるならこちらも嬉しいものですよ。」



 そんなわけで食堂にちょっとしたセッティングを。


 椅子が並んでて20人ぐらい座れる大きい机の3ヶ所に水・お茶の2Lペットボトルと紙コップ、使い捨ての紙おしぼりをひと山づつ。


 大机の下座のさらに下、ドアと通路から邪魔にならないところにいつもの折りたたみ机をふたつ並べてセット。





 シスターが呼んでくれたのかお子様たちが続々入ってくる。


「ひとりふたつまでだよー」と声をかけながら、机に並べた回転寿司の皿を渡していく。


 おいなりさん、玉子、あなご、カルビ、コーン軍艦に海鮮マヨサラダ軍艦、いくら、うに。

 あと納豆。



 全員揃ったのか、シスターが最後に2皿持って席に着く。

 そのタイミングで軽く説明する。


「これは手で持って食べるから、これで手をきれいに拭いて。

 1枚で足りなければどんどん使って」


 紙ナプキンのビニールを破って見せて使い方を説明する。



「おかわりはこっち、扉側から並んで持っていってね。

 振り返ると後ろに並んでる人とぶつかるから、止まらないようにこっちに抜けてね」



 話しながら腕をぐるんぐるんとまわすジェスチャーを入れる。伝わるかな?


 説明し終わった空気を読んで、シスターアメリアさんが後を引き継ぐ。



 神様へ感謝の言葉をみんなで斉唱し、最後は静かに手を合わせて「いただきます」。


 世界線を越えて全人類共通なのか異世界語翻訳がいい仕事してるのか。





 最初のおかわりは少し遠慮気味に、子供たちの中でも比較的年齢高めの男の子がふたり一緒に。

 年齢高めと言っても7~8歳、小学校低学年程度。



「2皿づつだぞ。ちゃんと席につけよ。立ったまま食べるなよ~」


 軽い口調で注意を追加する。



 最初のふたりの様子を見て、みんな列に加わり始める。

 女の子は悩みたがるけど、後ろから押されて流されて選びきれずにしぶしぶ何かを掴んで離れる感じ。


 男の子サイドは迷い無く肉握りだ。大人気なんてもんじゃない。



 案の定、席に戻ることなく立ち食いでそのまま列の後ろに並ぶ子も。

 バーゲンセール、おばちゃんの戦場みたいになってきた。


 人力回転寿司、ロリショタ大回転だ!

 これがやりたかった。大満足。



 でもそれでも、列に割り込んだりケンカが始まったりしないのはここが“教会”孤児院でシスターがしっかりしてる人徳なのだろう。




 30分もしないうちに流れは落ち着く。

 いちばん食べたのはやはり最初におかわりに来たふたりで、10皿をちょっと越えたぐらい。


 流れを見ながら皿を並べているので、残ってるのはほぼ各種1皿づつ。


 いちばん不人気は『うに軍艦』でした。『納豆』は罠で仕込んだつもりなのに案外みんな普通に食べてた。

 こちらの世界にも何か似た食材あるのかな、って思うぐらい。


 それより磯の香りが強い『うに』のほうが手が伸びなかったのかなと。




 さて、豚の実力見せてやるか。

 食べない豚はただの豚だ。


 1皿2貫づつバクバクガツガツとたいらげる。

 その早さに孤児っ子ちゃんたち開いた口がふさがらない。


 ものの数分、見てる間に10皿ちょっとが消えてしまう。

 なにかを競ってた最年長コンビと目が合ったので親指を立ててサムズアップ。



 ウーロン茶で流し込んで大満足(2回目)。



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