016.おっさん、拉致される

 突然始まったメイドさん相手の商売をやってると、「何をしているのですか!」と厳しい声が飛んできた。

 若いメイドさん達が散ってしまった。残念。


 当主の奥様だろうか。美人だけどちょっときつめ、苦手なタイプだ。

 うしろにいたご婦人と目があったので軽く会釈する。なに公爵だっけ、公爵夫人。



 当主夫人、辺境伯婦人の俺を見るうさんくさげ、追い出したいという空気を公爵夫人が読んでくれない。


 ぐいぐい来る。

「先日のおいしいものは今お持ちではありませんか?」


「もちろんご用意しておりますよ」


 机に広げられている甘味類を手で示す。



「あらあらあら、見たことの無いものもありますわね」


 公爵夫人のテンションは相変わらず高い。頭ごなしに話を進められて当主夫人のイライラがちょっとまずいところまできているかもしれない。



「全部くださいな。あるだけくださいな」


「それはかまいませんが、日もちしないものも多いですしこのアイスとかはすぐに溶けてぐずぐずになりますよ」


「それなのよねえ。あなた、王都に引っ越さない?」



「いいですね、それも考えておきますが、今ちょっとここを離れられないんで」


「王都に店を構える予定とかあれば手を貸しますのでぜひともお声掛けください」


 そういってペンダント的なものを渡される。

 ほんのりあたたかい。



 女性の体温でドキドキしている下品なおっさんを置いて、辺境伯夫人と執事さんがめっちゃ驚いてる。


「イザベル様、それはあまりにも身に過ぎた扱いでは」


「悪い人じゃないわよ。

 あなたもそう思うでしょ、バッセス」


 執事のひと、セバス・チャンさん(仮)じゃなくバッセスさんなのか。

 語感が結構似ている。



「この紋章を見せれば、王都でも他の街でも自由に行動することができるわ。

 私の賓客の扱いなら子爵ぐらいの扱いで迎えてくれるはず。


 時間があるとき、いつでもルミエスタの公爵別邸へ遊びにきてくださいな。

 屋敷の者には伝えておきますので、ぜひとも」




 はからずも大貴族さまとの太いパイプができてしまった。



 辺境伯夫人の目が厳しいので少し居心地が悪い。

 公爵夫人との商談を進める。


 伝家の宝刀、ケーキ10種詰め合わせを2箱どん!


 甘味はほんとに30倍で売れるんだよ。

 ショートケーキ500円が大銀貨1+銀貨5、だいたい1万5千円になる。

 100円が3,000円になるのはギリギリ許容できたけどこれはひどい。


 ぼったくりすぎて胃が痛い。

 でもクリームやフルーツの質の高さ、保管方法(必要なときに召喚しているだけだけど)などを考えるとこの値段も妥当なのかもしれない、と自分を説得。



 先ほど思いついた技、〈鑑定〉魔法を〈灯火〉で通して可視化する方法でこの値段が妥当だと懸命にアピール。


 見せるまでもなく言い値で納得されているが、俺のほうが申し訳なさで倒れそう。



 少しどころではなく色をつけてもらって、1箱金貨2枚、ケーキ1個2万円計算だ。


 あと公爵別邸に部屋を用意してそこで暮らしてもいいと提案を貰う。

 囲い込む気マンマンだ。


 すごくいい話だけど、それは「仕入れで走り回ってますので」とやんわりお断り。

〈転移〉はまだバレたくないし、行動に制限のかかる制約は避けたいところ。




 と考えているんだがなあ。


 公爵夫人の押しが強いんじゃ


 公爵家の家紋が入った『紋章ペンダント』を受け取ってもらったし、屋敷の人たちに顔つなぎしたいということで説得され、夕食に誘われてしまった。



 急遽開催ということで先にメイドさんが一人、使いとして走る。

 出発しようとするところをつかまえて、ピザを1箱持たせる。


「これを夕食に10箱ほど提供しようと思います、毒見を兼ねて試食してみてください」と。


 公爵夫人が興味を持つのは想定内というか、ここで1枚出すのも織り込み済み。



 置いていかれてる、無視するような形になっている辺境伯夫人にもおすすめする。

 セバスさんが間を取り持ってくれているが、まだ警戒されている。


 あとはセバスさんに任せよう。

(注:×セバス ○バッセス




 商談もそこそこに公爵別邸へ拉致される。


 20個のケーキをいくつかに分けてどこかに届けようとしているので、なぜか召喚できる2個入り3個入り5個入り用の箱を必要数渡していく。保冷材も多めに出す。


 屋敷にいる人数を確認し、ピザを4人1枚計算で20人に5枚、3種あるのできりよく6枚召喚する。

 縦横4等分を各3等分、12等分にしてひとり3種3切れ計算で用意、出す前にオーブンで温めなおすと良いと伝えておく。




 夕暮れどき、まだほんのり明るい時間に夕食会開始。

 テーブルマナーは詳しくないし恐る恐る周りをみながらついていく感じだったけど、なんとか乗り切った。


 とんでもなく美味しかった、気がするけど、高級フレンチみたいに何をどうやったらこうなるのか全くわからないおいしさ。



 ピザの食べ方を聞かれたので、「庶民の食べ物なんで手掴みでいっちゃってください」と。

 少しの笑いをいただきましたが、おおむね好評。


 甘味ほどの食いつきは無かった。

 くやしいのでデザートにプリンを人数分提供してやった。




 そのまま逃げ切れず、屋敷に泊まることに。

 今日は日本に帰ることを諦めて注文の皿とポーションを作成(召喚)する。


 皿2,000枚以上召喚した上でポーション5本召喚できた。

 体感で皿2,000枚がポーション1本分、転移1回がポーション3~4本分ってところか。



 スマホのスケジュール管理アプリに納入日と納入品リストを記録しておく。






  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「アニキ、出てきませんね」


「いつまで待たせやがんだあのデブ」



「疲れた、傷が痛ぇ。ちょっと休むわ。

 交代要員寄越すから交代で見張っとけ」


「へい」




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