015.お届けものですよ

 自宅マンションに戻ってきた。

〈転移〉で帰れれば楽なんだけどね。連発できないから普通に電車で。


 そういや同じ世界間で〈転移〉やったことないな。コスト安ければいいんだけど。



 クリーニングに出してそのままの、ビニールかかったままの背広をおろす。

 黒に近い紺色の、オールシーズンから冬用の少し生地厚め。

 クリーニング出して折り目がきっちりしたワイシャツ、ひさしぶりにネクタイ。

 革靴もちゃんとしたのをピカピカに磨いて準備してある。


 たまに営業にかり出されたりしてたから、よそいきのピッとした服装は用意している。


 麻の肩掛けカバンに見慣れた自分には、もう違和感無いな。

 冷静に考えれば変な格好なんだけど。




 準備できたし〈転移〉する。

 教会裏から〈虫の知らせ〉発動。明日だな。

 明日なにかありそうだけど、もう少し時間が近づかないと詳細はわからない。




 お昼過ぎ、だいたい予定通りの時間なのでクアルディア伯爵家に向かうとしよう。

 広場から東に向かうと、東門の北側がちょっとした丘になっていてそちらに向かうと壁がある。

 貴族街はその壁の内側なんじゃないかなと勝手な推測。

 伯爵家がどこにあるのか、その先は出たとこ勝負。


 大通り東門前の南側は兵舎や練兵場などの軍事施設になっている。

 かなり広大な土地を使っている模様。



 大通りを突っ切るまではいつもの道、慣れたもの。

「背広のデブ」に珍しさで向けられる視線だけではなく、なにやら不穏な気配も感じるがとりあえずは気にしない。


「気にしない」とか言いながら麻のカバンに手を突っ込んで、解体ナイフを触っていつでも取り出せることを確認。





 昨日歩いた上流街の突き当たり、門番の人に納入書を見せる。

 ここでクアルディア伯爵家の屋敷を聞くと、やはりこの上ここから見える3枚目の壁門のところがルミエスタの役所兼辺境伯のお屋敷とのこと。



 門の内側は人通りがほとんど無い。向こうから馬車が1台向かってきてるだけだ。


 よけなくても馬車がすれ違えるだけの道幅は十分あるけど少し避けて道を開ける。



 すれ違うと思っていた馬車が自分の目の前で止まったことにびっくりする。

 御者、馬を操っていたのはセバスチャンさん(仮)だ。



「タモツ様、お迎えに上がりました」


 なんだかものすごく歓迎されている。

 誘導されるがままに馬車に乗せられて拉致られる。


 小さめの4人掛け馬車だけど、座席が浅いし向かいの席とひざがこぶしひとつ分ぐらいしか開いてない。これは俺ふたり乗れないサイズだ。


 ほんの10分ほどの馬車旅だけどウワサほど揺れなかった。快適。



 セバスチャンさん(仮)、ほんとはなんという名前なんだろう。

〈鑑定〉を飛ばすとセバスチャンさん振り向いて軽く睨まれた。

〈鑑定〉で見られたこと分かるのだろうか。


 そういうのがわかるのだと、屋敷の人偉い人貴族様に〈鑑定〉するのは失礼なことなのかもしれない。




 屋敷に入ったと思ったら裏口から食器庫パントリーに案内される。


 広い机の上、ここに出せと目で訴えられた。気がする。



 机に5種50組、250枚を並べる。

 離れたところにいるメイドさん達の驚きの視線は感じるが、セバスさん驚かないな。


「ご確認ください。ひびや欠けがあれば交換します」と伝える。



 が、皿を手に取ることもなく出た言葉が


「これと同じものを同じ数用意するのにどれぐらいかかるだろうか」



 まさかの次の注文だった。



「今この街に持ってきたものはかき集めたので次は少しお時間いただきます。

 同じ量50組なら10日、さらに100組追加なら生産を急がせますので30日、といったところでしょうか」


 転移で往復しなければこれぐらい1日で用意できるんだけどね。

 手札は見せないのが「おっさん」タグ。



 契約の前に、持ってきたお皿をいろいろ並べてみる。

 近くにいたメイドさん2人が寄ってくる。


 追加で8種を、各次回50皿、その次150皿で全種200枚の大量注文。


 客に出す料理のお皿は白に統一したいようだけど、身内で使う分にはこだわりなさそう。


 妙齢でちょっと厳しいオーラのある女性は10皿単位で数種類購入。

 若いメイドさんは3枚づつぐらい。お金を取りに行って戻ってきたとき仲間を連れてきた。


 執事さんもタンブラー買ってたので、こっそりウイスキー小ボトルをプレゼント。

 薄作りのタンブラー、100均クオリティとは思えないほど透明度が高くて綺麗だ。



 なんか女性でわちゃわちゃしてきた。白黒のクラシックなメイドさん大好き属性なのですごくうれしい。


 売れるかなとクッキーやキャラメル、シュークリーム、寿司屋のプリンやカップアイス、タピオカドリンクなどを並べてみる。


 みんなお金持ってるのかバカ売れだ。おいしい。




 なんて商売してると、「何をしているのですか!」と厳しい声が飛んできた。

 若いメイドさん達が散ってしまった。残念。






  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「アニキ、奴で間違いないですか」


「ああ、間違いない。変な格好してやがるがあのクソデブだ。」


「ここで暴れるのはちょっとまずいですよ」


「それはわかってる。が、どこまで行きやがる」




「貴族街に入りやがったな。辺境伯と話ができるってのははったりじゃなかったってことか。


 出口は基本ここだけだ。出てくるまで待つぞ」


「はいアニキ!」



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『クアルディア伯爵』は家名、『ルミエスタ辺境伯』は地名

『吉村大阪府知事』みたいな感じ


 あと、「辺境伯」は「伯爵」と同格同列だけど治める土地の国力が大きくてひとつ上の「侯爵」様ぐらい発言力があるという設定で書いてますけど間違いでしょうか。


「都府知事」と「県知事」の地位と発言力の比較のような

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