014.働け、オタ田!

 むこうとの時差を考えると、こっち18時に出ると昼前に着く。

 辺境伯様のところへは昼過ぎぐらいに向かえば失礼はないだろう。



 というわけでオタ田、小田貴之(おだたかゆき)氏のところへ向かう。


 某大学学生街の外れにある『葦原荘』、いまどき「荘」の文字が似合うちょっと古めのアパートだ。

 他の部屋の住人はたぶんほとんど学生。



「あそびにきたよ」


 挨拶して部屋に入れてもらう。相変わらずモノで溢れている。

 満たされることのないオタクの物欲と自由時間の確保は両立できるのだろうか。




「もっさん、平日に来るの珍しいね」

「ん、仕事辞めた」


 大和田保(おおわだたもつ)、「たもっさん」がいつの間にか「もっさん」に。

 オタ田はゲーム趣味と、名前「おだたかゆき」で「た」が渋滞してるからって「オタ田」と言い出したのはたぶん俺。



「辞めたのか。お疲れさま。

 これからどうすんの?何か宛てがある?」


「異世界行ってきた。日本の商品めっちゃ売れる」



「おお、それ面白いな」


「魔法も使えるよ、〈灯火トーチ〉」


 指先を光らせる。



「……まじかよ……」


「ステータスオープン!とかもあるよ。

 で、ちょっと手伝ってもらいたいなって。これオークションサイトで売って」


 麻のかばんから腕輪を出す。


「仕入れ値1万だから、2万円に届かなかったらおまえ2割、2万超えたら5割でいいかな。

 つまり19,999円だとそっちの取り分4千円。2万だと取り分1万。」



「もっさん、自分で売らないの?」


「あっちの世界に行ってると着信通知来ないからなあ。

 入札者ビッダーあんまり放置したくないし」


「なるほど。

 それはいいけどこの腕輪2万で売れるか?」



「と思うでしょ、〈鑑定アプレイザル〉」



 腕輪に鑑定魔法を通し、結果を可視化する。ゲームみたいに鑑定結果が浮き上がる。


「おお、すげー。」


『力の腕輪ブレスレット〈Str+5〉:大銀貨1枚』



「な。これ、〈Str+5〉ついてるの。

 実際どれぐらい力が上がるのかは知らない。」



『知恵のチョーカー』『敏捷のピアス』を並べる。


「〈Int+5〉とか熱いだろ?」


「いいね、売れる気がしてきた。これドーピング検査とかに出ないんじゃね?

 効果があることわかってれば100万でも出す奴絶対いる。


 物撮りやっぞ、場所変える」



 そう言ってオタ田はどこかに電話かけた。

 話の感じ、どこか予約してるみたい。


 テンション上がると行動早いなあ。ルネッサンス情熱。





 出かけた先はなんか会議室スペースだった。

 部屋に放り込まれてオタ田はどこか行ってしまった。


 こういうのも商売になるんだ。

 なんて考えてたら白い布の箱と照明スタンド持って帰ってきた。


 なるほど、撮影スタジオにも使えるんだ。



「へ~、いいねここ。こういうところよく使うの?」


「営業とか打ち合わせのときとかにね。ほとんど客先に向かうからいいんだけどたまにどうしても当方で打ち合わせって話になったとき、あの部屋に呼ぶわけにもいかないっしょ」


「なるほどね」



 なんて話をしながら撮影セットを整えていく。



 近況報告という雑談をしながら撮影を進めていく。〈鑑定〉の可視化がデジカメで撮れることがわかったので、信憑性ちょっとは上がるかな。


 7種7品をいろいろな角度で撮りまくってたら2時間ぐらいかかった。




 16時、ちょっと早いけどオタ田を晩メシに誘う。

 とは言っても「はっぱ寿司」、回転寿司チェーンの大手だ。


 寿司ネタそのものなら、ちゃんと回らない系のカウンター寿司屋に行ったほうがいいんだけど、今日の目的はそっちがメインじゃない。


 1皿取って、召喚リストに入ることを確認。

 デブの食欲というか皮算用はもう止まらない。


 大トロや鯛、ハマチなんかを挟みつつマヨコーンや海鮮サラダなんかの変り種、赤だしや茶碗蒸し、天ぷら盛り合わせはもちろん、フライドポテトやオニオンリングなどの揚げ物、そしてラーメンやうどんなど。



「よく食うなあ」


 オタ田に軽く呆れられる。



「フードファイターとかになれるんじゃね?」


「テレビで見る一皿どかん、みたいなチャレンジメニューはあんまり好きじゃないし動画サイトでもデブのおっさんが食べるだけって需要ないでしょ」



 実際寿司って飽きるんだよ。

 店に入るときは50皿ぐらいいける気がしてるんだけど、酢飯の酸っぱさに一度飽きると「丸めた酢飯に切り身が乗ってるもの」1皿に100円出すのがなんか高い気がしてきて、そうなるとそこで止めてしまう。

 そういう日は直後にカレーとか牛丼屋に行って胃を満たす流れ。



 プリンやカップアイス、フルーツゼリーなんかのデザートで満たしてフィニッシュ。

 今日はめいっぱい食べた。チェーン寿司屋で満腹100%超えて詰め込んだの久々だ。




 オタ田を家に送りながら注意事項を補足しておく。


「こっちの世界は魔素的なものが少ないんで、どれぐらいもつかわからないのがアレだけど期限付きということ、たぶん自壊することは相手にちゃんと伝えといて。


 じゃ、そろそろ帰るね」



「家、寄っていかないのかよ。玄関まで送るっててめえ、さては紳士だな!」


 転移ポイント作るために戻ってきただけなのにひどい言い分だ。


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