012.異世界人には日本の甘味が効くようだ

 オープンカフェで紅茶をいただく。とりあえず座りたかった。

 お供はドライフルーツ、まあこんなものよね。いちじくとプルーンかな、干して甘みを凝縮してもあんまり甘くない。


 些事さじは置いといて。



 注文の食器セットを召喚していく。

 思ったよりMP使わない。5種類を各50枚揃えて、まだ少し余裕はある。

 注文数確保することができてほっとする。ようやく心が落ち着く。


 というか異世界間転移がバカみたいに魔力食うのに、それ基準で考えてる自分が頭悪いんだろう。


 あと、日本で召喚するよりこっちで召喚したほうが楽だ。MPの減りが少ない気がする。



 ウエストポーチに入ってたポーションをストレージに〈収納〉。〈召喚〉してみる。

 ごっそり持っていかれた。1本は召喚できたけど2本目を召喚するMPは無さそう。


 さすが『怪我治療薬D:金貨5枚』。

 でも複製できたことには満足。

『病気治療薬D:金貨6枚』『状態異常回復薬D:金貨8枚』とあわせて、MPに余裕があれば頑張って増やしていこう。



 食器の納入は昨日の今日だし早すぎる気がしている。猶予10日貰ってるけど早めで明日ぐらいに伺おうかしらと。


 昨日と似たような場所が取れた。

 今日は昨日と趣向を変えて。


 クッキー3種をテーブルに並べる。小皿をクッキー箱の前に並べて、試食用に各種1枚を4等分に割る。

 今日はこれがメインだ。


 メーカー品の中でも最安値級に安い、スーパーで1箱100円前後のやつ。

「個包装」とか言いながら容量半減したイメージ。


〈鑑定〉さん設定では各種銀貨3枚を銀貨2枚に価格設定してみる。

 キャラメルは昨日銀貨3枚で売れたからなあ。考えたけど値段据え置き。

 あと机に並べるは着火スティックぐらい。



 値段下げたからなのか服装のせいなのか、今日はお客さん多いな。

 昨日見た気がするご婦人はキャラメル目当てだったみたいだけどクッキー試食して全種ご購入。

 全種ご購入コンプリート特典にシュークリームひとつプレゼント。



「生ものですから今すぐにでもお召し上がりください。すぐ痛むんでこうやって屋台販売できないんですよねえ」


 包装を開けるのになんのためらいも無かった。ビニール包装慣れてるのかな。

 俺より年上のご婦人だけど品があって美しい。こういう歳の重ね方っていいよね。



「これ、いくつかいただけないかしら?」


 もうひとつ〈召喚〉して〈鑑定〉で値段確認。銀貨4.5枚か。


「銀貨4枚で「10個ください!」


 かぶせるように食い気味にきた。大銀貨4枚を小切手決済。

「ラマノール公爵家」か、公爵って伯爵より上だよなあ確か。

 お供とか護衛の人みたいなのいなくて一人で歩いて大丈夫なのかな。


 レジ袋に10個入れて、保冷材を3個ほど。これは食べられないから捨てるように言っておく。





 昨日よりはにぎやかだけど、なんだか違う。

 俺が異世界でやりたかったのはこういうことではない!?


 売ること金に替えることは誰かに任せたい。

 買い取りしてくれる店とか雑貨屋さんの一角貸してくれるところとかないものだろうか。



 客が途切れたタイミングで店終いする。

 銀貨で100枚も売り上げれば十分だろう。



 いずれ店も構えてみたいけど、定住するよりはもう少しこの国、この世界を旅してみたい。


 そもそものきっかけになった《召喚》魔法も、ダンジョンの中で化け物相手に戦ってたみたいだし。

『冒険者』とかエルフやドワーフなんかの『ファンタジー人種』、『ダンジョン』なんかも見てみたい。


 この街にも『冒険者ギルド』あるんだよな。ゴクリ

 冒険者ギルドがあるってことは護衛依頼だけじゃなく採取とか魔物討伐とかあるんだろうか。

 城壁の外に農地や家が無いということは、そういうことなんだよね。

 日常的に命を脅かす系の魔物が城壁のところまで来るという。


 そんなことをぼんやり考えていた。

 冒険者の件はとりあえず置いといて、まずはこの街を制覇だ!






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「で、クソデブ見たのはこのへんなのか?」


「は、はいアニキ。言われたとおりの姿の黒髪デブ、ここで店やってました」



 大柄な男性は裸の上半身に包帯をグルグル巻いている。無理に動いたからだろうか、肩口を汚す血の染みはまだ鮮やかに赤い。


 先導する貧相な男は大男の出す、まるで湯気が上がっているように見える怒気にあてられて泣きそうだ。




「おいそこの! ここにいたデブどこに行った!?」


 茣蓙ござを敷いて雑貨を並べている老人に詰め寄る。


「さあてなあ。ついさっき片付けて立ち去ったよ。

 まだこのへんぶらついてるんじゃないかね。


 軽く話はしても名前も知らない関係だ。

 この街には来たばかりのようだし、宿屋通りのほうに行けば会えるじゃろ」



 さすが年の功というべきか。大男の怒気もなんのその、平気な顔で話を流す。



「クソ!」


 その応対が気に入らなかったのか怒りをぶつける先がなかったのかはわからないが、老人の並べている商品を蹴り散らかす。



 周囲から悲鳴が上がる。すぐに近くを巡回していた警備兵が走ってくる。


 大男は舌打ちして血が滲む肩を押さえながら早足でその場を離れていった。

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