008.あたらしいせいかつがはじまります
会社を出る。
振り返り、見上げる。
数年前に引っ越した、複合ビルの1フロア。
感慨深くもあるが、なんだかさっぱりすっきりしたという気分のほうが強い。
ビジネスバッグから〈収納〉機能付き異世界かばんを取り出し、ビジネスバッグを突っ込む。
ジャケットを脱いでネクタイを外し、ボタンをひとつ外すと男の服装なんてそれでカジュアルだ。
ナチュラルな麻の肩掛けかばんもこれならあんまり目立たない。
これ以上気にするのは自意識過剰でしょ。
100円ショップで柄の無い白い皿やガラスコップなどを10枚単位でカゴいっぱい買い込む。重量で買い物かごが
着火スティックも売れるかな。あるだけ買ったれ。
梱包用の新聞紙で
なぜか感じる罪悪感。誰も見てないよ、気にするな俺。
キャンプ用品店で折りたたみの机と椅子を買う。いちおう木のセットで揃えてみた。
あと、大事なこと。登山用のトレッキングシューズが欲しい。
もちろん?ナチュラルな皮製品に見えるようなのを。
異世界で履いていたブーツは〈回避上昇〉とかの恩寵がついていたけど、固い靴底が分厚い木の便所スリッパみたいで嫌だったんだ。
もうひとつ、なんとなく考えていた「異世界人は甘味に飢えている」という勝手な決めつけと言いがかり。
砂糖そのものを売るのはなんか既得権益に引っかかるとまためんどくさいことになりそうだし、お菓子の中からキャラメルを選んでみた。
チョコだと炎天下で売るのに溶けそうだし、ガムも食べ方知らないとすぐ飲み込みそうだし。
ビスケットとかはありかな。
10個入りを6セット、棚の奥にあるだけ引っ張り出してやった。
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教会の裏手に〈転移〉して、正面玄関から教会に入る。
女神様に手を合わせてからキャラメルを3箱お供えする。
さすがに連日で金貨1枚は無理。大銀貨1枚ならいけるか。現ナマ(こっち世界)の弾数が足りないぜ。
神社の賽銭箱に万札入れる感覚だけど、孤児っ子ちゃん達の血となり肉となるのならばもったいなくはない。
掃除していた孤児っ子ちゃんと目があったので手招きする。
キャラメルの箱を開けながらしゃがんで目線を合わせ、「あーっ」と口を開ける。
孤児っ子ちゃんも真似して口を開けたのでキャラメルを放り込む。
ちょっと驚いて、すぐに顔がとろける。かわいい。
黄色地の箱に描かれている天使の柄を指差して見せてから石像の女神様を指差す。
頭を軽く撫でて、「みんなで食べてね」と伝えておく。
背後、周囲からいくつもの視線を感じる。が、おまえら掃除サボってただろ
教会の正門前で〈危険感知〉魔法をかける。しばらく、少なくとも日暮れまでは問題なさそうだ。
もうひとつ頭に浮かんだ〈虫の知らせ〉の魔法もかけておく。発動してからわかったけど、これは例の『幸運の護符』装備で使える魔法っぽい。
万全を期して、まあ万全かどうかはわからないけどこれでなんとなく安心。
ハンパな時間に広場に来ると、まず場所取りが大変だ。
噴水広場から東西南北に石畳の道が伸び、そこでは商品を広げない「お約束」のようだ。
街道から2~3歩内側に
お客さんが立ち止まったときに道を塞がないように配慮しているのだろうか。
客としてふわりと歩いた前回とは見るところが違う。
メインストリートから1本入ったわき道、そこでも荷車が通れるぐらいの通路幅はある。
本来は倍、荷車がすれ違えるぐらいはあるんだけど、両サイドのお客さんが足を止めるから実質半分のこの幅に。
屋台のオープンサンドをかじりながら場所取りのために物色する。
前回の古物売りみたいなおもしろいもの売ってるような人いないなあ。
だいたいの相場を気にしながら見てるけど、〈鑑定〉さんが喜ぶような値段差のあるものも見当たらない。
通路かと思ってその空間には触らず見逃してたけど、後からきたおばちゃんが茣蓙敷いて土地確保してしまった。わからねえ
いい塩梅に店終いしてるおっちゃんがいたので「次ここ使っていいですか」と聞くと、「俺が決めることじゃねえ。勝手にしろ」と。
自由だ。
これで深刻なトラブル起きないのは、さてはここの住民全員A型だな。
空いたスペースに机・椅子を組み立て100均の皿とカップと着火スティックを並べる。
値段設定は〈鑑定〉さん任せの定価表示、まあ半額までは値引きに応じますよというスタンス。
100均皿は〈鑑定〉さん的には『異世界で量産された食器、品質のばらつきがなく安定している』と。評価は高い。
おっさん的には居酒屋とかで100均皿使ってたらすぐにわかるので、そういう店は評価☆ひとつぐらいすぐに下げるものだけどなあ。
着火スティックをひとつお試し用に開封、キャラメルも試食用に開封して自分でひとつ試食。
うむ。うまい。
警戒されているというか、お客さんがなかなか寄ってこない。
最初から大行列、大騒ぎのバーゲンセールになるとはもちろん思ってない。
1時間ぐらいで話ができたお客さん3組かな。あんまり激しい値切り交渉にならないのは〈鑑定魔法〉が思ったより普及しているからだろうか。
戦果はタンブラーが1個、銀貨8枚。着火スティックが1個、大銀貨1枚。
お買い上げのお客様にはキャラメル1個(バラで)プレゼント。
エサで釣ってキャラメル1箱銀貨3枚が釣果100%。300円ならそんなボってないよね?
なんとなく気付いたけど、今日の
しかも太いし、これは貴族とか上流階級に見られてる?
でもいまさら着替えるのもなあ。
今日は服装で失敗したということで早めに切り上げるかな。
今さらどうにもならないと割り切って、着火スティックかちかちして遊んで客を釣る。
15本買った着火スティックが半分以上売れた。
中の液体が無くなったら使えなくなる説明を繰り返すのがだんだんめんどくさくなってきている。
これだけで大銀貨8枚、8,000円か。
大銀貨10枚で金貨1枚の
思ってた感覚の10倍高い値段でボッタクリ販売してるのか、金貨が1万円なのか。
あるいはその中間なのか。
やばいな。
まあ〈鑑定〉さん頼みの値付けで、この値段で買って行く人がいるんだから適正価格なんでしょ。
100円ショップでで買ったものだからと200円300円で流しても利益出るけど、俺から買ったものをそのまま転売されるのも気に障るから、この値段でいいか。
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